転校生
「なあアキ聞いたか。今日、転校生が来るらしいぜ。すっごい美人だって! 楽しみじゃね?」
「関係ない。どうでもいい」
「相変わらず達観してるというか、ジジ臭いというか……アキは恋人とか欲しくねえの? 俺たち高校生で、ここ結構な進学校よ?」
「恋人って欲しいと思うもんなのか。惚れた女を恋人にしたいと思うもんなんじゃないのか」
「ああうん、お前はそういう奴だったわ。聞いた俺が馬鹿だったな」
友人がため息をつくのを横目に見ながら、白宮和彰は目を伏せた。
(だってそうだろ。会ったこともない女の子にうわさ話だけで興味を持つ方が、俺には難しいよ)
チャイムが鳴る。教室にいた生徒たちが席に着いて、先生が転校生を連れて教室に入ってくる。転校生の少女は、艶のある長い黒髪をなびかせて歩いてきた。整った顔立ちの少女は真顔で先生の横に立って、淡々とした声で自己紹介をした。
「初めまして。神橋彩海と申します。これからよろしくお願いします」
美しすぎて近寄りがたい雰囲気のある少女。彼女は丁寧な動きで頭を下げた後に、荷物を持って空いた席に移動した。
「なんか、想像してたのと違うな。確かに美少女だけど」
隣から小声で話しかけられた白宮は、冷めた目をして言った。
「まあ、現実なんてそんなものだろ」
彼は転校生に興味がなく、これからもいつも通りの日常が続くと思っていた。その日の夕方、授業が終わって帰宅する途中で、人が居ないはずの教室に戻る神橋とすれ違うまでは。
(……蛇?)
少女の肩に、小さな白い蛇が乗っている。見間違いかと思って目を擦ったが、蛇は変わらずそこに居た。見れば足元にも複数の蛇がいる。神橋はそのことに気づいているのかどうか、顔を見ただけでは分からない。
(聞いてみるか)
蛇のことが気になって、白宮は神橋を追いかけて教室に入った。まだ夕方なのに、教室内は異常なほどに暗い。
「なんだ、これ……?」
空気に重量があると感じたのは初めてだった。白宮は慌てて教室から出ようとしたが扉が開かない。そんな異常な状況で、神橋が平然とした声音で話しかけてきた。
「忘れ物ですか? じゃあ、少しだけそこで待っていてください。すぐに済みますから」
彼女は暗い教室の中で、何かと戦っているようだった。それは大きな不定形の生き物で、その周囲には小さな白蛇が何匹も纏わりついている。不定形の生き物が蛇に食われて消えていくのと同時に、教室を覆っていた闇も消えて、白宮を圧迫していた重みのある空気も無くなった。神橋は何事もなかったかのように振り返って、真顔で告げた。
「私の用事は終わりました。後はお好きになさってください」