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幕間 ケーキバイキングからの帰宅

空が夕暮れに染まり始める17時ごろ、ナギは家へと帰ってきた。


「ただいま……霞 」

「おかえりなさい、ナギ。大丈夫ですか?」

サツキと出かけてきたばかりなのに、元気がないナギを霞は心配する。

「あー大丈夫……。ちょっと張り切って食べすぎちゃってお腹が苦しいんだ 」

ナギは苦笑いを浮かべてお腹をさすっている。

「ふふっ、そういうことでしたか 」

喧嘩などはしておらず、むしろ楽しみすぎていたことを知った霞は安心して微笑んだ。


「はぁ……」

ナギはゆっくりとソファに寝転んだ。

「今日、私夕飯いらないかも 」

「そ、そんなに食べたんですか? 」

霞は口を抑えながら驚いている。

「うん、1年分のケーキ食べたかも…… 」

「それなら確かに夕ご飯はいらないかもしれないですね 」

霞が納得したように頷く。

「あ、でも霞の分はちゃんと作るから安心してね。……少し休んでからだけど…… 」

「と、とんでもないです。ナギがいらないのであれば、わざわざ私の分だけなんて…… 」

「いいよ、遠慮しないで。用意はしてあるから、あとは温めるだけ……。むしろ、食べてくれた方が嬉しいよ 」

ナギがソファからようやく体を起こして笑顔を見せる。

「……で、ではいただかせてもらいます 」

霞は本心では夕飯がないかもしれないことを少しだけがっかりしていた。霞にとって生命維持には食事は必要ないが、一日の終わりにナギのご飯を食べるのを心から楽しみにしていた。

「よかった!じゃあもう少ししたら準備するね 」

「はい!私にできることがあればなんなりと 」

霞は冷蔵庫からお茶を入れてナギに持ってきてくれた。

「ありがとう、霞 」

ナギはお茶を半分くらい飲んだ。

「ケーキバイキングとっても楽しかったなぁ」

「ふふっ、たくさん楽しんだようで私も嬉しいです 」

ナギが楽しそうに今日の出来事を笑顔で語るので霞の方も嬉しくなった。

「あっ、そうだ。これお土産だよ 」

ナギはソファの横に置いてあった箱からショートケーキとマカロンを取り出した。

「これは? 」

「二つまでは持ち帰りできたから、霞にお土産。食べてみて!すっごく美味しいんだよ 」

霞は嬉しくて目をパチクリしている。マカロンに手を伸ばして一口齧る。

「……美味しいです 」

口の中にいちごの甘味が広がり、みるみるうちに霞の顔は笑顔になる。

「……今度は霞も一緒に行こうね。十六夜ちゃんも誘って! 」

霞は驚き目を丸くし、下を向いた。嬉しかったが、なんだか照れ臭くて、つい笑顔を隠してしまった。

「はい!ぜひ行きましょう。甘いものはとっても大好きなので 」

顔をあげ、霞は笑顔で頷いた。


ーーーーー

同じくらいの時間にサツキも家へと帰っていた。


「うぅ…… 」

サツキは家に帰るなりソファに突っ伏したまま動かず、時々変な唸り声をあげていた。

「はぁ…… 」

十六夜はその様子をため息混じりに見ている。

「全く、食べ物を食べすぎて動けなくなるなんてバカなのかい? 」

「……仕方ないじゃん。美味しくて止まらなかったんだから……ぅっ 」

サツキは喋りながらも苦しそうだった。

「大体、十六夜だってバイキングで団子があったら食べすぎてこんな風になるよ、絶対! 」

サツキはようやく少し起き上がり十六夜に指をさして反論する。

「私は人間と違っていくら食べてもそういうことにならないよ 」

十六夜は揶揄うように腕を振り反論を流す。

「うぅ。羨ましい 」

「そうかい?いくら手に入れても満たされないってのは案外虚しいもんだよ 」

十六夜は軽い口調で歩きながら話す。冷蔵庫から麦茶をコップに入れてサツキの前に置いた。

「あ、ありがとう 」

サツキはコップを両手で持ち、一気に飲んだ。

「それより、サツキ。そんな状態で今もののけがきたらどうするつもりだい。

「えっと……それは 」

十六夜の打って変わって真剣な表情と声にサツキはしどろもどろになる。

「今その状態で全力で走れるかい? 」

「いえ、無理です。走るなんて……絶対 」

腕を組みながら十六夜はサツキを睨んでいる。凄みに押されて、サツキはなぜか敬語になってしまっていた。

「なら、こういうことは節度を持って楽しむように。わかったかい? 」

「は、はい。申し訳ございません 」

サツキはお説教をされている子供のように姿勢を正して頭を下げた。

「……ぷっ。あはは。冗談さ。何真面目に答えてるんだい 」

十六夜は吹き出すと、軽い口調に戻り揶揄うように笑っている。

「は、はぁ? 何それ!!ふざけないでよ本気で反省したじゃん 」」

「悪かった。まさか、そんな真面目に返してくるなんて……あはは 」

十六夜は笑いが止まらない。サツキは頬を膨らませた。

「楽しめる時には楽しめるのが一番だ。もし、もののけが現れて動けないなら術でも使って腹を空かせばいいだけだからね 」

「ふ、ふん。べ、別に走ろうと思えば全力で走れるし。十六夜より速くね! 」

サツキは真面目に答えてしまったことが恥ずかしかったのかまだ頬を赤くしながら必死に言い返した。

「おや、普段でも無理なことを 」

「う、うるさい。もういいよ!せっかくこれ持ってきてあげたのに 」

サツキは箱をテーブルにぶっきらぼうに置き、ぷいっと後ろを向いた。

首を傾げ、十六夜は箱を開ける。そこには抹茶のケーキとみたらし団子が入っていた。

「これは、なんだい? 」

「十六夜にお土産。持ち帰りしてもいいっていうからさ 」

サツキがいじけた子供のような言い方をする。十六夜はケーキを持ち、箱を持ち優しい笑みを浮かべていた。

「……ありがとね、サツキ。いただくとするよ 」

優しい口調で十六夜が話すので、サツキは十六夜の方へ向きを戻す。

十六夜は団子を口に頬張った。

「うん、なかなかここのも美味いじゃないか 」

「でしょ?ケーキも食べてみて!」

サツキはもう機嫌が治ったようで、嬉しそうに食べる十六夜の顔を見て笑顔になっていた。

十六夜は箱に一緒についていたプラスチックのフォークを使ってケーキを口に運ぶ。柔らかな食感に甘苦い味が口へと広がる。

「これも、なかなかいけるもんだ 」

「でしょ?団子以外にも美味しいものはたくさんあるんだよ! 」

得意げに胸を張るサツキを見て十六夜は笑ってしまった。

(本当に面白い子だ)

「よし、今度はナギと霞と4人でいこう。いいでしょ?十六夜 」

両手をあげながらサツキは無邪気な提案をする。十六夜はふっと笑って頷く。

「……はいはい、わかったよ」

十六夜はいつの間にかサツキと過ごす時間が少しずつ楽しみになっていった。

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