帰宅
家に帰った白宮は、合鍵を使って扉を開けた。親は共働きで、どちらもまだ家に帰っていない。彼は夕食の準備をしながら、スマホで神橋家のことを調べた。
(地元の名士だけど、裏社会と繋がってるって噂もあるみたいだな。個人サイトとかを見ても、風評被害レベルだろって感じの話しか書いてないし。これじゃあ神橋が関わるなっていうのも仕方ないか。憑きもの筋ってのは何だ?)
Tikipedia、略してティキで調べると、憑きものとは家系に憑く動物霊のことだと書いてあった。外から村に入ってきた余所者が富を蓄えているのは、その動物霊が富を運んでいるからだという俗説があるらしい 。
(ティキでは閉鎖的な村に外から入ってきた人間がお金を持っていることの理由づけとして、その人の家が動物の霊を飼っているということにされたって書いてあるけど……俺は実際に見たからな。動物の霊がいるっていうのは確かなんだろ。人間の感情を食べるっていうことについては書いてないけど、憑きもの筋の家系に生まれた人間が動物霊を使役することについてはティキにも書いてある。俺が見た白い蛇は土瓶って呼ばれてたから、この土地に伝わってる民話に出てくる奴だよな。あのイタチは何だったんだ? ティキには色々な名前が書いてあるけど、全部イタチか狐だって書いてあるし……)
白宮は夕食を作り終わってダイニングの机の上に移し、1人で先に食べ始めた。
(そもそも憑きものって何なんだ? ティキじゃ動物霊って書いてあるだけだし、質問BOXでも低級霊だって言われてるけど……人間の感情を食べることは書いてないな)
白宮はため息をついて、机の上にスマホを置いた。
(これ以上のことは、調べても何も出てきそうにないな。それにしても、あの紐野って奴はどこから来たんだ? 学校では見たことのない顔だったけど……)
憑きものは家系に憑く動物霊で、白宮が住んでいる地域に伝わっているものは蛇の幽霊だとされている。だからイタチの幽霊を連れていた紐野は、この地域の人間ではないのだろう。そこまで考えて、白宮は眉間にシワを寄せた。
(てことは、アイツはわざわざ他の土地に来て、夜の学校に忍び込んだってことか。そこまでして神橋と戦って、仮に勝ったとして……いったい何ができるっていうんだ?)
神橋は、犯罪行為をしたくないから他の憑きもの筋が飼っている動物霊を食べさせていると説明していた。けれど外から来て学校の敷地内に入る時点で、それは犯罪行為になるような気がする。
(もしかして、俺が知らないだけで他に理由があるのか? 神橋と紐野の間には、何か因縁があるのかもしれないな。明日学校で神橋に会ったら聞いてみよう)
白宮はそう結論づけて、夕食を食べることに専念した。