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56.団子と十六夜

霞は、お昼のお惣菜を買いにくる人が増えてくるスーパーの前で1人で待っていた。いつもの装束ではなくナギと買った可愛い小さな花があしらわれている、ふわっとした白いワンピースに身を包んでいる。その表情は綻んでいてそわそわと辺りを見回して十六夜がくるのを今か今かと待っていた。今日は十六夜とお団子を食べにいく約束をしていた。

(十六夜、遅いですね。)

霞は昨日からずっとわくわくして、眠れなかった。ナギもその様子を見て昨日の夜はくすくす笑っていた。

霞はそれほどに、今日という日を楽しみにしていた。


ーー前に現世にきた時から。


遠くから見慣れた黒い装束が近づいてくる。なんとも緊張感のないあくびをしている。間違いなく十六夜だった。

「十六夜、遅いですよ。」

霞は走って十六夜の方に嬉しそうに近づく。

「そっちが早すぎるんだよ。」

十六夜が肩をすくめて答える。

「……そうですね。すごく楽しみで、張り切ってしまいました。では、いきましょう!」

「案内頼むよ。私もうまい団子が食べられるのは楽しみだ。」


霞の案内で昼の街を歩いていく。その後ろを十六夜はついていく。

「それにしても、変わった服を来てるじゃないか。初めはあんただと気づかなかったよ。」

霞は振り返って洋服を見せる。振り返る時にワンピースがふわりと舞う。

「これはナギと一緒に買いに行ったんです。このお花がとっても可愛いくて、お気に入りです。」

霞はあしらわれているお花を見せて十六夜に微笑みかけた。

「……似合ってるじゃないか。」

「ありがとうございます。十六夜も今度一緒に買いに行きましょう。」

「私はいいよ。これで十分さ。」

十六夜は自分の着ている装束にチラッと目をやった。

「その装束だと目立ちすぎるので、街を歩く用の一つくらいは持っていた方がいいですよ。」

「はいはい。考えとくよ。」

十六夜はあまり興味がなさそうに答えた。

「全く、十六夜は。」

「それより、まだかい?団子屋は。」

「もうすぐ……あっ、あれですよ。」

霞は右斜め前に見える瓦屋根の建物を指をさす。

建物には少し味のある一枚板に『きぼう』と書かれた看板が飾られている。

「ほぉ、なかなか良さそうな雰囲気じゃないか。」

十六夜は少し声を弾ませている。霞は十六夜のその様子を見て、嬉しくなった。


2人は団子屋さんに入る。

「いらっしゃい、霞ちゃん。」

元々常連のナギと一緒によく来ていたことで、霞はもう顔を覚えられていて、店員のおばあちゃんとはもう顔見知りだった。

「こんにちは。」

「あれ?お友達かい?」

見慣れない十六夜を見て店員のおばあちゃんは不思議そうな顔をしている。

「はい。お友達の十六夜です。」

「どうも。」

十六夜が頭を下げて、おばあちゃんも頭を下げた。霞はその様子を笑ってみていた。

ショーケースに色々な味の団子が並んでいた。

「それにしても、どれも美味そうだね。」

十六夜は目を輝かせてショーケースを右から左へと目線を動かしている。

「みたらしにあんこ、よもぎもいい。あとは、このクリームってやつも捨て難いね。」

十六夜はいつもより声が明るく、遠足前のお菓子を選ぶ子どものような表情をしている。

「ふふっ、全部絶品なんですよ。」

「そうかい、なら尚更悩むね。」

十六夜が顎に手を置きどれを食べるか吟味している。

十六夜のこんな表情を見ることはあまりできないので霞はなおのこと笑ってしまった。

霞はポケットから巾着を徐に取り出し、じっと見つめる。一人で何かを決意したように頷いた。

「十六夜、今日は私がご馳走しますから!好きに食べてください。」

十六夜は驚いて少し固まる。霞はにやにやと笑っている。

「どうしたんだい急に。まさか、心配してるのかい?安心しなサツキからしっかり小遣いはもらってるよ。」

十六夜は懐から黒い巾着を取り出して霞に見せた。

「だから気持ちだけで十分さ。ありがとね。……さーてどれにするか。」

十六夜は瞳に色とりどりの団子を映し、またショーケースの中に目移りしている。霞はゆっくりポケットに巾着をしまった。その目は少し寂しそうだった。


いくつかの団子を注文して席に着く。

「どれくらいぶりだろうね、団子を食べるのは。」

十六夜は席につくと、腕を組み団子の味を想像して何度も頷いている。

「ふふっ、食べたら美味しすぎて驚きますよ。それに、ここは店内で食べると抹茶もついてくるんですが、それもまた落ち着く味なんですよ。」

霞は机に肘を立てて顎を支えながら言った。霞も十六夜といる時はいつも以上にリラックスしている。

「そいつは楽しみだ。甘い団子にはお茶がピッタリだからね。」


(やっぱりきてよかったです。)

霞は十六夜を見てそう思った。


「お待たせしました。」

2人の前に団子と抹茶が運ばれてくる。団子の甘い匂いと抹茶の匂いが鼻を喜ばせる。

「はぁー。美味そうだね!」

「ですね。とっても美味しそうです。」

十六夜が両手を合わせて団子を見つめ、さっきよりも一層目を輝かせている。

霞もまた、同じように目を輝かせていた。

「では、ごゆっくり。」

そんな2人の様子を見ておばあちゃんは孫を見るような笑顔で伝票を置いてレジの方へと歩いていった。

「さっそくいただくとするかね。」

十六夜はみたらし団子を一串持ち上げて口へと運ぶ。

「……ふぅん、美味いじゃないか。」

柔らかい団子を噛むと甘辛いタレの香りが口の中に弾けて広がり埋め尽くす。

「なんだか懐かしいね。これを食べなきゃ現世にきてる意味もないってもんだ。」

十六夜は幸せそうに団子を次々に口に運んでいる。

それを見て霞は笑いながら団子を口へと運ぶ。

「やっぱりここのお団子はいつ食べても美味しいですね。」

霞も団子を口に入れると自然に笑顔になる。

十六夜は次々に団子を口に運ぶ。その度に幸せそうな笑顔を見せる。


ーーあの時と変わらずに 


だからこそ、霞は一緒に団子を食べにくる時に決めていたことがある。

「十六夜……今日はやっぱり私にご馳走させてください!」

霞はまた巾着を取り出した。

十六夜は食べる手を止めて持っている串を皿においた。

「さっきも言ったろ、私もお金なら……。」

「違うんです!」

霞が少し強い口調で話を遮ったので、十六夜は驚いた。

「……どうしても、ご馳走したいんです。十六夜がしてくれたように。」

霞は何かを思い出すように目を伏せてい小さく呟いた。

「約束……したじゃないですか。あの時に。」

霞は口を開き、昔の話をし始めた。

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