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28.辛勝

「やりましたね、ナギ!」

「…ぅぅ」

ナギの装束の蕾は閉じていた。花衣の効果は切れてナギはその反動でふらつき倒れ込む。それと同時に魔装も解除された。

「ナギ!しっかりしてください。大丈夫ですか?」

「うん……なんとか……」

ナギはゆっくりと起き上がり両手を後ろにつきながら座った。

「あれ?魔装が解除されている」

「限界だったんでしょう」

指輪はいつもよりも輝きが弱っているような気がする。指輪の魔力を使用して戦っているが、その力を引き出すにはナギ自体が成長しなくてはならない。

「もっと、魔力が扱えるように頑張らないと……」

「少しずつ、鍛錬を続ければ大丈夫ですよ。現に以前よりも魔力の量は格段に上がっていますよ」

「そう?よかった」

ナギは笑っているが、どこか疲労が滲んでいる。本当に身体もかなりギリギリだった。

「はい。あとは、戦闘の際に焦らずに私の魔力を使えばナギの消耗も抑えられると思います」

「うん、わかった。そうするね」

ナギはよろよろと立ちあがろうとする。

「あぁ、待ってください。外へ出る前に少し回復を。外だと回復はかけづらいですし」

「ありがとう。霞」

「はい。戦闘後であれば落ち着いて回復できますし、私にお任せください」

霞は自信がありげなセリフを言いながらナギに回復魔法をかけ始める。

「あ、あれ?」

回復魔法が途中で切れてしまった。

「どうしたの?」

何度か力をこめて両手を曲げ伸ばししている。

「そんな、私も魔力が……」

霞は自分の両手をみながら信じられないというような顔をしている。

「まぁ、霞の魔力も私結構使ってたから。無理しないで!」

「ナギ……。すみません。不甲斐ないです」

「大丈夫。霞のおかげで大分動けるようになったよ。ほら!」

ナギはブンブンと肩を回したりぴょんぴょん跳ねたりして見せた。

「そう……ですか」

(おかしいです。これくらいで魔力切れなんて……。まさか、私も魔力の量が落ちてる?どうして…)

霞はショックなのか、震えながら下を向いている。

「さ、帰ろう帰ろう!」

「そうですね……」

ナギは落ち込んでいる様子の霞のために明るく振る舞って入り口へと帰った。


ーーーーーーー

「はぁ、疲れた〜。早く帰ろう!」

ナギは大きな伸びをして霞に語りかける。霞のおかげで普通に動けるくらいには回復していた。

「そう……ですね」

一方で霞は魔力切れで少し体が重かった。それに、その事実を受け入れられずショックだった。

「ナギ!!」

その時、ナギにとって1番聞き覚えのある声が聞こえた。

「サツキ!?」

「何してんのこっち!」

ナギが名前を呼び終える前にサツキはナギの手を強く引っ張っていた。ナギはその力に流れるままに引っ張られ、霞も慌ててついていく。

「ど、どうしたのサツキ?今日の用事は?」

「それは……終わった!!」

サツキピシャリと言い放つ。怒りのこもっている声だった。その迫力にナギは黙ってしまう。

「それより、なんでナギあんなところにいたの?」

「あんなところって、それは……えっと……」

もののけを退治していたなんて言えるわけがない。

「あそこはこの間まで、いたら体調を崩すって噂があったところでしょ?」

「あ、あー」

それはもう解決済みなので心配には値しない。

「大丈夫だよ!あれはただの噂話だったって……」

「違う!噂じゃなかったんだ、だってナギここのところずっと体調すごく悪そうじゃん!」

ここ最近はナギはもののけとの戦いで疲れ気味。しかも、今は手強いもののけとの戦いを終えたばかり。霞に少し回復してもらったとはいえいつも以上にふらふらだった。

「き、気のせいだよ。そんなに疲れてないよ」

「嘘!見ればわかるよ。なんで無理するの?ちゃんと休んで!」

見たこともないほどに怒っているサツキにナギは戸惑っていた。

「ねぇ、あんなところに近づいちゃダメ。絶対にダメだよ。わかった?」

「う、うん。わかった」

ナギはサツキの凄みに押されっぱなしだった。

「霞さんも!あそこは危ないので行ったらダメです!」

「えっ!は、はい」

霞は突然のサツキからの言葉に驚き、慌てた声で答えた。サツキは今も肩を震わせている。

「霞も私もわかったから。ね、サツキ落ち着いて」

「……うん、わかったならいい。ごめん私も少し熱くなりすぎた」

二人の間に微妙な沈黙が流れる。お互いどう口を開けばいいのかがわからなかった。

「ナ、ナギ。そろそろ帰りましょうか?」

霞が沈黙に耐えられなくなったのか、気を回したのかどっちとも言えない感情のまま言った言葉が沈黙を破った。

「そうだね、霞。サツキ、また学校でね」

「うん…。またね」

微妙な空気のまま二人は別れてしまった。

サツキは本当はナギを送って帰ってあげたかった。心配でもあり、ナギともちゃんと話したかったから。だが、今サツキはナギにどんな言葉をかけていいのかわからず声をかけることができなかった。

「ナギ……大丈夫ですか?」

「ん?大丈夫だよ霞。ちょっと戦いの後だから疲れてぼーっとしてただけ」

ナギは明らかに無理をして霞に笑ってみせた。

「そ、それならいいのですが……」

「うん。ゆっくり休みたいなー。霞も帰ったらゆっくり休んでね」

「……はい」

そういうとナギは霞の少し前を歩き始める。その背中はなんだかとっても寂しそうで、辛そうで。霞はなんとか励ましてあげたかった。

「あ、あの……」

ー主人の生活には、干渉しないことー

ーあんた、ただの刀なんだから私の生活に口出ししないでくれる?

霞は何も言わず、ナギへの言葉を胸へ仕舞った。

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