51.十六夜との過ごし方
道場での話が終わり、サツキは部屋へと戻ってきた。十六夜はすぐさま食器の片付けに動き出していた。
「あっ、十六夜いいよ。それ私がやるから。」
「いえ、主人に仕えている身ですので、これくらいはご遠慮なさらず。」
十六夜は今日、夕飯も作り、部屋の片付けまでしていた。飄々としているように見えて仕事はきっちりとこなしている。
「うーん。あっ!そうだ。」
サツキは閃いたように立ち上がり紙に何かを書き始めた。
十六夜は不思議そうにそれを見ている。
「できた!こうしよう!」
サツキは紙を掲げて十六夜へと見せる。
「当番表?」
「そっ、料理と掃除とかを曜日制にしよう!そしたら私がこれをやるとか、明日は十六夜にお願いとか公平にできる。」
サツキは自分の提案にうんうんと頷き、すごいことを思いついたかのような顔をしている。
「別に主人はそんなことせずとも私がすぐに片付けますよ?」
「いいの!私だって、一人暮らしは社会勉強的なところもあるんだから。全部やらせちゃったら私がどんどん堕落した人間になっていっちゃう。」
サツキはわざとふざけたような言い方をしている。
「ってなわけだからこれを今日は決めよう!」
「……はい。主人の仰せのままに。」
十六夜が手を拭いて、軽く一礼をした。サツキは少し不服そうな顔をしている。
「……あと。できれば主人じゃなくて名前で呼んで欲しい!」
「はい?」
十六夜は言ってる意味がわからないというような顔をしていた。
「いや〜。なんか畏まった感じがして、家の中でも緊張しちゃうってゆーかさ。だから、十六夜が話しやすいように普通にしてくれていいよ。あぁ、敬語の方がやりやすいとかだったらそのままでも大丈夫!でも主人呼びはやめて欲しいかな……。」
サツキはバタバタと話し、頬を掻いている。十六夜はぷっと吹き出し笑ってしまった。
「あはは。いいんですか?そのようにしても。」
「うん!十六夜がいいならさ。」
サツキはいつも通りの子供っぽい笑顔で言った。
「本当に面白い子ですね。わかりました。では。」
十六夜は流しの方から歩いてくると改めて一礼をした。
「それじゃあ、改めてよろしく頼むね。サツキ。」
十六夜はいつも仲間たちと話すような軽い口調でサツキに挨拶をした。
「うん!改めてよろしくね、十六夜。」
サツキが手を前に出して握手を求める。十六夜は一瞬驚いたような顔をした後ふっと笑って握手をした。
「あっ!それとこれ!」
サツキは黒くシンプルな巾着を取り出して、十六夜に渡した。
「これはサツキに渡したもんだろ?好きに使いなよ。」
十六夜は肩をすくめている。それは、謝礼金と称して霞がナギに渡したものと同じく毎月一定のお金が入ってくるものだった。十六夜は受け取り机の上に置いた。
「ナギに聞いたけど、ナギはお小遣い制にしてるんだって。だから、私もそういう風にしようと思う。」
十六夜は少し驚いた顔をしている。
「だから、えっとこの額だけ食費的なやつでもらうとして……あとは十六夜が好きに使って大丈夫だよ。例えば、欲しいもの買ったり、霞と遊びに行ったりするのに使って!」
サツキは腕を組みながら笑顔で提案した。十六夜は少し迷ったものの机から巾着を持ち上げた。
「それじゃあ、お言葉に甘えて使わせてもらうよ。ありがとね、サツキ。」
「えへへ。」
サツキは照れくさそうに笑っている。十六夜も少しだけ微笑んだ。
「霞の言った通りだね……。」
「ふん?」
「……何でもないよ!」
十六夜はまた食器を洗いに流しへと戻った。