側にいたくて
「どうしてあんなことをしたの」
神橋が白宮に詰め寄る。白宮は首を傾げた。
「協力者になってくれって言ってきたのは、神橋の方だろ?」
「それは私の目の届く範囲で大人しくしててほしかったからで、積極的に戦ってほしかったわけじゃないわ」
「でも、結果的に相手の意表を突けただろ」
白宮の言葉を聞いた神橋は、呆れたような顔をして話を続けた。
「あのねえ……アナタ、分かってるの? 私たちの戦いに深入りしたら、普通の生活は送れなくなるのよ。それに、私たちは……」
「知ってる。調べたんだ。神橋の家は他の家から嫌われてるって。それに今日ユウから聞いた話だと、紙橋はクラスの奴らに遠ざけられてるみたいだし。……ほっとけないと思ったんだ。神橋はホントは、優しい奴なんだから」
神橋の目が鋭さを増す。彼女は氷点下の声で言った。
「アナタが私の何を知っているっていうの?」
白宮は全く動じなかった。彼は真っ直ぐに彼女の目を見返して、真摯な声で告げた。
「何も知らない。俺は神橋とは会ったばかりだし、憑きもの筋のこともネットで調べただけだ。けど、知ってることがある。神橋はずっと、俺を必要以上に巻き込まないように気づかってくれてた。学校で話しかけて来なかったのも、自分がクラスで孤立してるからなんだろ? 俺と神橋が仲良く話してたら、何を言われるか分からないから……だから自分から距離を取ったんだ。全部終わった後に、俺が普通の生活に戻れるように」
「……バカね。そんなこと、あるわけないでしょ」
神橋が目を伏せて呟く。白宮は目を逸らさなかった。
「言っただろ。ネットで、神橋の家のことを調べたって。悪い評判ばかりだったよ。それとさっきの紐野の言葉を合わせて考えたら、答えは出る。神橋は自分と自分の家に向けられる負の感情を、その蛇たちに食わせてるんだ。なんでそんなことしてるかは知らないし、どうでもいい。でも、神橋が良いやつなのは知ってる。だから俺は、俺だけは、お前の味方になりたいと思ったんだ」
「…………どうして?」
神橋がか細い声を出す。白宮は困ったような顔で笑った。
「理屈じゃ説明できないな。ただ、神橋に笑っててほしいと思ったんだ。神橋はいつでも綺麗だから、笑ったらきっと、もっと綺麗に見える。それが見たいと思ったんだ。それだけのことだよ」
神橋は目を見開いた。彼女は寂しげな笑みを浮かべて、白宮から距離を取った。
「……ダメよ。深入りしないで。私は憑き物と共に生きて、憑き物と共に死ぬ運命を背負った家系の女。普通の生活は、私たちには許されないの」