55.団子の約束
ナギとサツキは昼休みにいつものバルコニーでお昼ご飯を食べていた。心地の良い爽やかな風が頬を撫でる。あちらこちらから騒いでいる同級生の声が聞こえてくる。その音は2人には妙に心地がよかった。
「はぁ、午後の小テストが憂鬱だなー。」
サツキが卵焼きをお箸で持ち上げながらため息をついていた。
「大丈夫だよ!昨日の感じでやればいけるって。」
昨日2人は今日の小テストに向けて、試験範囲の単語を何回も復習していた。その時のサツキの出来なら今日の小テストは余裕だった。
「それでも不安だよ。もののけとの戦いとか鍛錬のおかげで勉強時間も減ってるし。走るだけでいいと思ってたのに、術とか意外と覚えることが多いんだよ。」
「あはは。まぁ、そうだよね。」
ナギも最初の頃に悩んだ問題だった。そのおかげでナギは何度もやったことのない徹夜をしていた。そのせいで余計に疲労がたまる悪循環だった。
「勉強のサポートは私に任せて!」
「頼もしいよ!」
2人は笑い合った。そして2人はまたお弁当を食べ始めた。
「そういえば、今日十六夜、霞と出かけるって言ってたけど何か聞いてる?」
サツキが弁当箱に蓋をして黄色いハンカチで包みながらナギに聞いた。
「……うん。知ってるよ。お団子食べに行くんだって!」
「お団子?」
サツキは首を傾げた。
♢♢♢
「あの、ナギ……。」
「どうしたの?」
夕飯の食器の片付けを終えた霞が少し照れくさそうな顔をしている。
「その、明日なのですが……十六夜と久しぶりに甘いものでも食べながらおしゃべりをしようということになりまして……。」
「……うん。」
霞はもじもじと両手の人差し指同士を遊ばせている。
「2人でお団子を食べに行きたいのですが、行ってきても良いですか?」
霞は主人に何かをお願いすることに慣れていない。なかなか何かを自分でやりたいということをナギに言ってこない。だからこそ、十六夜と遊びに行きたいというのは霞にとって強い願いだとナギは感じた。
「……うん。いいよ!」
ナギが優しく微笑みかけると、霞の顔もパッと明るくなった。
「いいんですか!ふふっ、嬉しいです。」
霞は遊園地に行くことになった子どものように鼻歌を歌ったり少しぴょんと跳ねたり、はしゃいでいる。珍しく口元も緩みっぱなしだった。
「わざわざ私の許可取らなくても大丈夫だよ?」
「いえ、主人には事前にどこにいるかはある程度知らせておかなくては、もしも何かあった時に困らせてしまいますから!」
霞はいつもの冷静な顔で伝える。
「そっか……わかった。でも、明日は楽しんできて!お団子屋さん十六夜にやっと紹介できるね。」
「……はい。嬉しいです。ようやく十六夜にお返しできます。」
霞は目を潤ませて、下を向き小さな声で呟いた。ナギはお返しという言葉が気になったが、今は聞かないことにした。
「お小遣い、足りなかったら言ってね?」
「はい!大丈夫です。たくさん計算して、不足はありません。」
ナギは自信満々に机からノートを取って広げて見せる。ノートにはよくわからない計算式がたくさん書かれていた。
♢♢♢
「十六夜がきたら、お団子屋さんに連れて行きたいってずっと言ってたからね。」
「そうなんだ。」
「うん。十六夜は前にこっちの世界にきた時に食べて以来、お団子が大好きなんだって。」
「へぇー知らなかった。じゃあ、今度一緒に買いに行ってみようっと。」
2人とも弁当箱を持って教室に向かって歩きながら話している。普段なら5分前くらいに戻るが、今日はあと10分後にはテストが始まるのでいつもよりは早く教室に向かっている。
「きっと2人で今頃楽しんでる頃だろうな〜。」
ナギが椅子を後ろに引きながら、その様子を想像して笑みを浮かべる。
「はぁ、いいなぁ。こっちは今からテストだってのにさー。」
サツキはだるそうな声と共にため息をつき、机に両手を置いて顔を伏せた。
「私たちだって今週頑張れば、週末はケーキバイキングが待ってるよ!」
「そうだった!!」
ナギが言葉を言い切る前に、すぐにサツキは椅子を後ろに押すほどの勢いで顔をあげた。その表情はさっきとは打って変わって遠足前の子どものようだった。
「そうとわかれば、絶対にいい点とってやる!」
「うん。がんばろ!」
2人は拳を強く上へと突き上げた。ようやく行けるケーキバイキングを楽しみに。