ある1日で日常が変わるってほんと!?
僕は魔法つかいがいっぱい住んでいる国で「ぬいぐるみの修理屋」を営む、魔法1つも使えない国民の1人だ。
「子どもたちの喜ぶ笑顔が見たい」と思って自力で裁縫やぬいぐるみの直し方を学び、やっとの事で修理屋さんを開く事が出来た。
でも他にも修理屋さんはあるし「時短、格安、確実に修理!」を謳い文句にしてる場所が多い。
逆に僕の店は手作業だから時間はかかるし、安くは無いし、確実に修理出来るかは分からない。
だから僕の店にはお客さんが来ない…。
頭を抱え悩んでいると、ドアのベルが店に響き渡った。
「いらっしゃーい」
お客さんは…
「あの、ガブくん、直してくれますか?」
金色のサラサラ髪に吸い込まれそうな蒼い瞳をした少女だった。
「うん、大丈夫だよ?じゃあガブくん見せて貰えるかな?」
「わかりました…」
少女が下げたポシェットの中から、かなりボロボロなぬいぐるみが見えた。
え?僕がこれを直せ、と?
「けっこうボロボロだね。何かのパーティーで貰ったの?」
「うん。死んじゃったパパが買ってくれたの。“魔法を使えるようになったお祝いに”って」
「じゃあ大切だね」
すると少女は頷いた。失礼だが少女は対して身形も良くないし靴だって布製の靴だ。
けど魔法が使える人は、だいたい金や銀、宝石を誂た衣服を着ている。
いわゆる「ナイショの魔法つかい」なのだろうか。
それとも、貴族だけどナイショで街に下りてきたお嬢様とか?
「ガブくん、直せる?」
「直せるよ。お兄さんに任せて」
「何日くらいかかる?」
「う〜ん、これくらいだと早くて2日かな」
「わかった…。お兄さんは魔法で直すの?」
「魔法…使えないから手作業。結構時間かかっちゃうけど大丈夫?」
「大丈夫だよ」と笑顔を見せた少女は「あと…」と口籠った。
「どうしたの?」
「お金って、どのくらいしますか?」
「代金か〜」
どうするよ、俺。本来ならこの修理は10ドル(日本円で約1300円)なのに、こんな可愛らしい少女に「10ドル払って下さい」なんてにこやかな顔で言えるか!!
ええい!!大赤字だ!!
「本来だったら10ドルするんだけど…」
「……」
「けど今回は3ドルにしてあげる。大人の人にはナイショね?」
「えっ、あ……分かった!!」
少女は小走りで店を出て行った。
おまけしてウインクしちゃったけど、大赤字まっしぐらだ。この「ガブくん」ってお友達を修理したら店を畳もう。
でも待て。僕が「3ドルにしてあげる」って言った時、少女は素っ頓狂な声を上げた。まるで「3ドルだけで良いの?」と言うかのように。
「…今更後悔しても考えても遅いし、修理始めるか」
僕は早々に店を閉じ、机のランプに火を灯した。
_____________________________
2日後、少女がやって来た。
「お兄さん、ガブくん、直った…?」
「あ、おはよう!!もう少しで終わるから待っててね」
パチン、パチンと短く出た糸を小さいハサミで切り、ぬいぐるみを整えると少女の目の前にガブくんを置く。
「はい、直ったよ。3ドル、持ってきた?」
「ううん、持って来てない!!!!」
「は!?」
何てことだ。これじゃ「骨折り損のくたびれ儲け」じゃないか。ワナワナと怒りに震えていると少女は「ママ〜」と間延びした声で親を呼んだ。
「え」
優雅な歩き方で店に入ってきたのは、この国の女王様だった。
金色のサラサラ髪に吸い込まれそうな蒼い瞳をした女王様は、少女と瓜二つ。母娘だ……。
「貴方が王女のぬいぐるみを修理して下さった方?」
「は、はい!!私の名前は女王様の記憶にも止まらぬ普通の人間であります」
「王女が喜んでおりました。“魔法を使わないで修理する人がいるんだ”、と」
「は、はぁ…?」
「王女は魔法つかいの一族なのに何故か魔法が嫌いなの。ぬいぐるみを手作業で直してくれる店を見つけたと報告してきた時は、とても笑顔だったわ」
「………」
「貴方、この店を畳んで王女の専属の修理師になって頂戴。代金はいくらでも払うわ」
女王様は目の前にいくつもの札束を積み上げた。
あんぐりと開いた口が塞がらない。
「そ、そんな。私めがそんな、仰せつかって良いのでしょうか?」
「良いから言っているのです。王女もとても願っている事ですから」
女王様が微笑みながら王女を見た。王女はニコニコ笑顔でガブくんと遊んでいる。
「…わかりました。その役目、私が最後まで成し遂げましょう」
次の日から僕は、王女の専属の修理師として過ごすことになった。