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Lot.3 悪意の群れ

 撃っても撃ってもキリがない。

 狼に擬態(偽装?)した群れは次々と現れては、徐々にその包囲網を縮めていた。


「どうする?」

「サリーには連絡した。気を利かせてくれるといいけど」


 挿弾子(クリップ)を詰めながら周辺を見渡すと、既に半包囲の状態に陥っていることが見て取れる。

 とはいえ、相手の動きの緩慢さに加え、その攻撃性の薄さを考えると包囲の突破自体は簡単な事であった。四つん這いになった人間の機動性などたかがしれているし、素手なら相手も簡単である。

 問題は、突破したところで終わりの見えない殲滅戦は続けなければならない事に変わりない、という部分だ。


 どう考えてもこの事態は例の郡司の言っていた件に絡んでおり、ここで撤退してしまえばこの町が全員ロボットに入れ替わってしまう可能性がある。

 挙句、ここまで始末した証拠となり得る獲物を綺麗さっぱり掃除されてしまう危険性も高い。

 主人に成果を持ち帰るとなれば、ここを乗り切る以外の選択肢は無いだろう。


「ネル、試しに一人人質にしたい」

「了解」


 相方のメイド──ネルが発砲を止め、狼もどきを引き寄せる。

 近づく内の二人を仕留め、残る一人が飛びかかってきた所でフランチェスカは前に躍り出た。

 真正面から髪を鷲掴みにし、地面に叩きつける。

 素早く両肩をネルが撃ち抜いた。


「動くな!」


 首を絞めて抱える形でフランチェスカが狼もどきを盾にしてみて相手の出方を窺う。

 フォローに入った後方のメイド――ユイシスは、半笑いで小銃のボルトを引いた。


「効果無しじゃん」

「分かっただけ成果だろ」


 乾いた発砲音が続けざまに鳴り響き、獲物が地面を肥やしていく。

 結局見た目が人間なだけで中身は機械なのか、人質を取っても別段反応が変わるという事はなかった。

 そうこうしていると、ようやく待望の援軍が現れた。


『みんなお待たせ~』

『来ないかと思ったぞ』


 爆音を響かせながら到着したヘリコプターが、サーチライトで眼下を照らす。

 側面に設置してある機関銃(チェーンガン)から弾丸が投射され、狼もどきは瞬く間に殲滅された。

 流石に有限であったのか、これ以上は湧いてくる気配はない。


「旦那まで来たんですか?」

「直接現場を見たかった」


 降下したヘリから出てきた"半端者"は、狼もどきを見分しながらメイドたちへ袋を手渡した。


「入れるだけ入れて持ち帰る」


 指示通りに残骸を拾い集めていると、今度はけたたましいサイレンが近づいてきた。

 どうやら派手に騒ぎすぎた結果、近隣の住民が警察へ通報したらしい。折り重なった赤いランプが田舎道をバウンドしながら走っている。

 慌ただしく下りてきた警官らがパトカーのドアを盾に銃を構えてこちらを警戒するも、一人の上官らしき男は相手が"半端者"と分かると手を上げて全員の武装を解かせた。


「こんな時間に何を騒いでる? パーティなら他所でやってくれないか」

「私は――」

「あんたのことは知ってるよ、"半端者"だろ。浅上、警部補だ」


 警察手帳を見せてきた男――浅上は、周囲の惨状に肩をすくめる。


「説明してくれ」

「知りたいか?」

「ぜひ。でないとここに居る全員に手錠をかけるハメになる」

「外患誘致の捜査をしている」


 浅上は一瞬で顔をしかめると、周辺に散らばった残骸に手に取る。

 人の腕から伸びたケーブル、頭から飛び出たオイル……そういったものを見て一層顔をしかめ、頭を振った。


「噂には聞いていたが……公安には何も言わないでくれよ。叩き上げで警部補まで来たんだ」

「東新町では全員こういうロボットに入れ替わっている」

「おい……おいマジかよ? お前正気か?」

「せっかくだから巻き込まれてくれ。警察で類似の情報があれば教えてほしい」


 士族を手伝えるという栄誉に感動のあまり崩れ落ちた浅上の様子に満面の笑みを浮かべ、"半端者"はメイドたちと共にヘリに乗り込んだ。

 通報があった以上調書は取る必要があるだろうと判断し、ユイシスを残して飛び立つ。


「へへ、ご愁傷様」


 半笑いでかけられた慰めの言葉に、浅上は『こいつかわいいな』、と気持ちを切り替えてナンパに勤しむのだった。








 




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