72.次は本番でよろしく!
「そろそろ終わろっか」
「うん」
あれから30分ほどバレーボールを続けていた二組。いつのまにか空は薄橙に変わっていた。
「今日はありがとう、急に声かけたのに混ぜてくれて」
「こっちの方こそ、楽しかったよ」
マオがカバンを背負いながら笑顔で返事をする。
「本番では負けないからね!」
サツキが拳を前に突き出してニコリと笑う。マオは一瞬目を見開いて驚いた。
「うん!本番では私たちが勝つよ。ね、アリサ」
「そうだね」
あんなに動いていたのに、どこか気品さえ感じる佇まいのアリサが頷いた。
「それに、今日でサツキちゃんとナギちゃんのデータ入ったし」
「えぇっ……」
アリサの静かな声にサツキは大袈裟に反応した。
「うう。こんなことならやらない方がよかったかな……。いやいや、こっちだってデータ取れたもんね!……ね、ナギ?」
「えっ、私!?」
サツキが突然の丸投げをするのでナギは目を丸くする。
「ふふふっ。冗談だよ。そんなデータなんてすぐ取れるわけないでしょ」
アリサが口に手を当ててクスリと笑う。サツキは安心してホッと息を吐く。
「びっくりした。アリサちゃんが言うとなんか本当のことみたいだよ」
「うん。アリサちゃんならできかねない感じがする」
ナギも頬を掻きながら苦笑いする。
バレーを通していつのまにか苗字にさん付けで呼んでいた関係性が、名前にちゃん付けで呼び合う仲まで縮まっていた。
「私ってどんなイメージ……」
「アリサは聡明そうなんだよ、きっと」
「そうそう、そんな感じだよ」
「……そっか」
アリサは下を向いたあとニコリと静かに笑う。
「じゃあマオ、私たちは生徒会室の戸締り確認してから帰ろっか」
「そうだね。青山くんがまた閉め忘れてたら困るもんね」
マオは腕を組んでうんうんと頷いている。
「それじゃあ、私たちは先に帰ろっか」
「そだね!じゃあまた」
「うん。またね」
ナギとサツキは軽く手を振って校門の方へと並んで歩いて行く。アリサとマオも校舎の中へと歩いて行った。
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ぽつりぽつりと街灯がつき始めた町を二人は並んで歩いている。
「いや〜、アリサちゃんもマオちゃんも運動神経よかったね」
サツキが手を頭の後ろにやりぼやく。
「うん。レシーブのフォーム綺麗だった」
「ますますあのクラスが優勝候補だよ。本格的にうちらのクラスも頑張らないと」
サツキは真剣に強敵だと認識し、心の中でゆいちゃんと明日作戦を立てようと決意した。
「そうだね、私もできる限り頑張るよ」
ナギは自信なさげにつぶやいた。その様子をサツキはチラリと見ると軽い口調で励ます。
「でも、ナギ今日のレシーブ前より全然うまかったよ。やっぱ、体力上がってるんじゃない?」
「ほんと!?よかった。嬉しい」
ナギは表情をパッと明るくした。
「実は、少し体力上がってるとは思ってたんだ。この間も魔力が使えない時もののけから逃げられたし」
ナギは得意げにサツキを見る。ナギは穢れ状態になった時に、もののけから魔力なしでしばらく避け続けられたことが実は少し自信に繋がっていた。
「あはは。じゃあ、エースアタッカーは任せたよ。やばい時はナギに上げれば大丈夫だと思っとこーっと」
「そ、それは無理。絶対無理だからやめてね」
サツキが揶揄うとナギは少ししゅんとした。サツキは可笑しくなって笑ってしまった。まるでいつもと逆だったからだ。
「でもさ、アリサちゃんとマオちゃん意外と話しやすかったな」
サツキが少し空を見上げながらつぶやいた。
「うん。まあ一緒に帰った時も優しかったよ」
「そうなんだ。私てっきりさ、アリサちゃんは厳しい感じの人だと思ってた。ガチガチに校則校則〜、みたいな」
サツキが冷やかしたような口調で言う。
「どんなイメージ、それ」
「いや、だって生徒会副会長で真面目な感じするじゃん。見た目も雰囲気もちょっと近寄りがたいし」
「まぁ、確かに……」
才色兼備を絵に描いたようなアリサは男子女子共にファンがいるほどだ。真面目で成績も優秀。憧れる人も多い。
「マオちゃんの方は割とイメージ通りだったかな。話しやすいし……それにちょっとドジなところがある」
今日のバレー練習の時もマオは靴紐を踏んで転びそうになっていた。それをアリサがさっとそばにやってきてサポートしていた様子が記憶に新しかった。
「ふふっ、分かる。なんとなくアリサちゃんの方が生徒会長って感じだよね」
「そうそう。アリサちゃんは生徒会長になんでならなかったのかな?」
そんな話をしているうちにいつもの分かれ道。
「じゃあ、サツキまた明日……いや、後でかな?」
「うん。宿題ピンチだから教えてね」
「はいはい」
純粋にニカッと笑うサツキにナギは苦笑いした。
(今日は、多分ご飯の後に道場でプチ勉強会かな。)
以前までは電話で宿題を教えていたが、今は道場という二人の共通の集合場所がある。最も、本来の使い方は戦闘の技術を上げるための場所なのだが
「勉強というのは鍛錬そのものです!」
という霞の精神の元、勉強をするために使うのも別に悪いことではないということになった。
「じゃあ、よろしくね〜」
サツキは家の方へと走って行った。