プロローグ
魔王。それは、全ての魔族達の頂点に立つ絶対なる存在。
魔王。それは、古来より殺戮の限りを尽くし人間達に恐れられる恐怖の象徴。
魔王。奴を止められる者など誰も居ない。
そんな魔王は今!
「はぁ……」
退屈を持て余していた。
「魔王様。ため息などなされて、如何なさりました?」
「…カースか。いや、魔王の地位に収まり早数千年にはなるが、流石に退屈でな。
魔王の仕事といえば侵略した領土を担当している配下から送られてくる資料に目を通すくらいのものだ。
しかも最近になっては、俺を楽しませてくれそうな人間も数が減ってきてるからな」
「それ程までに魔王様のお力が絶大な物という事です。私は魔王様の配下として誇らしい限りですわ♪」
玉座の間にて、紫色の髪と瞳に白い肌を濃い紫と薄い紫色に彩られたローブから覗かせる女が恍惚とした表情で天を見上げる。
そして、その女の側の玉座にて鎮座する黒ずくめの男こそが魔族達の王にしてこの魔王城の主。
“魔王ルーク・ディザスロード“
この世界に君臨する世界最強の魔王である。
そしてそんな魔王の隣にいるのは魔王の配下が1人。
“カース・ゴースル“
魔女族と呼ばれる魔法の扱いに長けた魔族の女である。
「そうは言うが、幾ら力が有っても持て余してはな…。せめて歴代の魔王達と戦っていたと言う勇者レベルが現れてさえくれれば、俺の退屈も紛れるというものだが…」
「その発言は魔族の長たる魔王の物とは思えませんね。ア・ナ・タ?」
「!」
ルークの発言の後に玉座の間の入り口辺りから澄んだ女の声が聞こえてくると同時に途轍もない殺気が放たれる。
ソレと、ルーク目掛けて闇色の光線の様なものが放たれてきたのはほぼ同時だった。
「魔王様!」
「良い、いつもの戯れだ」
前に出ようとしてきたカースを静止させ、放たれてきた攻撃を無造作に片手で薙ぎ払った。
すると放たれてきた攻撃は弾かれ、弾かれた先にあった壁の一部を抉り煙を上げるに留まった。
一応主が無事な事を安堵したカースだったが、直ぐに冷や汗をかいたまま入口の方に目を向ける。
「ひ、姫様!幾ら魔王様の妻であられても、この様なお戯れは困ります!
壊れた壁を直すのは主に私なんですからね⁉︎」
カースに姫様と呼ばれたその女性は、全身を所々に紫の装飾が施されている漆黒のドレスに身を包み、黒い長髪をハーフアップにし、瞳の色はドレスと同じ漆黒の色をした容姿をしていた。
そんな彼女は、黒のヒールをカツカツと鳴らしながら玉座の間の魔王の前まで歩いてくる。
「煩いわねカース。心配せずとも殺す様な威力ではない事は、この方が一番よく分かってるわよ。
それに、この程度の攻撃も軽く払えない様ならば、魔王が務まる筈がありませんもの」
「それは俺を信頼してくれてると捉えても良いのか?」
「貴方の好きな様に捉えれば良いじゃない。ねえ、魔王様?」
魔王を前にしていると言うのに臆するどころか堂々を先程の攻撃魔法を放ってきた女性。
彼女こそ、魔族達の頂点たる魔王を支える魔族の姫にして魔王の妻。
“カミラ・ディザスロード“その人である。