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103.霞の異変

それから数日後、ナギとサツキはいつものお気に入りの場所で風に当たりながらお昼を食べていた。

「あぁ、もう最悪。午後も小テストあるなんてさ」

「そうだね、でもテスト範囲もこの間とほとんど一緒だし大丈夫だよ」

「だね、まぁいつもよりは自信あるかも」

ナギの言葉にサツキは少しだけ自信を取り戻した。

「………」

「ナギ?」

よく見ると、ナギはさっきからお箸が進んでおらず弁当箱の半分くらいまだ残っていた。

「どうしたの、食欲ないの?」

「あぁ……ううん。大丈夫」

作り笑いのナギには明らかに元気がない。サツキはまたナギが何か無茶なことをしているんじゃないかと心配になった。

「ナギ、疲れてるんだったら私に頼ってくれていいんだよ。このところ毎日もののけ現れてたんだから当然だよ」

「サツキ……」

「私、勉強は苦手だけど体力だけならナギよりあるんだからね」

サツキがふざけたようににかっと笑うと、ナギもようやく笑ってくれた。その表情にサツキの心配は少しだけ解れた。

「じゃあ、ちょっと話してもいい?」

「うん、どうぞどうぞ」

ナギは徐に口を開いた。

「霞のことなんだけど……」

「霞ちゃん?霞ちゃんと何かあったの?」

「ううん。そうじゃないんだけど、なんだかここのところ元気がなくて」

ナギの顔にまた影が落ちる。


♢♢♢

戦いを終えて帰ったある日。

「霞〜、ご飯できたよ!」

いつも通り、机を拭いたり準備をしている霞へと声をかける。いつもなら霞はその一言を聞くと笑顔の花を咲かせる。そう期待していた。

「……ありがとうございます」

帰ってきたのは無気力で疲労が滲んだ声だった。心配しつつも、ナギを見て必死に笑顔を作る霞を見てナギは聞くことができなかった。

芋の煮っころがしを机に並べ、ご飯の時間。

「いっただきます」

「いただきます」

いただきますの挨拶をして、ナギは一口お芋を口へと運ぶ。出汁の染み込んだお芋が口の中でふわりと香りと共に解ける。

「ん〜、美味しい」

疲れた体に染み渡り、思わず目を閉じて感嘆の声をあげるナギ。霞はご飯を食べる時は普段見せないほどの笑顔になる。だから、霞はきっと喜んで食べていると思って目を開ける。

だが、霞はとても小さな一口を齧り必死に口の中で噛んでいる。ごくりと飲み込むその姿はいつものご飯を楽しむ霞の姿からは想像ができなかった。

「霞、大丈夫?もしかして苦手だった?」

「えっ……?い、いえ……そんなことは。とっても美味しいですねこれ」

霞は慌てて笑顔を作り誤魔化そうとするが、その笑顔はひどく引き攣っていた。

もちろん、そんな笑顔でナギの心配が晴れるはずもない。ナギは震える瞳で霞を見つめる。霞は耐えられず、観念して箸を置いた。

「すみません、思ったより疲れていてあまり食欲が……」

「……そっか。そういう時は無理しないで言ってよ」

ナギは安心から、思わず胸に手を当てた。

「せっかく作っていただいたのにすみません」

「大丈夫だよ。ラップしておいて、明日温め直せば食べられるから」

そういうとナギは立ち上がり、台所の下の引き出しからラップを持ってきて、霞の煮っ転がしにラップをかけた。

「今日はゆっくり休んで、また元気になったらいっぱい食べようね」

「はい、ナギ……。すみません」

「もう、そんなに謝らないで」

霞は申し訳なさそうな顔をしながら下を向いている。

「今日は、早いですが眠りますね」

「うん、おやすみ霞」

霞は立ち上がると一礼して、ソファの方に。横になるとすぐにすぅすぅと安らかな寝息を立て始めていた。

「大丈夫かな、霞」

ナギは心配そうに顔を覗く。

一人っきりの食卓なんて慣れっこだったはずなのに、ラップが被さった煮っ転がしの皿を見るとなんだかとっても寂しかった。

♢♢♢


「それが毎日。もののけと戦った日は必ず。霞はちょっと疲れてるだけってだけしか言ってくれないんだ」

「それは……心配だね」

ナギは少しだけ涙目だった。日に日に弱っていく霞のことが心配で堪らない。なのに、何も教えてくれない。大切な何かを隠しているようだった。

「ここ最近はもう、食べられそうにないから私のご飯はつくらないでっていうようになって……。霞、あんなにご飯いつも楽しみにしてたのに」

とうとう瞳から涙が溢れ始める。サツキは声のかけ方に迷い静かに地面を見ていた。

「ナギ、大丈夫きっと休んだらよくなるよ」

「でも、またもののけが現れたら……」

ナギが不安そうにサツキを見つめる。サツキはポンと自分の胸を叩いた。

「私と十六夜がフォローするよ!霞ちゃんの体調がよくなるまでさ」

「サツキ……」

「だから、落ち込みすぎない。ナギまで体調悪くなっちゃったら、治るもんも治らなくなっちゃうよ」

サツキが肩をすくめながらいう。少しでも明るく、希望を込めて。

「……ありがとう。そうだね、私まで暗くなってちゃダメだよね」

ナギがこの日初めてしっかりと笑顔を見せてくれた。

「そうそう、そうだよ!」

「やっぱりサツキに話してよかった」

ナギが真っ直ぐにそういうので、サツキは誇らしくなった。

「十六夜にも色々聞いてみるよ、刀なりの元気になり方とかあるのかーって」

「うん、私も霞にしっかり聞いてみる」

ナギは決意を固めて力強く、ご飯を口へと運んだ。

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