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49.霞と十六夜

霞はシロちゃんとベニちゃんに水やりを終えて、道場で竹刀を振り、準備運動をしていた。

「ふっ、ふっ、ふっ。」

いつもよりも気持ちが乗り、張り切っていた。道場の隅が光り、十六夜が現れた。

「相変わらず真面目だね。霞。」

欠伸をしながらゆっくりと霞の方へ歩いてくる。

「十六夜、改めて久しぶりですね!!」

霞は竹刀を置いて嬉しそうに十六夜へ笑顔を見せる。

「なんだい、気持ちが悪いね。」

十六夜が鬱陶しそうな顔をしている。

「仕方がないじゃないですか、ずっと……1人だったんですから。心細かったんです。仲間に会えて嬉しいんです。」

霞は顔は笑っているが少し涙目だった。その様子を見て十六夜は少し目線を下に落とした後霞に向き直して優しく笑ってみせた。

「ま、元気そうでよかったよ。……悪かったね、遅くなっちゃって。」

「いいんです。こうしてまた会えたんですから!」

霞は明るい声だった。そんな姿を見て十六夜は安心した。

「そうです、十六夜。まとめておきましたよ。」

霞は後ろからノートを持ってきて十六夜に渡した。

「なんだい?これ。」

「ここまで現れたもののけなどをまとめておきました。十六夜の戦略の参考になればと。」

十六夜はノートをパラパラとめくった。そこにはびっしりとメモ書きされ、色をつけて注意点などがしっかりと纏められている。十六夜は作戦を色々と思考するタイプだ。霞はそんな十六夜のためにノートを作っていた。

「霞。あんた相変わらず、超がつくほど真面目だね、ほんと。」

「よ、余計なお世話です。」

霞は揶揄われて少し不機嫌そうな顔をした。

「ま、あんたのそういう性格は助かるからいいんだけどさ。」

「……相変わらず、十六夜は少しムカつきます。」

「なんだい、その言い方。」

十六夜は霞の様子を見て静かに笑っていた。霞もそれをみて不機嫌な顔を崩して笑い始めた。

「なんだか、とってもおかしいです。」

「……そうだね。」

霞はいつも通りの十六夜と話せているこの当たり前が嬉しくて、なんだか笑いが止まらなくなった。十六夜もその様子をみて笑っていた。

「さて、せっかくまとめてもらってるんだから読ませてもらうよ。」

十六夜が1ページずつしっかりめくっていく。丁寧に対策などが纏められていた。

「結構な数と戦ったんだね。」

「それは、3週間くらいありましたから。」

「そんなに経つのかい。」

十六夜は少し驚いた表情をしていた。

「1人じゃ、色々と大変だったろう?」

十六夜はページをめくりながら呟いた。

「……はい。1人では対処が厳しい相手も多く、主人の負担も……。」

霞は下を向き、拳をきりきりと握りしめていた。十六夜はその様子を横目で見ていた。ページをめくっていると時々対処の項目が空欄になっている部分があった。火のもののけや速度の速いもののけは漏れずにそうだった。

「昨日も、十六夜が来てくれなければ私は主人を守ることができませんでした。本当に、情けないです。」

霞は涙を目に溜め始めていた。それほどに昨日の敗北は、霞に堪えていた。自分の不甲斐なさが悔しかった。

「昨日も言っただろ?相手が悪かったんだ。私が1人でも勝てない相手もいただろうさ。」

慰めるように霞に言った。霞はまた笑顔になった。

「……ありがとうございます。」

「……。あんた、よく笑うようになったね?」

十六夜が目を細め、優しい口調で言った。

「えっ、そうですか?みんなといる時はいつもこんな感じだったと思うんですけど…。」

霞は仲間たちといる時は素の自分でいる自覚はあった。だからこそ、十六夜にそんな風に言われるのは不思議だった。

「まぁ、昔はね。」

十六夜が少し含んだような言い方をしていた。霞もその意図を汲み取った。十六夜が今の今まで心配してくれていたことを。

「……もし、そうだとしたら、きっとそれはナギのおかげだと思います。」

「ナギ……ってあんたの新しい主人のことかい?」

十六夜が目を丸くし不思議そうに聞いた。

「はい。ナギはすごく優しいんです。ナギといると毎日が明るくて、あったかいんです。」

霞は胸に手を当ててしみじみ語った。

「……みんながいない世界でやっていけたのはナギが主人で……お友達でいてくれたからだと思います。」

「……お友達?」

「はい!ナギはお友達です。」

霞はいたって真面目に答えていた。十六夜は半笑いで話を聞いていた。

「まったく……。主人へは余計な感情は必要ない、じゃなかったのかい?」

十六夜が肩をすくめながら揶揄うようにいった。

「えっと…それは、その。」

霞は言葉を詰まらせた。それは、確かに自分自身のいった言葉だった。

「あの時は…その、でも、ナギは……。」

「……冗談さ。そんなに間に受けるんじゃないよ。」

十六夜は優しい口調で言った。

「元々、私はもののけを倒す使命の邪魔じゃなければなんだっていいことだと思ってるからね。」

「十六夜……。」

「霞がその方がいいならいいじゃないか。」

「は、はい!今の方が主人を絶対に守りたいという気持ちは強いです。もののけなんかには絶対に負けません。」

霞は強い口調で言った。十六夜は少しびっくりしたが、すぐにいつもの調子の顔に戻った。

「よほど主人のことがお気に入りのようだね。」

「はい!十六夜もすぐにサツキちゃんと仲良くなれますよ!」

「……ま、私はどっちでもいいけどね。」

十六夜はノートを渡しながら少しそっけなく言った。

「サツキちゃんとはうまくやれそうですか?」

「変わった子だけど、私の速さもなかなかに使いこなせていたし悪くないんじゃないか。」

十六夜は色々今後のことを考えているのか、顎に手を置きながら冷静に語っていた。

「そうなんですか……。ふふっ。」

「なんだい、またニヤついて。」

十六夜が眉を顰めて霞を見ていた。

「いえ、十六夜の主人がサツキちゃんでよかったと思いまして。」

「どういうことだい?」

「サツキちゃんはナギの大切な親友なんです。なのに、もののけとの戦いのせいで、ナギはサツキちゃんと少しギクシャクしてしまっていたんです。」

霞が申し訳なさそうな顔をして語った。十六夜は、それが?というような顔をして聞いていた。

「でも、これでナギはサツキちゃんと前と同じようにお話できると思うんです。そうすれば、ナギは元気になります!」

「ふーん。」

十六夜はあまり興味はなさそうだったが、霞があまりにも熱心なので話を聞いていた。

「そうです。それに、サツキちゃんが一緒に戦ってくれればナギはより力を発揮できると思います。」

「そんなもんなのかい。」

「はい。私も十六夜がいてくれればすごく心強いですから。」

霞があまりにも真っ直ぐな笑顔で言うので、十六夜は目を丸くして少し黙ってしまった。

「……やっぱりあんた、変わったね。」

十六夜が優しく微笑みながら言った。

「……そうですか?」

「まぁいいさ。さて、久しぶりに霞、試合と行こうじゃないか。長らく寝てたから体を動かしたい気分なんだ。」

十六夜は少し話をそらして立ち上がり、腕を伸ばしたりしていた。霞はその言葉に嬉しそうに頷いていた。

「……はい!やりましょう。ふふっ、久しぶりの手合わせは楽しみです。」

霞は勢いよく立ち上がり十六夜を指差した。

「あんたは手合わせが好きだったからね。」

「十六夜、真っ向勝負です!剣の実力で試合をしましょう。ふふふっ。嬉しいです、誰かと手合わせをしたいとずっと思っていたんです…。」

霞はワクワクしながら竹刀を持って素振りしながら道場の真ん中に立った。十六夜は壁にかかった竹刀を取りにゆっくりと歩いていた。

「ほんとよかったね、霞。」

十六夜は霞に聞こえないような小さな声で呟いた。

「十六夜、遅いですよ!早くやりましょう!」

「はいはい。」

十六夜は竹刀をとり、道場の真ん中へと立った。

「腕、鈍ってないだろうね?」

「当たり前です!日々鍛錬を怠ることはありませんから。」

「それもそうか。」

「では、いざ尋常に。」

2人は竹刀をぶつけ合い試合を始めた。霞は嬉しさでずっと笑っている。仲間と行うこの真剣勝負が霞は1番大好きだった。ようやく、仲間と会えたのだと改めて実感していた。十六夜もそんな霞の様子を見て安心したように笑っていた。

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