64.運動の苦手なナギ
次の日。
夕ご飯を終えたナギは温かいお茶を入れ、ソファでリラックスしていた。
「ふぅ……。ありがとね、霞 」
「いえいえ。お食事もいただいていますし、これくらいは私にさせてください 」
霞が食べ終えた食器を洗いながら答える。霞は不器用で覚えるのが遅いが、覚えたことはしっかりとこなしてみせる。
「ふふ……。あっ、そうだ。明日からもしかしたら帰りが少し遅くなるかも 」
ナギが顎に人差し指を当て、思い出したように言った。
「何かあるんですか? 」
「来週末に、クラス対抗の球技大会があるんだ!だから放課後にみんなでちょっと練習することがあると思う 」
「球技……大会? 」
ナギは初めて聞く単語に首を傾げた。
「クラスのみんなで他のクラスとバレーボールっていう競技で勝負するんだよ」
「バレーボール……」
霞は知らない単語が増えた。
「と、とりあえず頑張ってください。ナギならどんな勝負にもきっと勝てるはずです 」
霞は理解を一旦諦めて食器洗いを再開した。
「うん、頑張るんだけど……私運動は得意じゃないからな……」
ナギが苦笑いを浮かべて頬をかいた。
「そういえばそうでしたね……。いつももののけと勇ましく戦っているので、忘れてました 」
「あれは、指輪の力のおかげだから……」
常世の世界では、ナギはいつも軽やかに飛び上がったり、素早く動いたりしている。あれは指輪の力のおかげで身体能力が上がっている状態。普段のナギはどちらかといえば運動神経がいいわけではない。
「だから、ちょっと自信ないなんだよね……。運動するのが特別嫌いってわけじゃないんだけど 」
ナギが下を向きながら呟いた。
「大丈夫ですよ!たしか、サツキちゃんも同じクラスでしたよね?サツキちゃんは運動が得意ですから。きっとナギの力になってくれます 」
「……うん、そうだね!サツキに色々と教えてもーらおっと 」
ナギは明るい顔になって、机に置いてあった温かいお茶を一口飲んだ。
その様子を見て、霞はまた静かに食器洗いを再開するのだった。
「私にできることがあればいつでも言ってくださいね」
「わかった。ありがとう!」
ナギも球技大会に向けて気合を入れるのだった。