71.合同練習?
「ほっ、よっ」
「よいしょ」
放課後、ナギはクラスメイトとバレーボールの練習をしていた。輪になって全員でトスを回し合う練習だ。その中心にはサツキが立って、打ち損じたボールを拾う役目をしている。
「あぁ、ごめん。変なところ行った!」
「任せて、私が拾うから」
低すぎたり、距離が短いボールはサツキが打ち上げる。ミスを恐れずに楽しくできるので、みんな積極的にレシーブできる。結果として、だんだんクラスのレシーブ力は上がってきていた。
「みんな、うまいうまい」
輪の中心で駆け回りながらサツキがみんなを褒める。
「よっと」
「ナギ、ナイスレシーブ!」
ナギもレシーブは少しずつ上手くなってきていた。最初の頃はボールとの距離感を掴めず、変な方向へばかりボールを飛ばすことが多かった。今は真っ直ぐに狙った方向へとレシーブすることができるようになっていた。
「ふぅ、今日はこの辺にしよっか!」
「うん、お疲れー」
1時間ほどで練習が終わり、壁際に置いてあった鞄を持ってみんな帰宅していく。
「サツキお疲れ、帰ろっかー」
「そだね、帰ろ帰ろ」
二人も荷物を持ち、校門へと向かう。
「おっ、あっちもやってるね」
帰る途中小さな広場で、二人でバレー練習をしているアリサとマオが目に入った。普段は生徒の規範になるよう、この学校で誰よりも制服をしっかりと着こなしている二人。今日は、上下ジャージで運動モードだ。一人が軽くサーブを打って一人がレシーブをあげる。それを交互にやっているようだ。
「うわー。動きにキレがあるなぁあの二人」
サーブをして返しているだけなのに上手いということがすぐにわかった。
「楽しそう……ねぇ、私たちも混ぜてもらおうよ!」
「えっ?」
「ナギは疲れてるんだったら先帰っててもいいよ」
サツキが言い切る前にもう二人の方へと駆けていく。
「あっ、待って!」
ナギも慌てて駆け出す。
「あのー、二人ともよかったら混ぜてくれませんかぁ」
「へっ?」
二人は手を止めて、マオはポカンとした顔でこちらを見ている。
「サツキ……急には迷惑だよ。他のクラスだから見せたくない二人のやりたい練習もあるかもしれないし」
「あっ……そっか。ごめんなさい。なんか二人の練習が楽しそうで、つい」
「ううん。大丈夫だよ」
サツキは頭をかきながら謝った。サツキは時々楽しそうなことを見つけると突っ走ってしまうところがある。
「えっと、確か佐倉さんだったよね」
「はい。この間はありがとうございました」
ナギは軽く頭を下げた。サツキと喧嘩して貧血気味になった時に家まで送ってくれたことを改めて感謝した。
「えっと、そっちは……」
「夜野サツキっていいます。こちらもこの間はどうも」
「……あー……あー!あの時凄い勢いで走って行った子だ」
マオは少し考えて、サツキのことを思い出した。
「邪魔してごめんなさい、私たちはこれで帰るので」
「いやいや……せっかくだからみんなで少しバレーボールの練習します?」
「いいの?」
「うん。球技大会は各クラスの交流の意味もあるから。もちろん、真剣勝負であることには変わらないけど」
生徒会長らしく、球技大会の意義を得意げに説明するマオ。その姿はどこか抜けているところもある。
「アリサ、いいよね?二人も一緒にやって」
「うん、別にいいんじゃない。二人だけだとできる練習も限られてるし」
落ち着いた雰囲気を纏うアリサがボールを抱え、マオの方へと歩いてくる。
「決まりですね。じゃあやりましょう、佐倉さん夜野さん」
「やったー!やろやろ!」
サツキは肩からカバンを下ろし、壁に素早く置いた。ナギもそれに続く。
「それじゃあ、どうしようかな……」
アリサがどういう風に練習をしようか考えている。
「じゃあ私とナギのチームと雪村さんと五十嵐さんの2対2でやるっていうのはどう?」
「わかった。ただここは狭いから、スパイクはなしで3回でトスで返すルールにしよう」
アリサが静かな口調で言った。
「よーし、ナギ頑張ろう!」
「う、うん。でも向こうは二人とも運動得意そうだよ。大丈夫かな?」
ナギが不安そうに呟く。
「大丈夫!今日は練習なんだし。楽しんでこうよ」
「……そうだね。今日できなかったら明日頑張る」
「二人とも、準備はいい?」
マオがアンダーサーブの構えをしながら手を振っている。
「はい!いつでも」
「それじゃあ、行くよ!」
マオが勢いよくボールを打ち上げる。ボールはゆっくりと弧を描きナギの元へ。
「よっと!」
「ナイスレシーブ」
「やった、できた!」
サツキが繋ぎ、ナギは三球目でしっかりと向こうへと返した。
「マオ」
「わわっ。うん!」
「……っ」
マオとアリサも安定感のあるレシーブで返してくる。
「あっ、ごめんサツキ!」
「大丈夫!」
ナギが打ち損じて打ったレシーブをサツキがジャンプし、片手で向こうへと返す。予想外の方に飛んできたマオは反応しきれずに落としてしまった。
「わぁ、夜野さんすごい!」
「えへへ」
マオに褒められて少しサツキは得意げだ。
「よーし、もう一球いくよ!」
「うん」
ほとんど初対面だった二組は、いつのまにかサツキの持ち前の明るさとバレーボールを通して少しずつ打ち解けていった。