68.ナギは普通の女の子
「ナギ、サツキちゃん」
先に、霞と十六夜が到着していた。
「遅くなってごめん」
「い、いえ……二人ともすみません。その……球技大会の練習の邪魔をしてしまって」
霞が申し訳なさそうに下を向いている。霞はナギたちの学校生活の邪魔をなるべくしはしたくない。
「霞が謝ることじゃないよ!」
「そうそう。悪いのはもののけなんだから!さっさと鬱憤ばらしに全部やっつけにいこう」
二人がそういうと、霞は少しだけ顔を明るくした。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
二人は気配を感じる方に指輪を向ける。すると禍々しい渦が現れた。
「気を引き締めて、行きましょう」
ナギとサツキは頷き、渦の中へと足を踏み入れた。
ーーーーー
いつも通り中はおどろおどろしい木々が生え、不気味な風が吹いている。
「サツキ」
「うん」
二人は頷き、指輪を空へ掲げる。
「「"魔装"」」
二人は光に包ままれ、光が消えると魔法装束に身を包んだ。
「奥から感じる気配はそこまで強いものではありませんが、油断せずに行きましょう」
霞は真剣な声で言うと、刀の姿に変わった。それを見て十六夜も無言で刀の姿へと変わった。
二人は鞘へと納めて奥へと歩みを進める。
「ねぇ、十六夜。なんか機嫌悪い?」
十六夜の態度が変なので聞いてみる。
「別に、なんでもないよ」
ぶっきらぼうに十六夜が返す。
「十六夜、お団子のおかわりを買おうとしている時だったので……」
霞がぼそりと呟く。
「あー成る程……通りで」
サツキは少し目を細めて揶揄うように背中に背負った刀を見る。
「なんだい、その目は」
「終わったら買いに行こう。早く倒したら間に合うよ」
「……ま、そうだね」
サツキの言葉に十六夜は少しだけ機嫌を戻した。
「十六夜とサツキちゃん、上手くやっていますね」
「ふふっ。そうだね」
霞はナギにしか聞こえない小さな声で呟いた。
ナギは、二人の様子が微笑ましいと同時に、霞も昼に遊びに行くことが増えてきていて嬉しくなった。
ーーーーー
だんだんと、もののけの気配が近づいてきたことを感じる。
「サツキ、そろそろくるよ」
「うん、わかってる!」
十六夜の冷静な声にサツキは明るくも真剣に返事する。
すると、奥から小さなもののけの群れが現れた。
「きた!行くよ」
サツキがそういうと同時に駆け上がり、手裏剣で小さなもののけを確実に片付けていく。
「炎の術!」
さらに火を使ってどんどんと数を減らしていく。
「私たちも行くよ、霞」
「はい、動きの鈍った大きいもののけを片付けましょう!」
ナギは刀に魔力をこめた。技を使わずとも魔力をこめた霞は小さなもののけなら一撃で倒すことができる。
「たぁ!」
サツキが手裏剣や術で倒しきれなかったもののけを次々に片付けていく。
「あとちょっと……」
その時、上から黒い煙を纏った何かがナギにぶつかった。
「きゃっ!」
ナギは咄嗟に避けたものの、腕を掠め尻餅をついてしまった。
「ナギ!大丈夫ですか?」
「う、うん。なんとか……」
ナギは立ちあがろうとした時に違和感を覚えた。
「あ、あれ……。なんか力がでない」
ナギは受けたダメージを回復しようとするが、魔法が発動しない。
「えっ、なんで……?」
ナギは虚な目をしていた。
「これは……どうしてこんな小さなもののけが」
霞の声は震えていた。
「どうしたの、霞」
「ナギ、穢れ状態です」
「穢れ……状態?」
ナギは虚な目のまま首を横に傾げる。
「もののけの強い邪気を受けることで、力が封じられてしまうんです。……今、ナギは一切魔力を使うことができません」
「へっ……嘘でしょ」
ナギは虚な目のまま固まり、さっと血の気が引いた。
魔力が使えない。それはつまり今のナギは、登下校中にもののけに出くわしたのと変わらないのだ。
「そんな、早く回復しないと。……あっ魔法使えないんだ。どうしよう」
「落ち着いてください、ナギ。私が回復できます」
その時、蝶のようなもののけが突進してくる。ナギは刀を鞘に納めてすぐに回避の姿勢に入った。
その姿勢はいつもの動きとは比べ物にならないほどぎこちない。
「ナギ、あれくらいの小さなもののけならば魔力を使わずとも……」
「無理!今は戦うより避けなきゃ」
魔力のないナギは、運動の苦手な普通の高校生。刀なんか振り回して戦えるはずがない。
「わぁ!」
蝶の幾度の突進をナギは必死に避け続ける。
(これはまずいです)
霞の心に焦りが生まれた。