37.まさかの増援
「"鳳仙花"！！」
薙刀を力強くくるくる回し、閃光を鳥へとぶつける。
「ひぇあー！」
鳥のもののけは悲鳴をあげ、羽をバタつかせながら逃げ始める。
「逃がさないよ！」
ナギも薙刀を回しながらその後を追う。鳥のもののけは火を纏いながらさらに加速していく。
「さっきよりも速い……！」
鳳仙花を受けながらも最高速に近い速度で鳥のもののけは疾走を続ける。薙刀を回しながらでのナギの足では追いつけない。
「だったら……"いばら"！」
ナギはさっきと同じ要領でイバラで拘束をしようとした。
「ひぇーーあーー！」
鳥は火力をあげ、拘束しようとしたイバラを一瞬で焼き切った。
「……そんな！」
鳥のもののけは砂埃を巻き上げながらながらぐんぐんと速度を上げて、鳳仙花の射程からも外れていった。
「はぁ、はぁ……届かない……」
「速すぎます……」
ナギは肩で息をしながら一度足を止めた。再び作戦を考える。
「いばらも効かないし、鳳仙花も届かない」
ナギは荒れた息を整え、顎に手を置きながら考える。
「ど、どうにかしなければ……」
霞も同じように考えを巡らせる。二人の心に焦りが生まれる。花衣の効果が切れれば打つ手がなくなってしまう。その前になんとか決めなくてはならない。
「……ナギ、まずは追いついて、少しでも動きを鈍らせてから椿の舞で迎え撃ちましょう！」
「うん。わかった！」
方針が決まった。ナギは力強く頷き、霞を薙刀から機動力と小回りのきく刀に変化させて追いかける。
「ひぇあーー」
ようやくナギが追いついたその時、鳥のもののけは向きを突如こちらへと変え、雄叫びをあげながら突進してくる。
「はぁ！！」
ナギは素早くかわして鳥のもののけの背後を取る。そして即座に刀で斬りかかるが、鳥のもののけの火はまるで鎧のように刀を弾き返す。
「……っ。まだまだ！」
ナギは休む間もなく連続で斬りつける。
「ひぇあ……」
切り付ける度に守っていた火の壁は薄くなり、何度目かに弱々しい声を鳥のもののけが上げる。鳥のもののけは反撃とばかりに慌てて蹴りを繰り出してきた。それをナギは刀で防ぎながら間合いをとる。
「今です、ナギ！椿の舞の準備を！」
「うん、これで決めるよ！」
鳥のもののけは少し遠くへ離れ踵を返し、こちらへ突進してくる。鳥のもののけは息が上がっていた。あちらも、一か八かの賭けに出ているようだ。
「ふぅ……」
深く息を吐き、椿の舞のために力を溜め始める。鞘に入った刀と足元に光が集中してきていた。
「ひぇあーー！」
鳥も雄叫びをあげ、地面を砕くように力強く蹴り出し渾身の突進をこちらにしてくる。
「今！行くよ"椿の舞"」
ナギもまた溜めた力を一気に解放し、渾身の椿の舞を繰り出した。
（いける！！）
ナギはそう確信していた。
「ひぇあーー！」
「……！？ナギ、左です！」
「えっ…？」
霞の指示した方向を見る間もなく、ナギは何か強い力で弾き飛ばされナギの体は宙を舞う。
「ぐっ……」
岩へと叩きつけられたナギの体には激痛が走る。視界がゆらりと揺らいだ。
「…‥何、今の？」
ナギがゆっくり目線をあげると、火を纏う鳥のもののけは2匹でこちらを見ていた。
「……どうやら、もう一匹いたようです」
「……えっ……う、嘘、でしょ？」
2匹の鳥のもののけはお互いを鼓舞するように雄叫びをあげている。
「まずいです……ナギ。2匹はさすがに……」
霞の声は震えていた。1匹ならなんとか抑え込めるが、2匹となるとあの速さで火を扱うもののけでは勝機はほとんどない。
「はぁ、はぁ……でも……やらなきゃ……」
ナギは回復魔法をかけながら弱々しい声でつぶやきながら立ち上がる。ナギはさっきの攻撃でかなりのダメージを受け、全身の痛みで立っているのもギリギリだった。
「ナギ、約束したはずです！危なくなれば一度引くと」
「大丈夫、まだ……やれる！」
ナギは息も荒く、刀を持つ手も覚束ない。霞は今すぐにでもこの場から離れて回復をしてあげたかった。
「「ひぇあーーー」」
鳥のもののけもこちらの劣勢を感じているのか、どこか余裕を見せている。
「……霞、いくよ。なんとか、する……」
「ナギ……」
ナギはいつも通りの優しい笑顔を見せる。その笑顔にはいつもの強さはなく、今にも倒れてしまいそうなほどに疲弊していた。
「私が、みんなを守るから……」
ナギの頭にはサツキやクラスのみんなの笑顔が浮かんでいた。みんなを守る決意だけが今のナギを支えている。
「花衣の効果も……そろそろ切れる……早く、しなきゃ」
ナギはぼやける視界の中2匹の鳥のもののけをしっかりと睨み、強く刀を握る。
「はぁーーー」
気力を振り絞りナギは力強い叫びと共に2匹へと駆け出した。策もなにもなくただ勢い任せに。
「ひぇああーー！」
鳥の1匹がナギへ向かって突進してくる。ナギはもつれる足でなんとかかわす。だが、もう1匹の突進はかわしきれない。ナギは蹴りをもろにくらってしまった。
「うぅ……」
「ナギ、お願いです。言うことを聞いてください！」
「はぁ、はぁ」
ナギはよろよろと立ち上がる。もうまともな思考判断もできなくなっていた。
「まだ…負け…てない…。」
ナギは2匹へと駆けていく。鳥のもののけの蹴りで何度も弾き飛ばされ、また立ち上がる。ナギの体はとっくに限界だった。それでも使命を果たすこと、みんなを守りたいという思いだけがナギの体を突き動かしていた。
「ナギ、花衣の効果もまもなく切れます。そうすると本当に…」
ナギの装束の花は点滅を繰り返し、だんだんと蕾へと戻り始めていた。花衣が切れれば、攻撃から逃れながら脱出はもうできない。霞は必死にナギに呼びかける。
「……はぁ、はぁはぁ……」
もうナギに霞の声は届いていない。その時、鳥のもののけが突進をしてきた。ナギは避けきれず後ろに弾き飛ばされ岩に体を叩きつけられる。その際に手に持った刀を落としてしまった。
「ナギ！！！！」
悲鳴にも近い霞の声が響く。霞はすぐに人の姿に戻りナギのもとに駆け寄った。装束の蕾は完全に閉じて花衣の効果は切れていた。ナギは意識はあるものの目は虚ろで息も荒い。
「ナギ！しっかりしてください！！ナギ！！」
霞はナギを何度も何度も呼んだ。霞の叫びが常世の世界にこだましていた。
面白い、続きが気になるという方はブックマーク、高評価、いいねなどもらえると嬉しいです…
感想ももらえるとすごく喜びます！
