21.一人きりの鍛錬
放課後、今日も常世の世界でナギと霞はもののけたちと戦っていた。
「はぁー!!」
小さなもののけ達を薙ぎ払い、残りは大きなもののけ一体。
「あと少し!いくよ、霞!」
「はい!」
ナギは鞘に刀を納めて力を溜める。
「"椿の舞"!!」
力を解き放ち鬼を倒した。
「ふー。お疲れ、霞!」
「ナギもお疲れ様です。」
ナギは額の汗を笑顔で拭っていた。霞も人の姿に戻って一礼する。
「ねぇ、霞。気になることがあるんだけど聞いてもいい?」
「はい。何でしょうか?」
「これって、何のためにあるの?」
ナギは自分の腰に携えている刀を指差した。
「最近気づいたんだけど、このもう一本腰にある刀があるよね?もののけと戦う時は霞が戦ってくれるし……こっちの刀は何に使うのかなーって」
ナギは刀を抜いて刀の様子を細かく確認していた。
「それは、緊急時に使用するものです」
「緊急時……?」
「はい。もののけとの戦いでは何が起こるかはわかりません。ですから、念のためです」
霞は丁寧に説明をしてくれた。
「なるほどね……まぁ、確かに戦いの時にこれがあったら霞も少し休めるし便利かも」
ナギは優しく霞に笑いかける。霞は自分のことを心配してくれることが嬉しかった。
「ありがとうございます。ですが、それは私より攻撃力は劣りますのでお気をつけて」
霞は胸に手をおきながら言った。ナギは頷きながら予備の刀を鞘へ戻した。
「よし、それじゃあそろそろ帰ってご飯を食べようか!」
「はい。楽しみです」
ナギと霞は戦いを終えて外へとでる。霞もナギの夕ご飯が毎日の楽しみになっていた。
ーーーーーー
「わぁ、見て霞!綺麗な満月だよ!」
「本当ですね」
ナギが楽しそうに空を指をさして月を見る。霞もゆっくりとそらを見上げる。
「中秋の名月の時以外も十五夜は月が綺麗なんだね……」
「十五夜……では、明日は十六夜なのですね」
霞は少し寂しそうな声で呟く。霞の脳裏には仲間の姿が浮かんでいた。
「霞……どうかした?」
「いえ……なんでもありません。お月様が綺麗ですね」
霞はまだ月を見ている。その目は少しだけなんだか遠くを見ているようだった。
ーーーーー
「じゃあ、行ってくるね!」
「はい、いってらっしゃい」
学校へ行くナギを見送った後、道場に入り霞は鍛錬をしていた。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
霞は軽く準備体操をすませると、技の動きを確認しはじめていた。
「ここの動きがしっくりこないですね……。もっと早く動けるようにしなければ。みんなはどう思……」
霞は周りをくるくる見渡した。霞は自分の動きに対して誰かに相談をしたかった。
だが、今は仲間がいないため一人で鍛錬をしなくてはならない。分かってはいるが、霞は時々癖でみんなに意見を求めようとしてしまう。
「一人での鍛錬は……寂しいですね……」
霞はぽつりと呟く。霞はいつもみんなと鍛錬をして互いに高め合ってきた。それができない今の鍛錬は基礎の動きの確認しかできないため、物足りなさとそれしかできない不安に襲われていた。新しい技の練習も、それを試すための手合わせも…一人ではできない。
「みんな、本当に……どうして……。早くきてください……」
霞は一人で道場でうずくまって泣いていた。主人であるナギには涙を見せないように。
「十六夜……」
霞はポツリと名前を呟いた。
「……泣いてなどはいられませんね。みんながいないのなら私が頑張るしかないですから」
霞は涙を拭いて、一人でまた鍛錬を始める。
みんながいない今もののけと戦えるのは自分しかいない。
そう言い聞かせて、霞は黙々と技の確認や基本の動きを繰り返す。霞が床を踏みしめる音だけが、静かな道場に響いていた。
「さて、今日はこれくらいにしましょう」
一息をつき、道場に一礼をして部屋へと帰る。霞には今日どうしてもいきたい場所があったのだ。霞はナギにもらった洋服に着替えて買い物に出かけていった。
ーーーーーーー
「ただいま。霞」
「お帰りなさい、ナギ」
霞がいつも通りに迎えてくれる。ナギはTシャツに着替え、テストに備えて勉強を始めた。霞はもののけが現れた時に備えてソファに座っている。
しばらく時間が経ってナギが勉強を終えて台所へと向かう。
「ごめんね、テストが近くて」
「いえ、大丈夫です」
霞はニコリと笑っていた。
「今日は、生姜焼きだよ〜」
「楽しみです……」
霞はいつも通りの明るい顔をする。だが、どこか寂しそうな顔にも見えた。ふと、机を見ると見慣れない袋が置いてあった。
「霞、それは?」
「あ……えっと……。今日は、どうしてもお団子が食べたくて……。ナギとこの間いったあのお団子屋さんで買ってきました……」
霞が何か自分で買い物をしてくるのは珍しい。
「そうなんだ……あっ、一人で買い物大丈夫だった?」
「はい。ナギに教えてもらったので。……すみません、一人で勝手にいってしまって」
「全然、大丈夫!霞が過ごしたいようにしててよ。一人で行くのが難しかったら休みの日にでも一緒に行こう」
「はい。ありがとうございます」
霞は一礼をしてテーブルを拭いて、食器を運び夕飯の準備の手伝いをはじめた。
「さっ、できたよ!」
「美味しそうですね……!」
霞はいつも通りの満開の笑顔で生姜焼きを見つめる。料理を見る時はいつも楽しそう顔になる。
「いただきます」
霞は生姜焼きを口に運び、また笑顔になる。カレーのことがあるので霞のものはできるだけ辛味要素を排除して料理を作っている。霞の笑顔を見るに、辛さの部分は大丈夫そうだ。
夕飯を食べ終えたあとはナギはお風呂に入ってその間に霞が食器を洗って片付ける、というのが二人の行動パターンである。
「はぁ、気持ちよかった」
ナギは部屋着に着替えてソファに座る。今日はもののけも出てこなかったのでのんびりと過ごすことができた。
「あれ?」
ふと、ベランダに目をやると外で霞が一人で空を見上げている。静かな風に髪を靡かせ、どこかもの寂しそうな雰囲気を帯びていた。