協力者
「嫌だ」
白宮は神橋の目を真っ向から見返して、無理やり体を動かそうとした。錆びついたロボットのようなぎこちない動きでイタチの群れに近寄ろうとする彼を、彼女は慌てて止めた。
「ちょっと、本当に何なのアナタ。土瓶が2匹も憑いているのに、無理に動こうとしないでよ」
「いいんだ神橋。ここまできたら俺も戦う。だいたい、自分の家が栄えるために他人を襲うなんて、そっちの方がよほど悪人だろ」
「それを言うなら私も同じよ。恨みを集めて、この子たちに食べさせている。私たちはそういう家系に生まれた人間なの。普通の家で普通に育ったアナタとは違うわ」
神橋の顔には何の表情も浮かんでいない。声からも感情は読み取れない。白宮は目を細めて、彼女の手を掴んだ。
「神橋は俺を帰そうとしてくれただろ。結果的に間に合わなかったけど、それでもお前が俺のことを気遣ってくれたのは間違いない。信頼できる相手だよ。そんなお前を守りたいと思うのは、当然だろ」
神橋は白宮が引かないのを見て、諦めたように息を吐いた。
「分かったわ。でも、無理はしないで。アナタは一般人なんだから」
白宮は彼女の言葉に頷いて、蛇と戦っているイタチをモップで追い払おうとした。イタチは突然現れた白宮に驚いて、窓の近くに移動した。白宮はそのままイタチを外に出そうとした。その時、窓の下から声が聞こえてきた。
「なんだ、仲間がいるのか」
白宮はその声に反応して下を見た。男が壁に張り付いて、気持ちの悪い笑みを浮かべている。その人間は白宮を見て、楽しそうに呟いた。
「あの神橋のお姫様が、他の人間を巻き込むとは思わなかったな。君、名前は?」
「不審者に名乗る名前はない。帰れ」
「えー、ひどいなあ。お姫様はオレのこと、知ってるはずだけど? まあいいや。ここの恨みはお姫様が全部土瓶に食わせちまったみたいだし、今日は帰るよ。お姫様に伝えておいてくれ。近いうちに、紐野が迎えに来るってさ」
男の背中にイタチが乗る。黒いイタチたちを背負った男は、壁から手を離して地面に向かって落ちていった。白宮は無言で窓を閉めて鍵をかけた。彼はそのまま振り返って、神橋に声をかけた。
「……なあ、神橋」
「聞こえてたわ。アイツが来るって言うんでしょ。まったく、厄介なことになったものね」
神橋は無表情で白宮に近寄って、彼の肩に手を乗せた。白宮の体から2匹の蛇が出てきて、神橋の手に乗る。白宮はそれを見て、真顔で告げた。
「関わるなとは言うなよ。ここまで話を聞いた以上、俺も関係者なんだからな」
「言わないわ。アイツを追い返すまでは、アナタから目を離さない方が良いでしょうし。……短い間だろうけど、よろしくね」
神橋が白宮に、蛇を乗せたのとは反対の手を差し出す。白宮はその手を強く握って頷いた。