17.再び
次の日、ナギたちは昨日撤退した常世の世界に再び戻ってきた。
「今日は、負けないよ……!行こう、霞 」
「はい!任せてください、ナギ 」
ナギと霞は昨日の一件で距離が縮まっていた。
「行くよ!"魔装"」
ナギは魔法装束に身を包み奥へと向かう。
「ナギ、来ます!」
「うん!」
小さなもののけたちが近づいてくる。その中にはこの間の犬のもののけもいた。
「ちょっと復活してるのかな?」
「かもしれません。ですが、数は昨日より少ないです 」
霞の言う通り、昨日より数が少なかった。
「油断しないで、一気に決めよう!」
「はい。」
「霞、形態変化!」
ナギは薙刀に持ち替えて敵に近づく。小さなもののけを一気に薙ぎ払い、犬のもののけが残った。
「突進、きます!」
「同じミスはしないよ!」
ナギは冷静に動きを見極めて横に飛び、薙刀で一気に払った。
「やった!」
「さすがです。ナギ!怪我などはしていませんか?」
「うん。大丈夫!霞は?」
「私は平気です 」
「よし、じゃあ奥に行こう 」
二人は奥へと向かっていく。昨日本音で話して以降、少しだけ霞の口調は砕けたものになった。ナギにとってはその方が話しやすく、一緒に戦っている気がしてより心強く感じていた。
「まもなく強い反応を感じる地点につきます。ナギ、構えてください!」
「うん。準備は万端だよ!気を引き締めていこう」
ナギは少し緩んだ顔を元に戻し集中し直した。
「……あれだね 」
そこにいたのは、周りに小さな蛾をたくさん飛ばしながら立っている、人と同じサイズほどの鬼。蛾は鬼を隠すほどに群がっていた。
「何……あれ。少し気持ち悪いかも 」
「私もです……あまり虫は好きではありません 」
ナギは顔を少し歪ませる。
「でも、行くよ!」
「はい!」
ナギは霞を薙刀から刀に戻して近づく。すると、雄叫びをあげながら蛾をこちらへと飛ばしてくる。
「うわっ……」
ナギは刀で素早く切り、それらを落ち着いて対処する。蛾はみるみる減っていき、鬼の姿が見えてきた。
「見えてきたかも 」
「もう少し減らせば、刃が届きそうです!」
しかし、そんな2人の考えは脆く崩れる。
"びぇわわぁーー!"
鬼が雄叫びをあげると再び蛾が集まり始めて鬼を隠し始めた。
「嘘でしょ!?」
ナギが絶叫に近い声をあげる。すぐさま後ろに飛び、少し距離をとった。
「また増えてる……」
「とりあえず、蛾が消えるまで攻めましょう!」
「うん。いくよ、霞 」
ナギはまた鬼に向かって走っていった。鬼は雄叫びをあげて蛾を飛ばしてくる。ナギは素早く斬り、一つずつ冷静に処理をしていく。少しずつだが、蛾は減っていっている。
しかし、再び雄叫びをあげるとまた集まってきた。
「怯まずにいくよ!」
「はい」
ナギは怯まず何度も何度も斬り蛾を減らしていく。しかし、どれだけ蛾を切っても鬼が雄叫びをあげるたびに蛾は何度でも現れる。
「……これじゃ……キリがない……」
疲れからか少しずつ動きが鈍くなってくる。そこの隙をついて蛾がナギに群がってきた。
「きゃっ。痛っ。離れて!」
くるくると回り、蛾を振り払うと少し距離を取った。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ナギ、大丈夫ですか?」
ナギは息が上がっている。さらに蛾によって少しだがあちらこちらに小さな傷がついていた。
「これくらいは……回復魔法で、なんとか 」
ナギは自分に回復魔法をかけている。
だが、もののけはそんな悠長な時間を与えてくれるはずもない。すぐにたくさんの蛾がナギへと襲いかかる。
「休んでる暇はないみたい」
ナギは完全に治療を終わらせる前に立ち上がり蛾を薙ぎ払う。
「どうにかしなければ……蛾を少し減らして椿の舞で一気に決めるのはどうでしょう?」
「無理…….力をためる隙がない」
椿の舞を使うためには一度鞘に納めて力を溜めなくてはいけない。ひっきりなしにやってくる蛾の攻撃をいなす必要がある。仮に力を溜めることができたとして、その間に蛾が復活してしまっては刀が届かないかもしれない。
「だから、蛾を払いながらなんとか鬼に刀を届かせないと……」
ナギは蛾をいなしながら戦略を考える。
「だから、まずは色々試してみる!"いばら"」
鬼に向かってイバラを出す。一瞬鬼がごそごそと動きづらそうにしていた。しかし、蛾の動きは止まらない。少しして鬼はいばらをちぎった。
「蛾は止まんない。だったら、霞、"形態変化"」
「はい!」
霞は薙刀の姿に変わった。
「椿の舞よりは時間がかからないから……"鳳仙花"!」
ナギは薙刀をくるくると回して火花のような閃光を飛ばす。蛾は閃光で次々と散っていく。
「効いています!蛾がどんどん減っています。」
「うん!どんどん行くよ!」
ナギは薙刀をくるくると回しながら鬼へと近づいていく。閃光と薙刀の刃で近づいてくる蛾はどんどんと散っていく。そして、いよいよ鬼の前まで辿り着く。
「いける!たぁーー!」
鳳仙花を鬼へと叩きこむ。鬼は後ろに倒れ込んだ。
「やった……?」
「……いいえ。あまり手応えが 」
「えっ?」
鬼はするりと立ち上がりところどころ欠けた鬼が見えた。
「嘘……。なに、あれ?」
欠けたところに次々と蛾が集まり元の姿に戻っていく。
「恐らく一瞬見えたあの細い腕、あれが鬼の本体です。常に大量の蛾を纏い、攻撃を防いでいるのでしょう 」
「じゃあ、あの蛾が復活する前にどんどん叩き込むしかない……けど 」
蛾の再生速度はかなり早い。このままでは追いつくことはできない。
「とにかく、もう一回攻めてみる。行くよ、霞!」
「はい……!」
薙刀を構え、もう一度鬼へと対峙する。