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52.不安材料

放課後、ナギとサツキは久しぶりにカフェでりんごジュースを飲んでいた。

「なんか久しぶりだね、この感じ。」

「だね、日常って感じ。」

2人は飲み物をストローで飲みながら笑っていた。ほんの少し前までは当たり前の日常だったが、先週まではナギもサツキもギクシャクしていて無くしていた時間だった。何でもないような時間だが、2人にとっては大切な時間だった。

「ねぇ、聞いてそれからさ……!」

「うんうん、わかる。それはさ……。」

本当に他愛のない話をずっとしている。ナギはサツキと一緒に過ごす時間が好きで、サツキも同じ気持ちだった。


その時


「うっ。なんだか、嫌な気配。」

「私も……。これって……。」

2人の頭の中に嫌な気が流れてくる。ナギにとっては慣れたものだが、サツキにとっては初めての経験だ。2人は顔を合わせて無言で頷きあった。

「すぐに向かおう!」

ナギは急いでジュースを飲み干した。

「おっけー!行こう。ナギ!」

サツキも同じようにジュースを飲み干し、勢いよく立ち上がった。

「もう、用事とか言わなくていいからね!」

ナギにグッドサインを力強く突き出して笑った。

「……うん。」

ナギは嬉しそうに頷き立ち上がった。今まではサツキに全てを隠しながら一人で行かなくては行けなかった、怖くて心細い世界。それを今はサツキと一緒に戦える。心強さを感じてナギはサツキとカフェを出て気配のする方向へと走って行った。


ーーーーー

常世への世界の入り口に一足先に霞と十六夜は着いていた。

十六夜は伸びをしたり体をほぐして2人の到着を待っている。

「やる気がありますね、十六夜。」

「ま、サツキはまだ経験が少ないからね。私が引っ張ってやらないと。」

十六夜が珍しく真面目な顔をしている。

「ふふっ。もう十六夜もサツキちゃんのことを名前で呼ぶようになったんですね。」

霞は口を抑えてくすくすと笑っている。なんやかんや十六夜もすぐにサツキと仲良くなっている様子が嬉しかった。


「それより、あんたは本当に大丈夫なんだろうね?」

「……はい。しっかり確認しましたから。」

霞は少し暗い顔になったが、すぐに自信に満ちた眼差しへと戻った。


♢♢♢♢

それは、お昼の道場での出来事。

「技が発動しなかった……?どういうことだい。」

霞の相談に十六夜は目を丸くしていた。

「そのままの意味です。ナギが倒れて、あの鳥もののけと一人で戦っている時です。」

霞は両手を見つめ苦しそうな顔をしている。

「技を使おうしても、体中に痛みが走るだけで……技を使うことができませんでした。」

霞は悔しそうに唇を噛み締めている。その時の戦いの悔しさと恐怖が頭から離れなかった。十六夜はそんな霞の様子を静かに見守る。

「通りで、か。」

「えっ?」

「いくら相性が悪かったとはいえ、あんたがあそこまで歯が立たないようなもののけじゃなかったからね。気にはなってたんだ。」

顎に手を置き、冷静な語り口調で十六夜は語る。

「はい。主人がいなかったので本領を発揮できなかったというところもあるんですが、技さえ使えればあのようなもののけに……遅れは………。」

霞は今にも泣き出しそうだった。思い返せば思い返すほど不甲斐ない自分に腹が立つ。それに、もしも技が使えなくなれば戦えなくなるかもしれないという恐怖が同時に押し寄せてきていた。

「何か思い当たる節はないのかい?」

「いえ。……強いていうなら魔力の絶対量が減っているみたいなんです。」

「魔力の量が……?」

十六夜は口を開けて少しの時間固まり、考え始めた。

「それが原因の可能性は高いね。ただ、それは私の領分じゃ…….。」

十六夜はちらっと霞の方を見る。霞は不安そうに目を下に伏せている。自分の体の不調が相談できなかったのは、不安で堪らなかっただろう。

「なおさら、困ったね。あの子がいないのは正直一番の不安材料だ。」

十六夜は肩をすくめて霞に言った。

「そうですね、葵ちゃんがいればすぐに相談できるんですけど……。」

2人の頭には、1人の仲間の顔が浮かんでいた。霞や十六夜とは違う能力を持つ存在。そして、自分たちが思いっきり戦うために最も大切とも言える存在だった。

「まぁ、ないものねだりをしても仕方がないさ。いずれ葵もくるはず。今は騙し騙し、なんとかやっていくしかないよ。」

「……そうですね。」

霞はまだ言葉に不安さを残していた。

「で、その後技は試したのかい?」

「……いえ、まだ。」

霞は目線を十六夜からそらして答えた。痛みが怖いというより、もし使えなかったらという恐怖心から霞はまだ技を試していない。

「あんたの気持ちがわからないでもないけどさ、いざ戦闘になってから技が使えないとなる方が困るだろ?」

「それは、まぁ。」

「それに、そうなった時に1番困るのは主人だ。」

霞はハッと目を見開き目を閉じる。ナギが技を使おうとして使えず、もののけたちに襲われる映像を想像した。

「……わかりました。やってみます。」

霞は技の練習用の棒を取り、道場の真ん中へと立った。手は不安と恐怖で揺れている。


ーもしも、技が発動しなかったら。


ナギを守れないこと、それに今までの自分が積んできた鍛錬の時間全てが無へと帰ってしまう。霞は目を閉じて深く深く深呼吸をした。そして意を決して目を見開く。

「"椿の舞"!」

すると持った棒は光りを纏い、足元にも光が広がった。そして目にも止まらぬ速度で居合い抜きからの連続斬りを見せた。

「……できました。」

霞は嬉しさで魂が抜けたような声でいった。

「……!できましたよ、十六夜!見ていましたか?私技が使えました。」

十六夜の方にすぐさま振り返り声を弾ませた。当たり前のことなはずなのに、今の霞にとってはこの上ない喜びだった。その様子を見て十六夜は静かに笑っていた。


その後も霞は色々な技を連続で使用する。全ての技を霞は使うことができた。

「よかったです……。これでまだ戦えます。」

霞は泣いていた。今度は嬉しさのあまりに涙が止まらなかった。

「……とりあえずよかったじゃないか。」

「はい。十六夜!」

十六夜は色々と気になることはあるものの、ひとまずこの件は一旦解決したことにした。

「……私も確認しておくか。」

十六夜も技の確認を始めていた。

♢♢♢♢



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