105.2人でスーパー
「ただいま!霞」
「お帰りなさい、ナギ」
夕方、ナギが学校から帰ってきた。霞は今日はソファで眠っていたため、ほんの少しだけ体調が回復していたので、ナギの前でもギリギリの笑顔を見せることができた。
「今日は、お買い物の日ですよね。私もお手伝いに」
「大丈夫だから、霞は休んでて」
ナギは優しくそう言うと、制服から着替え、準備を始める。霞には少しでも休んでいて欲しい、そう思っていたのだ。
「いえ、そういうわけには……。今日もあまり動いていませんし、少しでもお手伝いを」
霞はナギに無用な心配をかけたくないと、なるべくできる限りいつも通りの自分を取り繕うと必死だった。
「でも……」
「大丈夫です。買い物の荷物を持つくらいなら余裕です」
霞は両手をグッと胸の前で握り、真っ直ぐにナギを見つめる。純粋でまっすぐなその瞳は、少しだけナギの胸を刺した。
「わかった……一緒に行こう」
「はい!私も準備をしますね」
霞はくるりと回り、光に包まれる。光が消えるといつもの和の装束から、軽いTシャツとズボンに着替え終わっていた。
「では、行きましょう」
「……うん」
ナギは玄関へと向かう霞の後ろを心配そうにゆっくりとついて行った。
――――
スーパーは買い物に来るお客さんで人がごった返している。
ナギは前もって決めていた買うものと、見つけたお得なものをカゴに入れて、レジへと並んだ。
「ふぅ……人が多いと疲れるね」
「はい。歩くのも一苦労という感じでした」
会計を終えるとサッカー台でナギはカゴから2つのマイバッグへと、買った商品を手際よく次々にバランスを考えて詰めていく。
霞は、サッカー台の周りに人が多かったため一足先に外で待っていることに。
「……」
ナギは一つだけ確かめたいことがあり、一度カバンに入れたものを取り出して、もう一度詰め直した。
外では霞が背筋をピンと伸ばしてそこで待っていた。
霞は出てくる人の中からなかなか来ないナギの顔を探す。すると、チェック柄とベージュのシンプルなマイバッグを両手にぶら下げたナギが出てきた。
「霞、遅くなっちゃった。台が混んでて」
「いえ、今日は人が多いですね」
霞が改めて辺りを見回しながら人の多さに驚いた。いつもよりも多く、人の多い場所は霞は少し苦手のようだ。
「では、荷物は私が……」
「うん、ありがとう」
霞は、いつも通りナギの持つ2つのバックを貰おうとすると、ナギはチェック柄のマイバッグを前に出して渡した。
「2つとも私が持ちますよ、ナギ」
「ううん。霞だって疲れてるだろうし今日は1つずつにしよう!」
「ですが……」
ナギが優しく笑いかける。霞は、自分にできるナギへのお手伝いの一つなので少し顔を暗くした。ここ最近、休ませてもらってばかりでナギに心配をかけているのでなおのことできることはしっかりとやりたいと思っていたからだ。
「うーん……わかった。じゃあ霞に重たい方をお願いしようかな?」
ナギはバッグを入れ替えてベージュの方を霞に渡した。少し膨れたバッグの上からは葉野菜も顔をのぞかせて、見るからにたくさんのものが入っていそうな方だった。
「わかりました!こっちの方は私に任せてください」
霞はずっしりとした重みを腕に感じつつ受け取る。少しでも頼ってもらえていることが霞は嬉しく、安心でもあった。
「……ありがとう、霞。……さっ帰ろうか」
少し悲しげにそう呟き歩き出したナギの後ろを、霞はバッグを持って後ろからついて行く。霞はその言葉が気にはなったものの、後ろから見るナギの姿はいつも通りだったので気のせいだと思いそのままついていった。
(霞……やっぱり……)
ナギは振り返らずに唇を噛み締めた。