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12.週末

キーンコーン、カーンコーン


チャイムが鳴り放課後。


サツキと一緒に下校し、いつものカフェにいた。



「1週間終わった〜!」

「金曜日ってテンション上がるよね〜!」


二人は両手をあげて体を目一杯に伸ばした。


「うん。明日はゆっくり寝ようっと」

「まぁ、始まって1週間にしては課題が多いよね……」


今回は国語、数学、世界史といきなり課題が出ていてサツキは少しゲンナリとしていた。来週の模試向けてのものがほとんどだった。


「まぁ、模試もあるし頑張ろう!わかんないとことかは教えるね!」

「さんきゅーほんと助かる!……それ終わったらケーキバイキングが待ってる!」

「だね!楽しみ!」


ナギとサツキはたくさんのケーキを想像し、周りから見ると不気味なようなほどにニヤニヤとしていた。


「そのために、いい点数とるぞー!」

「おっ、その意気だよサツキ 」

「えへへ。………とりあえずナギは土日しっかり休むんだよ!」

「へっ?」


サツキはふざけた様子をやめ、少しだけ真剣な顔でそう言った。予想外の言葉にナギは思わず目をパチクリさせて驚いた。


「だってナギ、ここ何日か疲れてる感じがするからさ 」

「あー……あはは。大丈夫だよ!春休み明けでまだ慣れてないだけ……」


ナギは勉強にもののけ退治に鍛錬と少し疲れが溜まっている。それをサツキに勘づかれていた。サツキに心配をかけたくないのでナギは疲れていないように振る舞う。だが、そのナギの表情は固かった。


「……そっか、私もまだなれないしな〜。ま、何かあったら私に相談してね!力になれることならいつでも手伝うからさ!」


サツキは気づいていない振りをして満面の笑みで親指を立てる。それはとても優しくて頼もしい笑顔だった。


「ありがとう……。サツキ 」

「えへへ、それが友達ってもんよ!」

「………」


サツキの優しさが少しだけ、嬉しくも苦しくもあった。今ナギが抱えていることは、サツキには相談できない。だから、サツキにはなるべく心配をかけたくはなかった。


時々苦しくなって助けを求めたくもなるが、それはできない。


(サツキには心配させないようにしないとな……)


1時間くらいカフェで過ごして、サツキと別れ家に帰った。


ーーーーー



「お帰りなさい。主人 」

「ただいま、霞 」


霞が玄関で丁寧にお出迎えしてくれた。


「今日ももののけがでなければいいんだけど」


ここ数日はもののけが出ていないので少しだけ体も心も休まっている。その分の時間を鍛錬に使えたので技の技術も少し上達していた。


「はい。休める時にはしっかりと休息を取ることが大切です 」

「うん。そうだね。明日は学校お休みだしゆっくり休めそう 」


ナギは欠伸をしながら着替えて、疲労で重たい体をソファへ投げた。


「はぁ、落ち着くなー 」


ナギはなんだか瞼がだんだんと重たくなってきてしまった。


(少しだけ……寝よう……)


ナギはとうとう瞼の重たさに負けてしまった。



霞はソファで疲れて眠るナギを、心配そうにじっと見ていた。


ーーーーーーーーーー


ナギが目を開けると外は夕闇に包まれていた。


「ん………えっ、あっ!もう7時回ってる 」


寝ぼけて時計を確認したナギは、時間を見て慌てて飛び起きた。


「………はっ!もののけは?」


ナギがまだ寝ぼけた声だった。


「安心してください。現れていません 」

「よかった 」


霞の淡々とした報告に、ナギはほっと胸を撫で下ろした。


「主人、お疲れのようですね。あまり無理をしては……」

「大丈夫だよ。たまにソファで寝落ちしちゃうことはあるから、心配しないで!」


欠伸をしながらそんな風に言うナギを、霞は心配そうな暗い顔で見ている。


「明日は霞の洋服買いに行こうね!」

「主人、私のことなどはお気になさらず、ゆっくりと 休んでいた方が……」

「ううん。買い物は気分転換になるから!付き合ってくれない?」

「わ、わかりました 」


ナギの笑顔に嘘はないと思い、霞は一緒に買い物に行くことになった。


ーーーーーーーー

土曜日、霞とナギは学生に人気のブティックにきていた。


「わ〜。これ可愛い。霞!着てみて!」

「え、えっと……」


霞は周りを気にして落ち着かない。霞はあまり人通りの多く賑やかな場所に来たことがなかったようで、振る舞い方がわからないようだった。


「似合ってるよ!」

「ありがとうございます…… 」

「これも可愛いな。サツキに似合いそう」


ナギは無邪気に鏡を見ながら洋服を当てて、とても楽しそうに服を選んでいる。そんなナギの様子を見て、霞もなんだか笑顔になった。

主人が少しでも気分転換をすることで休めるのなら、霞は付き合うことも使命を果たすことにつながると思っていた。


「霞は気になるものある?霞の洋服を買いにきてるの忘れて自分の見ちゃってたよ 」

「私は、別にその……」

「………」

「で、では私も少しみてみます 」


ナギの無言の視線に慌てて霞は洋服を選び始めた。そもそもの目的は自分の洋服を選ぶためにやってきたのに、何も選ばないというのはむしろ失礼に当たると考えにいたった。


(でも、本当に私が何かを欲しがっていいのでしょうか)


何かを求めること、何かを得ようとすることは自分にとっては必要なのか。霞は二つ感情の板挟みになり、手が止まってしまった。


「霞ならこんな色が似合いそう!」


ナギが二つ候補の洋服を渡してきた。その顔はいつもの満面の笑顔。

霞は、自分のことを真っ直ぐに見てくれているその笑顔がなぜだか好きだった。


「わ、私はこういうのが好きです 」


霞はナギの持ってきた服の片方を選んだ。シンプルな白いワンピース。ボタンには花を模した装飾が施されている。


「こういう感じのが好きなんだね!」

「は、はい!」

「だったら、この辺とかは?」

「………可愛いです 」


霞は洋服を選んでいるうちに迷っていた気持ちがどんどんなくなっていた。

今は、使命を果たすことだなんて今は忘れてナギと洋服を選ぶこの時間が楽しくてしょうがなかった。


「……これにします!」


霞は一つを選び、ナギに手渡した。


「いいと思う!じゃあ買ってくるね!」

「ありがとうございます 」


霞は弾けるような笑顔で一緒に帰っていった。

主人と一緒に買い物をした、それだけのことだったが霞にとってはかけがえの無い楽しいひとときだった。

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