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100.蟹のもののけ

奥からガサガサと音がする。

「くる……」

小さな蝶や獣のようなもののけの群れが二人に襲いかかる。

「小さいのは任せて、行くよ十六夜」

「はいよ」

サツキは目にも止まらぬ速さで駆け上がり小さなもののけを確実に片付けていく。

「大きなもののけは私たちが」

「うん、行くよ!」

サツキの攻撃力だけでは足りないもののけは、魔力を溜めた一撃でナギが仕留めていく。戦いをこなすたび二人の連携の精度は上がっていた。

「ナギ、そっちお願い」

「わかった。サツキは蝶っぽいやつ減らしてほしい。毒には気をつけて」

「もちろん!全部蹴散らすよ」

サツキは分身と共に手裏剣を投げて蝶のもののけを確実に蹴散らしていく。

「はぁぁぁぁ!」

ナギは()に力を込めて放った一撃で最後のもののけを倒した。

「ふぅ」

息をふっと吐く。

「お疲れ、ナギ」

頭上からサツキがすっと降りてきて笑顔で言った。

「うん。サツキも完璧だったよ!」

「私たち戦い慣れてきたね」

二人はハイタッチをして喜びあう。小さな勝利でも二人の自信に確かに繋がっていた。

「全く、まだ奥に大きな気配が残ってる。油断するんじゃないよ」

十六夜が静かなトーンで言い放つと、二人はもう一度気を引き締めた。

「大丈夫、二人で頑張れば絶対負けないよ」

サツキが明るく腕を掲げた。その笑顔に少しだけ足音が近づいていた心の不安も遠ざかり、ナギも釣られるように拳を突き上げた。

「全く、わかってるんだか」

「大丈夫ですよ!二人ともやる気満々ですから」


ーーーーー

「ねぇ、なんか生臭いっていうか」

「うん、あんまりいい匂いとは言えないね」

歩くたびに、潮の臭いと何か生臭い何かが混ざった不快な臭いが鼻に突き刺さる。

「……あれが臭いの元っぽいね」

そこには大きなハサミを持つ蟹のようなもののけが待っていたかのように鎮座していた。

「ちょっと強そうだね」

「うん、でも負けてられないよ」

二人はそれぞれ刀を構えてもののけに対峙する。

「まずは、私が様子見がてら行ってくる。"月下幻影"!」

サツキは分身を10体生み出してもののけに飛びかかる。

「ぶぉごぉぉ」

もののけは電車が通過するような轟音と共に大きなハサミを軽く動かすと、まるで埃を払うかのように分身を3体弾き飛ばした。

「ここだぁ!」

ハサミの攻撃をかわしきり、たどり着いた分身が刃を振り下ろした。

だが、その硬い甲羅に阻まれてダメージはほとんど入っていない。

「そんな……きゃっ」

サツキの分身を振り払うと、残った分身に目を向けハサミを振り下ろす。

「サツキ、術も試してみな」

「わかってる!これはどう?"雷の術"」

蟹のもののけに激しい光と共に雷が落ちる。

「ぶごぉぉ」

弱々しい悲鳴と共に動きが鈍った。サツキはチャンスと見るや一気に駆け上がりながらナギに合図をする。

「ナギ、一気に決めちゃって」

「うん。行くよ!!」

すでに居合の体勢で力を溜めていたナギは一気に速度をあげてもののけとの距離を詰めて、技を繰り出す。

「"椿の舞"」

その時、蟹は口から泡を吐き出した。地面に泡が広がっていく。

「何これ、動きづらい」

「これでは、上手く動けません」

椿の舞で上がった速度は泡の壁に押し殺される。泡をなんとか切り裂きながら進むも体に泡が纏わりついて動きがどんどんと重くなっていた。

その隙をもののけは見逃さなかった。ハサミでナギの体を弾き飛ばした。

「きゃっっ!」

「ナギ!」

大きく弾き飛ばされる。刀を地面に刺して勢いを殺しダメージを最小限に抑えた。

「この!」

サツキは勢いそのままに接近する。

「バカ、少しは考えて動きな」

十六夜の静止が届いた時には遅く泡の中に。泡が体に纏わりつき、サツキの持ち味の速度は落ちていった。

「うぅ……。これじゃ走れない」

「何の策もなしに勝手に突っ込むんじゃないよ。とりあえず一旦距離を……」

その瞬間にサツキはハサミで掴まれて体は宙に浮き、そのまま投げ飛ばされた。

「うわっ……」

サツキは空中で宙返りをしてナギの横に着地をした。

「サツキ、大丈夫?」

「うん、なんとか。ナギは?」

「私も大丈夫」

ナギは心配そうにサツキの方を見ていた。二人とも蟹のもののけの横に連なる泡の山を険しい顔で見ている。

「厄介、だね」

「うん、泡だらけの場所だと悔しいけど上手く走れない。それに、あの殻硬すぎ」

「作戦を考えないと」

二人は少し肩で息をしながら沈黙した。

泡自体には攻撃性能はない。だが、動きが鈍ってしまえばもののけの攻撃を避けることも素早く技を出すことも難しい。速度が武器のサツキにとっては最も天敵だ。

(「十六夜、どうすれば」)

(「地面を走れないのような相手は私の天敵だ。だが、方法がないわけじゃないよ」)

霞は伝心を使い十六夜に作戦を求めていた。声に出すとイタズラにナギ達に不安を与えかねないと思っていたからだ。

その時、ナギが徐に口を開いた。

「ねぇサツキ、空中からならなんとかならない?」

「空中?」

ナギが閃いたような笑顔でサツキに問いかける。

「そ、サツキなら空中でもある程度は素早く動けるでしょ?」

「うーん。うん、たしかに」

サツキは感心したように頷いた。

「そしたら、あの硬い殻ごと私が切り裂くよ」

「おぉー。ナギにしては結構大胆な言い方だね」

「そうかな?でも、霞の力を一番上手く使うことを考えるとそうかなって」

二人は楽しげに会話しつつも、なんとか打開策を考えようとしていた。そんな二人の会話を聞いて、霞も十六夜も杞憂だったと思った。

「霞に似て、力押しの発送にでもなったかい?」

「私が頭を使っていないみたいな言い方はやめてください。しっかりと基本に忠実に……」

「はいはい、わかったわかった」

「……相変わらず十六夜はムカつきます」

二人もどこか緊張が少し和らいだようだった。

ナギとサツキも二人の会話を聞き、顔を合わせて笑った。

「さて、作戦は決まったね。サツキ、私らは空中戦を中心に霞たちの隙を作るよ」

「うん、バッチリ決めなきゃね」

サツキは軽く跳ね、その場で足踏みをしながらいつでも駆け出せるように集中を高めた。

「私たちもしっかり頑張らないとね、霞」

「はい、硬い殻なんて叩き斬ってやります」

霞はまだ少しだけ、十六夜に言われたことにムキになって怒っているような口調だった。

「それじゃあ、いっくよー」

サツキの明るい声が響くと同時にはすでに蟹のもののけへと一直線に向かっていた。

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