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2.刀の少女と主人(あるじ)

なんだか何かが始まる予感…?

ナギは淡い光を追いかけて路地を駆けて行く。光はふわふわと宙を漂いながら、ゆっくりと路地の奥へと進んでいく。まるでナギを誘うように。



「はぁ………はぁ、待って」


光は突然、ぴたりと止まった。


「はぁ、はぁ……やっと、追いついた」


ナギは膝に手を置いて肩で息をしている。ナギはそこまで運動が得意ではなく、体力もある方ではない。それに慣れない道を走ったのでいつも以上に疲れていた。

少し息を整えて周りを見渡す。


「てゆーか、ここどこだろう?」


夢中で追いかけていたのでいつのまにか見ず知らずの場所に辿り着いていた。不気味な風が頬をかすめ、まるで迷子になった子どものように心臓が高鳴り、不安が胸をよぎる。ナギは心を落ち着かせようと深く深呼吸をして、歩き始めた。


「なんだか、不思議なところ……。あれ?これ、なんだろう」


ナギの目の前には苔の生えた岩に太い縄のようなものが巻かれた祠のような場所があった。ナギは不思議とその祠から目が離せなかった。


岩をぼーっと見つめていると、さっきまで追いかけていた光が岩に吸い込まれていく。岩は眩い光を放ち、次の瞬間、光は強く放たれた。


「きゃっ!」


光が薄れて目を開けるとナギの指には、さっきの光とよく似た、薄紫色の石がついた指輪がはめられていた。


「えっ、なにこれ」


ナギは手を挙げて自分の指にハマった指輪を色んな角度から眺めている。

すると、再びあの岩が指輪と同じ色の光を放ち点滅を始めていた。


「今度は何?もう怖い……」


ナギは体を縮こませて怯えていた。光の点滅が止まると最後にまた強い光が放たれた。


ナギが恐る恐る目を開けるとそこには腰まで届く艶やかな黒い髪に、桜の花びらが舞うように飾られた薄紫の綺麗な着物に身を包んだ、ナギと同じくらいの歳の少女がいた。少女はゆっくりと目を開け、キョロキョロと周りを見回している。


「……一人……ですか?」


少女は小さな声で少し不安げに、戸惑うように呟いた。


「あの〜、あなたは?」


ナギは困惑しつつも少女に話しかけた。少女は何かを思案するかのように下を向き、長い瞬きをした後に口を開いた。


「こんにちは、あなたが私の新しい主人ですね」


少女はナギの指輪を確認していった。


「私が主人?えっと〜ごめんなさい。主人っていうのは何ですか?それに、あなたは一体?」


ナギは困惑していた。いきなり知らない場所で、知らない少女に主人だなんて呼ばれなれない呼ばれ方をしたからだ。


「あぁ……失礼しました。……色々とこちらも戸惑っていまして。私の名前は霞といいます。どうぞよろしくお願いします」

「ど、どうも」


霞と名乗った少女は一礼をし、顔を上げるとそのまま話を続ける。


「私はこの世界、いわば現世の裏にある常世の世界に現れるもののけを打ち払うために生まれました。あなたにはそのもののけと戦ってもらいたいんです。あなたがもののけと戦う為にこの身を懸け尽力いたします」


淡々と、まるで機械のように長くよく分からない話を続ける霞に、ナギの困惑は深まっていくばかりだった。


「常世の世界……?もののけ……?何それ、アニメとか小説?意味わかんない……私変な夢でも見てるの?」


霞は困惑しているナギの様子をみて少し何かを考えるように顎に手を当てて話を続けた。


「すみません。いきなり多くのことを言ってはわからないですよね」


霞はまた瞬きを大きくして、話を続ける。


「では、一つずつ整理していきましょう。このところ何か変なことが起こっていたりはしませんか?例えば多くの人が体調を崩したり」

「あっ」


ナギはサツキとの話を思い出し、思わず口を開けて驚いた。


「思い当たる事があるようですね。その原因は常世の世界にあります。常世の世界で邪悪なる存在、邪鬼が復活してしまったのです。それらは数多のもののけを生み出します。そのもののけが出す邪の力がこちらに干渉し、人間たちに多大なる影響を与えるのです」

「そういうことだったんだ……」


ナギは納得したように大きく頷いた。非現実的な話だが、霞の言葉の説得力と実際に起きている出来事を繋ぎ合わせると辻褄があっていた。


「初めは限られた空間だけですが、放っておけばやがてどんどんと広がっていき世界を飲み込んでいきます」


ナギは霞の真剣な眼差しに引き込まれ、思わず息をのんだ。


「なので、そのもののけたちをあなたが打ち倒すのです。」

「どうして、私なの?」


ナギは純粋な疑問を投げかける。


「光……見えたんですよね?」

「えっ……あぁ、さっきの? うん、見えた」


ナギはここに来た経緯をすっかり忘れていたが、その言葉に追いかけてきた光を思い出していた。


「あれは資格のある者にしか見えないのです。あなたはもののけと戦う資格があります。それは、使命でもあるのです」


霞の言葉には機械的なセリフの中にも強い意思を含まれていた。そしてゆっくりと膝をつきながら話を続ける。


「私はそのためにあなたに尽くし、共に戦うことを誓います。ですから私の主人となりもののけを打ち倒していただけないでしょうか?」


霞はナギの顔を見上げながら、左手を差し出した。


「よくはわからないけど……もしも、もののけを放っておいたらこの世界は…なくなっちゃうんだよね?」

「はい」


ナギは少し体を震わせて顔を伏せていた。霞の話が本当なら、一人でそんな得体の知れないものと戦うことは怖かった。

だが、それ以上に自分にしかできないことを果たさなければという使命感にも駆られていた。


「……わ、わかった。私にその資格があるのなら、私もののけと戦う。だって、サツキやみんなと楽しく過ごしたいから!」


顔を上げ、決意に満ちた表情で霞の手に震える自分の手を重ねた。


「だから、力を貸して!」

「はい、もちろんです。私は主人のために、この力を振るうことを誓います」


霞が目を閉じて力をこめると、ナギは淡色の光に包まれた。


「わっ!何これ」


ナギは周りを包む光中で、右に左に顔をを動かして戸惑っていた。


「主人の名前は?」

「えっと……私は、ナギ。佐倉ナギです!」


周りを包んでいた光は消え、霞の姿がよく見えるようになった。


「承知いたしました。主人、これにてあなたは私の主人です」

「よ、よろしくお願いします」


丁寧にお辞儀をする霞を見て、ナギは慌ててお辞儀を返した。


「早速ですがもののけの退治へといきましょう。場所はわかっていますので」

「私も、なんとなく場所がわかる気がする。すぐに向かおう!」


ナギはもと来た道を引き返そうと、振り返り一歩を踏み出した。


「あーえーっと。ここどこだろう」


恥ずかしそうに霞の方を振り返る。道に迷っていることを今更思い出した。


「私にお任せください」


霞は再び目を閉じて手を前に伸ばす。


「こちらの方からもののけの気配がします。ついてきてください」

「う、うん。わかった!」


ナギは霞に言われるがまま走りだした。

次回、いよいよ常世の世界へ。


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