5.椿の舞
「はぁーーっ!」
ナギが斬りかかった。しかし、鬼は刃を腕で受け止め、いとも簡単に弾き返した。
「っ……硬い」
ナギが態勢を崩した瞬間、鬼はすぐさま間髪入れずもう片方の腕を力任せに叩きつけてきた。
「くっ 」
ナギは間一髪のところで身を捻り、宙を舞ってかわす。かわした場所の地面が抉れていた。
「あんなのくらったら……」
ナギの表情が一瞬のうちに硬直する。
「主人、"いばら"を使い腕を封じてから近づきましょう」
「うん。"いばら"!」
勢いよく、真っ直ぐに伸びたイバラが腕へと絡みつき鬼を拘束する。ナギはそれを確認すると、刀を斜め下に構えながら一気に距離を詰めた。
「今です!」
「はぁーー!」
その時、鬼は力任せ腕を振り回し、イバラをいとも簡単に断ち切った。
「そんな!?」
「嘘でしょ!?」
ナギは攻撃をかわし再び距離をとる。
(なんとか……しないと)
何度も攻撃を仕掛けてはいるものの、その度に同じように長い腕でいなされて距離を取られてしまう。
「はぁ……はぁ……刃が届かない」
「主人、落ち着いてください」
(とはいえ、腕が硬すぎて刃が通らない、力が強すぎるせいでイバラでの拘束も不可能。……どうすれば)
霞はナギに悟られぬように、落ち着いた口調で話しながら、頭の中では必死に主人になったばかりのナギでも勝てる方法を考えていた。
「何か接近する方法はない?」
「……あることにはあるのですが、主人になったばかりだと上手く使えるかどうか」
霞は今までと違い、不安そうな声を漏らす。失敗する可能性の方が高いと思っていたからだ。
「でも、やってみるしかないと思う。私、諦めたくないから。お願い、その方法教えて!」
「……承知しました。指南を頭に送ります」
真っ直ぐな言葉に、霞もかけてみることにした。
ナギの頭にイメージが送られてくる。それは、いばらよりも難しそうな剣の技だった。
「成る程……。一か八か、やってみる!」
「はい。私は主人に従うのみです」
ナギは再び鬼へと走り、間合いを詰めた。鬼は唸り声をあげて腕を振り上げ叩きつけようとする。
「"いばら"!!」
再びイバラが鬼の腕に絡みつき鬼は一瞬動きを止めた。だが、すぐにイバラを断ち切った。
「やはり、いばらでは耐久度が…… 」
「大丈夫。一瞬でも動きが止められれば!」
ナギは一瞬鬼が止まったのを見逃さなかった。その刹那、ナギは鞘に刀を差し力をためる。足元と鞘に入れた刀に光が集まり始める。
「行くよ!椿の舞!」
眩い光がナギの足元から渦を巻くように立ち上がり、周囲には花びら舞い上がった。光が放たれると、一気に速度をあげ相手の懐に飛び込む。そして、視認することも難しい速度で光の軌跡を描く、超高速の居合い抜きを繰り出した。
ぐがぁぁぁー
鬼は断末魔をあげて消え去った。断末魔が聞こえなくなった常世の世界は不気味なほどの静寂に包まれた。