48.笑顔の登校
翌朝、ナギは朝ごはんを食べて学校へ向かう準備を始める。体は疲労でいっぱいのはずなのにナギの表情は明るかった。
「なんだか嬉しそうですね。」
霞が笑って椅子に座っていた。
「うん。なんだか今日はとっても心が軽いんだ。」
ナギも椅子に座り、足を前後にパタパタさせている。
「よかったです。ナギが元気になってくれて。」
「そういう、霞だってすごく嬉しそうだよ。」
霞も今日はいつもよりも顔が少し綻んでいた。
「はい!仲間に…十六夜に会えて嬉しいんです。今日は道場で作戦会議をするんですよ!」
「よかったね!霞。」
2人は顔を合わせた笑い合った。2人の悩みや寂しさが少しだけ和らいでいた。
「あっ、そろそろいくね。」
ナギは玄関に急いでいくとドアを開ける前に振り返った。
「あっ、霞。今日は鍛錬は抑えめにしてね。霞、昨日すごく無理させちゃったから。休まないで怪我したら大変だよ!」
ナギが少し申し訳なさそうに呟いてた。
「はい。わかりました!安心してください!もう回復しましたから。」
ナギの不安そうな顔を吹き飛ばすためにわざと大袈裟に明るく振る舞った。
「わかった。じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい。」
ナギは玄関の扉を閉めた。
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「おはよう!ナギ!」
いつもの通学路を歩いていると、後ろから明るい声が聞こえてくる。
「サツキ!おはよう!」
その声を聞いてナギも心が明るくなった。サツキは早足で横に並んできた。いつもは走ってくるが、今日は早足だった。
「いててて。」
「どうしたの?」
サツキは太もものあたりをさすっていた。
「いや〜今日朝起きたら筋肉痛でさぁ。」
「ふふっ、昨日たくさん走ってたもんね。」
ナギがくすくす笑っている。先週は喧嘩をしていたので、こんな風に笑ってサツキと登校するのも久しぶりだった。
「ナギは疲れてないの?すごいね。」
「まぁ、疲れてるけど慣れてもきたし。」
ナギはふざけて胸を張り、誇らしげにみせる。
「……たくましい限りです。」
サツキがかしこまった口調でいった。これはサツキが少しふざけている時だ。
「ふふっ。サツキもすぐになれるよ。」
「……うん。頑張る!ナギも色々教えてね。」
「もちろんだよ!頼りにしてるよ、サツキ。」
ナギは笑顔だった。もののけとの戦いのことをサツキと話ができるようになったのは、ナギの心を軽くしていた。
「いや〜でも、まさか霞さんが刀だったとは思わなかったよ。」
「サ、サツキ。外でそういうことは……。」
ナギが慌てて小さい声で注意した。
「あっ、そっかそっか。でも、こんな話しててもみんなゲームかドラマとかの話だと思うから大丈夫だよ。」
「でも、なるべくはあんまり人がいない時に!」
「はいはい。」
サツキは軽い口調で頷いていた。ナギは少し心配ではあるが、サツキのいう通りこんな現実離れした話が小耳に聞こえても、きっと特に気に留めもしない。
「そうだ、大家さんに許可はもらえた?」
「うん。最初は少し渋ってたけど十六夜に簡単に言いくるめられてた。」
「あはは。そうなんだ。」
ナギは苦笑いをした。
「十六夜ちゃんとは仲良くなれそう?」
「うん、まぁやっていけそうだよ!料理とかも上手なんだよ!」
「へぇ、そうなんだ。」
霞は料理が苦手、というか基本的に不器用だ。包丁で野菜を切るとき、指を切りそうで見ていられないほどだ。十六夜は霞の言っていた通りしっかり者なんだとナギは思った。
「でも、十六夜ちゃんが来てくれてよかった。」
「まぁ1人で戦うより2人の方が戦いやすいしね!」
ナギがしみじみ呟くと、サツキは拳を前に突き出していった。
「……それもあるけど、霞ずっと仲間に会いたがってたから。きっとすごく嬉しいと思う。」
ナギは小さく笑った。
「2人でいる時もよく、十六夜ちゃんとか仲間の話をしてたんだ。いっつも楽しそうに。でも、その後すごく寂しそうな目をしてて……。」
ナギはいつもご飯を食べた後仲間のことを話す霞を思い出していた。
「そっかぁ。でも、知らない世界で友達も知り合いもいない世界で1人になったら心細いどころじゃないよね。」
サツキも気持ちを察したかのように寂しそうな声で言った。
「うん。今日、霞朝から楽しそうでいつもより笑ってたんだ。」
朝の霞の様子を思い出して笑ってしまった。鼻歌を歌いながらテーブルを拭いたり、お皿を用意したり。
「きっと、今頃十六夜ちゃんと楽しく話してるんじゃないかな〜。」
ナギは、霞の楽しそうな笑顔を想像しながら2人で校門をくぐった。