戦闘
神橋が窓を開ける。窓に張り付いていたイタチが教室内に入ってきて、蛇に噛みつく。蛇たちがイタチと戦っているのを横目に、神橋は手のひらに2匹の蛇を乗せて白宮に近づいた。
「悪いけど、ちょっとだけ我慢してて」
神橋が蛇を白宮の両肩に一匹ずつ乗せる。蛇は白宮の肩に溶け込むように消えていった。白宮は首を傾げて口を開いた。
「我慢って何だ? この蛇と何か関係があるのか?」
神橋は白宮の顔を見て、深いため息をついた。
「この子たちが見えてると聞いたときから、まさかとは思っていたけれど……アナタ、素質があるのね。ますます放っておけないわ」
「俺に何の素質があるんだよ。ちゃんと説明してくれ」
「取り憑かれる素質よ。普通の人なら、この子たちに憑依されたら体調が悪くなって、喋ることも動くこともできなくなるはずだもの」
「この蛇って人に取り憑く幽霊とか、そういう類のモノなのか?」
「そうよ。でも心配しなくていいわ。この子たちは基本的に私に憑いているから、他の人の体に入り込んだとしても、最後は私のところに帰ってくるの。だからアナタに憑いている子も、この戦いが終わったらアナタから離れていく。憑かれているのは、今だけよ」
「じゃあ、窓から入ってきたイタチも幽霊なのか。なんで戦っているんだ?」
「それはさっき説明したでしょ。この子たちは食べた恨みや憎しみの分だけ、家に富をもたらしてくれるの。簡単に言えば、他人が不幸になればなるほど、自分の家系は幸せになるってこと。でも、それで犯罪行為をするのは割に合わないでしょ? だから私たちは隠れて恨みを集めたり、同じ憑き物筋が飼っている動物の霊を食べさせたりしているの」
「じゃあ、神橋はずっとこんなことをしてきたのか」
「ええ。この家に生まれた時から、ずっと。……分かったでしょ? 私に関わると、アナタの身にも危険なことが起きるわ」
白宮は神橋を見つめた。彼女がどんな気持ちで白宮を遠ざけようとしているのかは分からない。けれど。
(神橋を1人にしたくない。彼女がこれまでに何をしてたとしても、今の彼女が俺を守ろうとしてくれてるのは確かだ。俺が勝手に神橋を追ってきたせいで巻き込まれてるのに、守られてるだけでいいわけない)
白宮は腹を括って、掃除用具入れに近づいた。扉を開けて、中からモップを取り出す。
「ちょっと、何してるの?」
「決まってるだろ。神橋を手伝うんだよ。このまま何もしないでいられるか」
「やめて。そんなこと、頼んでないわ」
神橋が白宮を睨む。白宮の手足が急に、凍りついたように動かなくなる。
「言ったでしょ。アナタには私の蛇が憑いてるの。私の意志だけで、アナタの体はどうとでもできる。それを忘れないで」
神橋は冷たい声音で告げた。