3.常世の世界と魔法装束
「ここです」
霞に連れられるままにたどり着いたのは、ナギの予想通り、サツキと話していたあの河川敷。
「やっぱりここなんだ」
「はい。ここの辺りが常世の世界から邪気の干渉を受けています」
霞は静かに、はっきりと頷いた。
「だからここに来た人たちは体調を崩して……。ねぇ、どうしたらいいの?」
走って乱れた息を整えながらナギは霞に聞いてみる。
「指輪を邪気を感じる方へ向けてみてください」
「えっと、こうかな?」
ナギが手をかざすと、空間に禍々しい渦のようなものが現れた。
「う、うそ……なにこれ!?本当に、渦がある……」
「これが常世の世界への入り口です」
「これが……?」
ナギは驚き一歩後ろにさがってしまった。それを気にする様子もなく霞はその渦の中へと歩いていく。
「さぁ、主人。行きましょう」
「……う、うん」
ナギは、覚悟を決めてその少し不気味な渦の中に足を踏み入れた。
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目を開けると辺りは薄暗く、ねじれた木々がおどろおどろしくい不気味な影を落としている。ナギの首筋には冷たい風が吹く。
「ここが、常世の世界……?」
ナキは目の前に広がる不気味な世界に、いまだに変な夢を見ているようだった。
「……霞!どこ?」
急に心細くなり辺りを見回して叫んだ。
「いないの……?」
こんな恐ろしい景色広がる世界。一人でいることがたまらなく不安で怖くなった。
「ここにいますよ」
霞は相変わらず無表情のまま、背後に立っていた。
「よかった。いなくなっちゃったと思ったよ」
「ご心配なく。主人を守ることだけが私に与えられた使命ですので」
「……」
ナギは少し何かを言いたそうだったが、何も言わなかった。霞のその瞳の奥にはやっぱり何か寂しさのようなものが見えるような気がしていた。
「さて、戦闘の準備をしましょう」
霞は表情を変えることなく淡々と説明を始める。
「あ、そうだよ。戦うって言ってだけどどうやって戦えばいいの?見たところ武器とかもなさそうだし。もしかして、素手とか?私そんなに力とか強くないよ!」
ナギは少しオーバーに両手を横に振って否定する。運動なんてナギの一番苦手な分野だった。
「武器ならば目の前にありますよ?」
「へっ?どこ?」
ナギはキョロキョロと見回したがそれらしいものはなかった。
「どこにもないよ」
「武器は私です」
すると霞は光を放ち、刀へと変化した。きらりと輝く刀身からはどこか流麗さと力強さを感じる。
「えっ?ねぇ、霞なの?」
「はい、主人。安心してください、私です。もののけと戦う時は私を振るってください」
そういうと再び光を放ち、元の姿に霞は戻った。
「あっ、戻った」
「では、次は主人の番です。指輪の力を解放してください」
「指輪の力を……?」
「はい。天に手を掲げ、"魔装"と唱えてください」
ナギは一瞬ためらってから意を決して手を上に掲げた。
「えーっと、"魔装"!!わっ!」
ナギが唱えると指輪から幾多の光が溢れ出し包まれる。
「うわーっ、すごい何これ」
光が舞い、風が巻き起こる。花びらが渦を描くようにナギの体を包み込み、まるで桜吹雪の中にいるようだった。ナギは霞と似た薄紫色の装束に包まれていた。
「えへへ、何これ可愛い!」
まるで試着室にでもいるかのように自分の装束を嬉しそうに見回していた。
「それは指輪の魔力です。主人の身体能力は数倍に強化されています」
「確かに。なんだかいつもより力がある気がする」
ナギは何度か手のひらを開いたり閉じたりして、魔力を実感していた。
「次は、私をその腰の鞘に収めてください」
「あぁ、これ?」
再び刀の姿になった霞を、しっかりと握り、鞘に静かに戻した。
「これで、主人は私の魔力も使用することができます」
「な、成る程。こうやって一緒に戦ってくれるんだね!」
「はい。その他色々と……ちょうどいいですね。詳しい戦い方はあれと戦いながら説明しますね」
「えっ?」
ナギの視線の先には何匹かの小さなもののけが迫ってきていた。
「えっ!!き、きてるよ霞」
「では、いきましょう」
「い、行くって言われても」
「大丈夫です。私がついています」
「……う、うん!わかった!」
ナギは刀をしっかりと握りしめて、襲ってくる恐怖心を払うようにもののけに向かっていった。