96.霞の隠し事②
その日の夜。
霞はナギと夕ご飯を食べる準備をしていた。
まだ料理はあまり得意ではない霞は、机を拭いたり食器の準備をしたりしていた。
「すごくいい匂いです」
霞は漂ってくる料理の香りにに心を踊らせている。昨日食べられなかった分、今日は期待もさらに上乗せされていた。
「ふふっ、今日は野菜たっぷりの焼きそばだよ」
ナギはお皿に焼きそばを盛り上げる。ソースの香りが部屋に広がると霞はさらに頬を綻ばせた。
「はい、お待たせ!」
「で、ではいただきます」
霞は丁寧に挨拶をしてお箸で一口。
「とっても美味しいです!」
霞は嬉しそうに微笑むとナギも嬉しくなって笑顔で返す。
「はむ……はむ」
箸を持つ手は止まらずにどんどんと食べ進める霞。ナギも喜んでくれる霞が見るのが楽しみで料理に一層気合いが入っていた。
「ご馳走様様でした」
早くも食べ終えた霞は名残惜しそうに挨拶をした。
「もう食べちゃったの?」
「はい、美味しくて手が止まりませんでした」
霞は少し照れくさそうに小さな声で呟いた。
「おかわりする?」
「い、いえ。それは流石に大丈夫です」
そういうと霞は急いでいつもの凛とした顔に表情を戻した。霞は実際おかわりというものをしてはみたいとは思っている。だが、いくらナギが優しいとはいえ主人に望みすぎるのはダメだと自分を心の中で律していた。
「そっか、わかった」
ナギも霞が遠慮ではなく自分の中のルールがあると察しているので、しつこくは言わない。本当のところはもう少し霞にはねだったりすることを覚えて欲しいとも思っていた。
食事を終えて、霞が食器を洗いはじめる。
「霞、ありがとね」
「いえ、お夕飯をいただいているのでこれくらいは」
霞はテキパキと机を拭いたり食器を洗ったりしている。少しずつだが霞は家事に慣れてきていた。
ナギはお言葉に甘えて宿題に取り掛かった。
「ナギ、今日は大丈夫でしたか?ナギも昨日の戦いでお疲れのようでしたが」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと眠たかったけど……。あっでも今日の体育の時間バスケでシュートたくさん決めたんだよ」
ナギは嬉しそうに語る。霞は言っていることがわからない部分もあったがナギが嬉しそうなので霞も安心して微笑んだ。
「すごいですね、ナギ」
「うん。やっぱり毎日霞と頑張ってるからね」
「……よかったです。ナギの生活にも役に立てていて」
霞は内心、使命を背負わせることでナギの学校生活の邪魔をしているのではないかと不安だった。ナギがそう言ってくれることで心の中が少しだけ軽くなった。
「霞は大丈夫だった?」
「はい。ナギに言われた通り今日は話し合いだけにしましたから」
その言葉にナギも安心したようでふっと笑い宿題にまた取り掛かった。
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深夜になり街さえも眠り始める時間に霞はソファから起き上がった。
「まだ、調子が……」
霞は左腕を抑える。徒花との戦闘の傷がまだ完全には癒えていなかった。
「こんなにも回復が遅いことなど今までは……」
霞は唇を噛んで、そっと立ち上がり道場へと向かった。
道場の外のみんなで寝泊まりしていた部屋の向かいの建物。そこは、サツキが入ろうとした時に止めたあの建物だった。
そこで霞は置かれている道具や箱を棚から取り出しながら、何かを必死に探していた。
「どこかに、一つくらいは……」
願うように霞は呟いた。
「全く、こんな時間に何してるんだい?」
びくりとして振り返ると、十六夜が扉にもたれかかってこちらを睨むように見ていた。