45.咄嗟の救助
「主人、もののけの気配が近いです」
「うん」
サツキの顔と声に緊張が走る。さっきまではドラマや映画の主人公気分で歩いていたが、だんだんと迫る現実がサツキの体を強張らせた。
ーー「助けてください」
少し近くで、叫びにも似た助けを呼ぶ声が聞こえた。
「ね、ねぇ今なんか声が」
十六夜の方を見ると、十六夜の顔は青ざめていた。
「今の声は……まさか……主人急ぎましょう」
「うん」
二人は駆け足で声のする方向へと向かった。
「ひぇあーーー!」
その時、近くでけたたましい鳥のような声が聞こえた。
「……!」
サツキの視線の先にボロボロの人が倒れているのが見えた。その人を守ろうともう一人が立ち塞がっている。
「……十六夜!」
サツキの声に反応して十六夜はすぐに刀になる。サツキは考えるよりも先に速度をあげて、高く飛び上がった。あまりにも速い判断に十六夜は驚いた。
「主人、飛び道具で牽制を」
「了解!」
サツキは魔法の力で手裏剣を生み出し、走ってくるもののけの前に投げる。鳥のもののけは驚き、後ろへ走って行った。
「あの、大丈夫ですか?」
サツキはその人の前に立ち声をかける。ボロボロで泣いている。綺麗な着物を着ているが、ひどく汚れていた。
(あれ?この人って……。)
サツキはその姿をどこかで見た覚えがあった。
「主人は前方の警戒を」
十六夜が人の姿に戻り、その人の元へと歩いていく。
サツキは言われた通り目の前の二匹の鳥のもののけを警戒する。こちらを攻撃してくる様子は今はない。とはいえ、得体の知れない恐ろしいその姿にサツキは少し恐怖を覚えた。
「あんなのと、戦うの…。」
さっきまでの冒険気分は完全に吹き飛んでいた。一秒一秒が長く感じる。十六夜がいないことが途轍もなく不安だった。
「主人、遅くなってしまい申し訳ありません」
十六夜がゆっくりと戻ってくる。
「…十六夜。遅いよ全く……」
サツキは強がってはいるが十六夜が戻ってきて心強かった。
「すみません。色々と話を聞いていまして」
「あの人たち大丈夫そう?怪我してるみたいだったけど。」
サツキが心配そうな声で聞いた。
「私の仲間がついていますので、ご安心を。ですが、戦闘に加わるのは難しいのでもののけの方は私たちで対処を」
「なんか回復とかしてあげられないの?」
「まぁ、できないことはないですが、それは私の専門ではありません。むしろ、あっちの方が得意ですから」
「でも、あの子も……後ろの子もボロボロだよ」
サツキは矢継ぎ早に話す。サツキは何故だか倒れている子が心配で、放っておかなかった。もちろん人が倒れていれば心配もするが、それ以上に気になってしまう。助けてあげたい。そんな気持ちで溢れていた。
「でしたらなおのこと。回復に集中させるためにも、主人は目の前のもののけを倒すことに集中を」
「……うん」
サツキは改めて目の前の2匹と対峙する。
「主人、大丈夫ですか?」
「もちろん!全部倒して世界を守ってやるんだから。十六夜.、力を貸してね………!」
言葉と表情とは裏腹にサツキの手は少し震えていた。十六夜はその様子を見てふっと笑った。
「ご安心を。私が主人をこの身に変えても、守りますので」
十六夜は相変わらずの調子。それでも、サツキには心強い一言だった。
「頼りにしてるよ!」
その言葉を聞くと十六夜は刀の姿へと変わった。サツキは目を閉じて深呼吸をする。強く目を開き2匹のもののけに構えた。
「行くよ!!」