11.再び常世の世界へ
ナギと霞は荷物を置くともののけの気配を感じた場所へとやってきた。
「昨日の今日でまた……」
「大丈夫です。中の気配はそんなに強いものではありません」
「わ、わかった。じゃあ行くよ!」
ナギが強い気を感じる方に指輪を向け、力をこめると、禍々しい渦が広がっていく。ナギと霞は中へ足を踏み入れた。
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常世の世界は不気味な空の色に、気色の悪い生ぬるい風が吹いていた。
「うぅ。やっぱりここ少し怖いな……」
ナギは体を強張らせながら、辺りを見回し不安そうに呟いた。
「主人、安心してください。私がついています」
「頼りにしてるね!」
霞の静かではあるが力強い声に、ナギは安心した。
「それでは、もののけが現れる前に魔装の方を 」
「うん、行くよ!"魔装" 」
ナギが指輪を上に掲げて言葉を叫ぶとナギは魔法装束に包まれた。
「よし、頑張ろう!」
ナギは気合いを入れるように両手を胸の前で強く握りしめた。
「それでは、奥へいきましょう 」
ナギ達は強い力の感じる方に歩いていく。
「主人、いました!」
すると、目の前に小さなもののけが何匹かいた。
「あれだけ?」
前回来た時より小さなもののけにナギは拍子が抜けた。
「今回は反応が小さかったのでこの程度です。ですが主人、油断は禁物です 」
「もちろん。霞、行くよ!」
ナギは刀を構えてもののけたちに向かう。
「ふっ!」
ナギは刀をふるい、もののけたちを片付けていく。
「よし、あと1匹 」
「主人、あれは少しまずいかもしれません 」
霞の声に僅かな動揺の色が混じった。残りの1匹は炎をまとったもののけだった。
「まずいって?」
「実は……私の魔法は炎に弱いのです 」
霞が自信なさげな弱々しい声で言った。小さなもののけを相手に不安要素があることが少しだけ情けなかった。
「そ、そうなんだ。どうしたらいい?」
ナギも慌てた口調になる。もしかすると攻撃が効かないかもしれないという不安。そして、霞が炎を受けて大丈夫なのかという感情が渦巻いた。
「大丈夫です。全く効かないわけではないので。立ち回りをうまくすれば…… 」
「わかった、慎重に攻めよう!」
ナギは炎のもののけと距離をとりながら様子を見る。炎のもののけは奇声をあげながら火を飛ばしてきた。
「うぅっ……」
左に飛んで避ける。左頬に、肌がひりつくほどの火の熱気を感じた。
「長引くほうがまずいかも……。霞、一気に決めるよ!」
「承知しました 」
ナギは力をこめる。刀が光始めて一気に炎のもののけに斬り掛かる。
「椿の舞!」
炎のもののけは光に包まれて消えていった。
「ふぅ。やった!全部倒せた!」
「お疲れ様です、主人 」
ナギは額の汗を拭っていた。
「霞もお疲れ様。とりあえず帰ろっか 」
「はい 」
ナギは力を込めて入り口へ帰る。
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ナギ達はもののけ退治を終えてうちへ帰ってきた。
「ふぅ。今日はもののけ少なくてよかった。毎回今日みたいなのだったらいいんだけど 」
「そうもなかなかいかないですね 」
「だよね……あはは」
ナギは苦笑いをしながらそう言った。そんなに都合がいいものではない。今日の方がイレギュラーなんだと悟り、改めて使命の重さを感じた。
「ですが、現れない日もあるのでそういった日に体を休めることをおすすめします 」
「うん!わかった 」
「しかし……炎を扱うもののけの対策は考えなくてはいけませんね。今日のような弱いもののけならばあの方法で対処可能ですが、以前のような大きいもののけだった場合、椿の舞で倒せるかどうか 」
霞は顎に手を当てながら、冷静に今後についてを考えていた。
「そうだね……。ねぇ、今まではどんな風に対処してたの?」
「……えっと、それは……」
ナギの真っ直ぐな疑問に霞は言葉に詰まり、すぐに目線をそらした。霞は意外と感情がわかりやすい。何かを隠しているのだとナギはすぐにわかった。
「とりあえず他にも私が習得している技を少しずつですが指南いたしますのでそれで対処を 」
霞は話題をそらした。隠していることは気になったが、どこか寂しげな表情を浮かべている霞にこれ以上追求することはできなかった。
「うん。わかった!椿の舞以外も使いこなせるように頑張るね 」
「はい。よろしくお願い致します 」
「さ、とりあえずご飯にしよっか!」
今日の夕ご飯は野菜炒め。キャベツや玉ねぎなどたくさん野菜を買ったのでそれらをまとめて塩胡椒で炒めた。シンプルな味付けだが、湯気からも感じる香ばしさは食欲を刺激する。
「お待たせ!」
「ありがとうございます。いただきます 」
霞は料理をふーふーと息を吹きかけて口に運ぶ。するとみるみるうちに笑顔になっていく。
「美味しいです」
霞はそう手を止めずにどんどんと笑顔で口に運んでいく。
(霞は本当に食べるのが好きなんだな。作りがいがあって嬉しい)
ナギは霞に言いたいことを心の中で呟いた。
伝えると、きっと霞は照れてしまうから。ナギにとって非日常の中で素直に笑ってくれている霞を見ると、安心した。
「よーし!明日からまた頑張るぞ〜!」
ナギは決意新たに野菜炒めを口へと運んだ。