14.サツキと霞
「あれ?ナギ?」
そこにはサツキが立っていた。手に持っている荷物から少しだけ葉野菜がはみ出しているので買い物帰りだろう。
「サツキ……」
「やっほー。今から買い物?」
「うん。サツキは帰り……?」
「そだよ!今日買わないといけないのあったの忘れてて。勉強もひと段落ついたしさ 」
鞄を軽く持ち上げてナギに笑って見せる。
「ってか、その子誰?」
ナギの後ろに立つ霞を見ながら聞いた。
「あーえっと、親戚の霞だよ 」
「初めまして。ナギの親戚の霞と申します。今は仕事の都合でナギのお家にお世話になっています 」
「初めまして。ナギの友達のサツキです 」
二人は一礼しあっている。
「いつから一緒に住んでるの?春休みの時はいなかったけど 」
「新学期始まってすぐだよ!短い転勤で、しばらくこの辺りにいることになったんだ。家を借りるくらいなら親戚の私のところに……ってことになって 」
ナギは万が一に備えて決めていた設定をサツキに説明する。
「そうなんだ。でも、賑やかになって楽しそうだね!」
サツキは笑顔で言った。
「そ、そうだね!」
「ねーねー、今度遊びに行ってもいい?霞さんとも話してみたいし 」
「えっと……。私は大丈夫!」
ちらっと霞の方を見る。
「私ももちろん構いませんよ 」
「やった!じゃあ今度ナギん家に遊びに行くね 」
「うん。わかった 」
「じゃあ、また明日ね〜。霞さんもまた!」
サツキと別れて再びスーパーへと歩き出す。
「はぁ、よかった 」
ナギはサツキが急に帰ったことを怒っていないかと不安だった。サツキの様子を見るに大丈夫そうだと思い少しだけ安心した。
(でも、ずっとサツキとこんな感じなのかな)
ナギは心のどこかにそんな不安が浮かんでいた。
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夕飯を終えて、ナギはソファでのんびりとしていた。
「主人、お片付け終わりました 」
「ありがとう。ごめんね、いつも 」
霞はご飯を終えると、ナギに変わっていつも片付けをしてくれる。
「いえ、ご飯をいただいているお礼です。こちらこそありがとうございます。」
霞は丁寧に頭を下げた。
「そうだ、霞!」
ナギは立ち上がって何かを持ってきた。
「はい!これ!」
「これは……」
前に霞が渡した巾着だった。中を開けてみると中にはお金がまだ入っていた。
「主人、これは主人のものですよ 」
「流石に全部預かるのは、と思ってさ。それは霞が使って!」
「ですが……」
「これだけは霞の食事の材料費でもらって、あとは予備費とこれが霞の分!霞もお昼に好きなものとか選んでお買い物とかしたら楽しいと思って!」
ナギは笑顔で言う。霞は無言で巾着を見つめていた。
「……やはり頂けません。私は主人にお世話になる身ですから。これは主人のために使用してください 」
霞はナギの手をそっと押し返した。
「……じゃあ、わかった!これは私が霞にお小遣いとして使用する!これなら私が私のために使ってるでしょ?」
ナギは閃いたように人差し指を立て言った。
「……本当によろしいのですか?」
「うん!えっと、そうだ……!これは命令だよー!」
ナギはあえて揶揄うように言った。霞は素直に受け取ってくれないと思っていたから。命令という形であればきっと霞は受け取ってくれるだろうと考えた。
「……ありがとうございます。大事に使いますから 」
自分のために主人が考えてくれていることに本当に心から嬉しくなった。霞は巾着を胸に押し付けていった。霞はこれからの生活の中でのわくわくに胸がいっぱいだった。