59.二人の連携技
次の日、二人は道場で鍛錬を行っていた。
「えっと、風の術! 」
「違います。颯の術です 」
サツキは道場の外で術を覚える作業をしていた。
「はぁ、使えてはいるけど名前の物覚えが悪いね 」
「覚えたりするのは苦手なの!」
十六夜はたくさんの術を使うことができる分、覚えることが多い。サツキにとってはそれは最も難儀な苦行だった。
「大体、使えてるから名前はなんとなくでいいじゃん 」
サツキは口を尖らせて言った。
「しっかりとした名前を把握していないと私との意思疎通でずれが出てくる。咄嗟の時にそれが起こるとまずいだろ?」
「まぁ、確かに 」
「わかったらまずは術を出しながら覚えていくよ 」
「はーい 」
十六夜に言われ、サツキは小学生のような返事をする。
「苦戦してるみたいだね、サツキ 」
ナギが霞と一緒に道場から出て歩いてくる。
「うん。走る方は自信あるんだけどね。 」
サツキはその場でぴょんと跳ねている。
「私に言わせれば、そっちの方もまだまだだけどね 」
揶揄うように十六夜は笑う
「くっ……せめてそっちは認めさせてやるんだから 」
サツキが十六夜を指差して言った。ナギはサツキが思いっきり走ることを意気込んでいる姿が嬉しかった。
「十六夜、そろそろあれの練習をしましょう 」
「あぁわかってるよ 」
二人は何やら真剣な顔で話をしている。その様子を見てナギとサツキも顔を見合わせる。
「ねぇ、あれってなに?」
サツキが聞くと、十六夜と一度視線を合わせたあと霞が話を続けた。
「今から二人には連携技、"夜桜連斬"を会得してもらいたいんです 」
「連携……技?」
「夜桜連斬……。何それ、なんかかっこいい! 」
ナギは首を傾げ、サツキは目を輝かせている。
「どんな技なの? 」
「はい。まず十六夜……ではなくサツキちゃんが分身で連撃で動きを止めます。その間にナギが力を溜めて居合い抜きの準備を。そして、居合い抜きとサツキちゃんの一閃を同時に相手にぶつける技です 」
霞が淡々と説明をする。
「難しそう…… 」
「はい。これは二人の息を合わせるのは大前提です 」
「それと、二人の攻撃力が低いと話にならない 」
霞と十六夜の言葉で二人に緊張が走る。
「私たちに、できるかな 」
ナギが眉を顰めて不安そうにつぶやいた。
「正直なところ……難しいかもしれません。でも、二人ならできると信じています 」
霞が鼓舞するように二人に言った。
「ま、どうせやるしかないんだし。それにそんなすごいのできたらかっこいいじゃん!ね、ナギ 」
「サツキ……うん、そうだね!頑張ろう。私たちならできるよ 」
サツキの一言でナギの顔はパッと明るくなった。
「……こういう時サツキちゃんがいると助かりますね。場が明るくなります 」
「ま、あの子の取り柄だね 」
二人の視線の先にいるナギとサツキはやる気満々のようだった。
「それでは、早速やってようか 」
「「はい!!」」
二人は同時に返事をして頷いた。
「息は合ってるみたいだね 」
十六夜は苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、まず私は形態変化を」
十六夜は光を放ち、いつもの刀の姿よりもさらに短いナイフのような小刀に変化した。
「えっ、この技って小刀でやるやつなの?」
「そうだよ」
「小刀で戦うの苦手なんだよね」
刀身の短い小刀は急所を狙いやすい、魔力を一点に込めやすいという利点はあるものの距離を詰めないといけない分扱いは難しい。サツキは練習で何回か使って実戦ではまだ難しいレベルの技術だった。
「まぁ今はこの技専用の武器とでも思って頑張りな」
「う、うん 」
十六夜に返事をすると、サツキは軽く跳ねて体をほぐし始めた。
「ナギ、私たちも頑張りましょう 」
「うん!霞、お願いね!」
霞は刀へと姿を変えてナギはしっかりとその柄を握る。
「ナギ、この技は椿の舞以上に力を溜めなくてはいけません。なので、より集中を」
「わ、わかった」
ナギは椿の舞以外の刀の技をまだ会得していない。それ以上に力を溜めたり放出したりしたことはまだない。
(本当は、別の技から教えるべきなのですが、致し方ありません。)
霞は心の中で密かに不安に感じていた。
「よし、じゃあやってみよう!」
サツキが手をあげて合図をする。カカシのような見た目の練習用もののけ人形で練習する。
「はぁ………」
ナギはゆっくりと息を吐き力を集中させる。ナギの辺りには花びらが舞いはじめ、刀と足元に光が集まってくる。
「私も、行くよ!"月下幻影"」
月の光の影から、たくさんのサツキが現れる。
「おりゃあ!」
サツキの影が練習用もののけ人形に次々と連撃を繰り出す。
「サツキ!今!」
ナギが目を開き、一気に勢いをあげて居合い抜きを繰り出す。
「えっ……待ってまだ」
速度をあげたナギは止まらない。
「「きゃっ」」
二人はぶつかってしまい、そのまま倒れ込んだ。ナギの居合い抜きの速度でぶつかったのでそこそこの痛みが走った。
「二人とも大丈夫ですか」
霞と十六夜はすぐさま人の姿に戻って二人に駆け寄った。
「いててて。ナギ、大丈夫?」
「う、うん。失敗しちゃった 」
二人はすぐ起き上がり座った。霞がすぐに回復の魔法で怪我を治してあげた。
「タイミングが難しいね。力溜めてる時は集中してるから声も出しづらいし……」
「ねぇ、じゃあ十六夜たちが前言ってた伝心で合図したらどうかな?」
サツキが閃いたように提案する。霞たちは静かに首を横に振る。
「伝心は十六夜と私の間でしかできないんです。それでは合図を合わせるのは難しいです 」
全員の間に重い空気が流れる。
「やはり、まだ難しかったでしょうか」
沈黙を破るように霞がつぶやいた。
「まぁ、前の主人たちもこの技は使えなかったからね」
「えっ?そうなの 」
「はい。前の主人たちはその、あまりこういう技はできなかったので 」
霞は表情を曇らせ、含みのある言い方をする。霞はいつも前の主人の話をするとき暗い顔になる。ナギは気にはなるが、まだ聞けていなかった。
「でも、じゃあなんで急にそんな技を覚えさせようとしたの?」
サツキが十六夜に向かって聞いた。
「それは……まぁ、追々話すよ。とりあえず、こういう技があるってことだけ覚えておきな 」
「わかった…… 」
「うん……」
二人は暗い顔で頷いた。自分たちの力がまだまだ足りないということを痛感していた。
ーーその時
「うっ。この感じ」
二人の頭に嫌な気が流れてきた。
「ナギ、もののけの気配です行きましょう! 」
「うん 」
「十六夜、私たちもいくよ 」
「了解」
4人は道場を出てそれぞれの家からもののけの気配のする方へと急いだ。
止まっていられない。今できることでもののけたちを打ち倒していく。