47.これからは私も
ナギは目の前にサツキがいることが信じられなかった。光の中から現れたということは、サツキは常世の世界から帰ってきたということだ。
「なんで、サツキが常世の世界から?」
「……常世?なんのこと?秘密は守らなきゃダメだよ!」
サツキはわざととぼけて見せた。
「……本当はわかってるじゃん、その言い方」
「えへへ、バレた?」
サツキはいつもの調子で笑ってみせる。ナギは笑っているのになぜだか少し泣いていた。
「……十六夜、もしかしてサツキちゃんが主人なのですか?」
「あぁ、そうだよ。なかなか面白い子だよ」
十六夜が笑いながら霞に返事をする。
「そうなんですね」
霞は楽しそうに話している2人を優しく微笑みながら見ていた。
「よかったですね、ナギ」
ナギに聞こえないくらい小さな声でつぶやく。ナギにとってサツキがこうして現れたことは1番嬉しい知らせだった。
「それより、あんた怪我とかは大丈夫かい?」
「はい。大したことはありません」
十六夜は霞の姿を見回す。砂で装束は汚れているものの怪我は本当にしていないようだった。
「そうかい、ならよかったよ」
「ふふっ。心配してくれてありがとうございます」
霞もまた、十六夜に会えたことが嬉しかった。ずっと会いたかった仲間にこうして出会えたことが嬉しくてしょうがなくて、霞はずっとにやにやと笑って十六夜を見ていた。
「なんだい、気色悪いね」
「ひ、ひどいです」
十六夜が霞を揶揄う。霞は怒って返事したが、顔は笑顔のまま。十六夜とのいつもの会話が懐かしく嬉しかった。
「ナギ、大丈夫?さっきすごく…ボロボロだったけど」
サツキがナギの疲れが見える顔を見て心配そうな声で聞いた。
「えっ?……うん。大丈夫、霞に怪我とかは治してもらったから。……まぁ、ちょっと疲れてはいるけど」
ナギは笑って返事をするので、サツキはその様子を見て少しだけ安心した。
「それより、サツキ。さっきは助けてくれてありがとう。サツキが助けに来てくれなかったら、私……」
「ナギ……」
ナギは言葉を詰まらせる。そこから先の言葉は言いたくもなかったし、聞かせたくもなかった。
「まぁ、間に合ってよかった」
サツキは小さな声で呟く。ナギはずっと、命懸けな戦いを1人で背負っていた。サツキはずっと、ナギを助けてあげられなかったことが悔しかった。ただでさえ1人で抱え込みすぎるナギが誰にも相談できないことはどれだけ苦しかったか、考えるだけでもサツキは胸の詰まる思いだった。
「ごめんね、ナギ」
「なんでサツキが謝るの?」
「……なんとなく」
「変なの」
ナギはくすくす笑っていた。サツキは拳をぐっと握り締めた。今はナギを助けてあげることができる。ナギが1人で抱えていた使命を一緒に背負うことができる。
「ナギ……。あのさ」
「ん?」
ナギは首を横に傾げた。
「昨日までは私は何もできなかったけど……。これからは、私も力になれるから!……どんどん私も頼ってね!」
サツキはナギに満面の笑顔で決意を込めた拳を突き出した。ナギは瞳に雫がたまり、こぼれ始めた。その笑顔が、その言葉がナギにとっては何よりも嬉しくて、心強かった。これからはサツキといつも通りに話せる。サツキに変な心配をかけないですむ。抱えたものを相談できる。
「……うん。よろしくね。一緒に頑張ろう」
ナギはゆっくりとサツキの拳に自分の拳を合わせた。サツキとならこの怖い戦いも頑張れる。
「ナギ、今日は遅いので帰りましょう」
「うん、そうだね霞」
ナギはよろよろと立ち上がった。
「十六夜、私たちも帰ろっか」
「はい。私も一緒に帰宅してもよろしいでしょうか?」
「もちろん!一緒に帰ろ帰ろ!」
十六夜はいつも通りの揶揄うような笑顔で笑っていた。
「じゃあ、ナギ!明日学校でね!」
「うん、明日ねサツキ」
ナギはサツキと別れて家へと向かう。体は疲れで重いはずなのに、足取りはとても軽かった。