43.忍者
「ここです」
十六夜はシャッターが降り、誰も近づかくなった建物の前で止まった。
「はぁ、はぁ、十六夜速すぎ……」
サツキが肩で息をしながらどうにか追いついた。サツキもそこそこ全力で走っていたが、追いつくのがやっとだった。
「よくついてきましたね」
十六夜が揶揄うように笑っていた。
「あ、主人なんでしょ?置いて、いこうと、するなんて……」
「ふふふっ、すみません」
サツキが少し不機嫌そうに睨んだ。
「で、どうしたらいいの?」
「嫌な気を感じる方に指輪を向けてください」
サツキが周りを見渡し、嫌な気を感じる方に指輪を向ける。
「えっと、こう?……うわっ」
そこに禍々しい渦が現れる。
「何これ、気味が悪い」
「……主人、少し急ぎましょう」
十六夜が少し真剣な眼差しに変わった。サツキも戸惑いつつも覚悟を決めて、一歩渦へと踏み出す。
「よし、行こう」
サツキの姿は少しずつ渦の中に吸い込まれて消えていった。
ーーーーー
目を開けると、暗く無機質で不気味な岩場。周りを見てもどこまでも続く深い闇。気持ちの悪い風がサツキの頬をなでる。サツキは少し恐怖を覚えた。
「何、これ……」
サツキは目の前に広がるその景色が、いまだに現実だと信じられなかった。
「ここが常世の世界です」
十六夜が上から降りてくる。
「ねぇ、これからどうしたらいいの?」
十六夜に近づき、怯えつつも決意の眼差しで見つめる。
「そうですね……まずは戦う準備を。主人、その指輪に力をこめて"魔装"と唱えてください」
サツキは十六夜の言葉に戸惑いつつ指輪を掲げる。
「こう?えっと……"魔装"!」
サツキが唱えると幾多の光が溢れ出して包まれる。
「うわっ……すごい何これ……」
光が舞い、風が巻き起こる。木の葉が舞い、月の神聖な光に照らされる。サツキは十六夜と似た動きやすい闇に紛れるための黒い衣に身を包み、髪も高い位置で一つに結ばれていた。
「十六夜もだけど、この格好まるで忍者みたいだね」
「まぁ、そんなもんです」
十六夜はよくわからなかったので適当にあしらって答えた。サツキはぴょんぴょんと跳ねている。
「体が軽い……。これで戦うんでしょ?十六夜と協力して戦うんだよね?」
サツキは腰の後ろの短い刀を抜き、チャンバラのように振って十六夜に声をかける。十六夜はその様子をいつも通りの揶揄うような笑顔で見ていた。
「主人の身体能力は数倍になっています」
「やっぱり!?すごい!」
サツキはぴょんぴょんと跳ねては映画のヒーローのようにバク転をしたり、転げたりしてはしゃいでいた。
「主人、少し落ち着いてください。それと、その刀は使うことはほとんどないのでしまってください」
「そうなの?」
サツキは言われるがまま腰の後ろの鞘に仕舞った。
「じゃあ、どうやって戦うの?」
「そうですね……?」
十六夜はふふふと笑い、目を閉じた。すると彼女は体から光を放ち、刀へと姿を変えた。
「えっ……何?十六夜なの?」
「はい。私です。もののけと戦う時は私を振るって戦ってください」
そういうと、十六夜は元の人の姿に戻った。サツキは目を擦ったり何度も瞬きをしながら十六夜を見ている。
「信じられない。本当これ、夢じゃないよね?」
「はい。間違いなく」
サツキは下を向き少し考えて、十六夜の方を見て決意を固めて言った。
「わかった、十六夜。力を貸してね!」
「はい。主人のことをしっかりと守らせていただきますね。」
「うん。よろしく!」
サツキは屈託のない笑顔で答える。十六夜は少し驚き、優しく微笑んだ。サツキと十六夜は二人で並び、深い闇の奥へと進んでいく。