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優と楓の日常

「せいッッ!!……せいッッ!!」

 可愛らしい掛け声に合わせてバットを振る。しかりそれは空気を斬るだけ。

 彼女の足元にはボールがどんどん溜まっていく。

「はは、がむしゃらに振ってちゃ当たんないよ。今の設定はストレートだけなんだから、しっかり見てれば当たるよ」

「えー?私は私なりに頑張っているのに……あ、終わっちゃった」

「二十発中一発ヒット。次は俺だ」

 そう言いながら、俺は彼女に変わって構えた。

 俺の日課は、バッティングセンターで、ストレスを発散すること。

 ピッチングマシンから放たれるボールを、全力で打ち返す。たまに精度を気にしてホームランを狙ったりするが、基本は全力スイングだ。

 戦績は、千五百中、七百九十七打。大体半分打ち返せてる。その内七回はホームランを出した。

「プレイボール」

 アナウンスが入り、ピッチングマシンが動き出した。

 今回の設定は球速百二十キロ。ストレートのみ。駆け引きなしの勝負。

 一球目。これは無理に打たなくていい。見極めろ。

「...ぅおりゃ!!」

 ストライク。確かに早い。いや、プロ野球やアメリカの本場じゃもっと早いだろう。

 ―――一発ホームランを出してやる。

 二発目。さっきと変わらない。フルスイングで打ち返せる。

「……ッッ!!」

 ガーン。鈍い音が響いた。

 野球で言うならファウルのパターン。フェンスにボールが当たってしまった。

「……クソッッ!!」

 思わず暴言を吐いてしまった。次こそは。

 三球目。今度こそ正面に打ち返してやる。そうして、俺は再び全力スイングを行い―――


 カキーン。テレレテッテテー。

 

 ボールはホームランの的に当たってしまった。


「やっぱり君は凄いね!半分以上も打てるなんて!」

「いや、俺はまだまだだよ」 

「三回中一回でも当てれば何とかなるって言うぐらいだから、君は凄いよ!」

「そ、そうなのかな?まあ、ホームラン出たのは凄いとは思うけど……」

 運動後はコーヒーを飲む。これも俺の日課だ。無理やり頭のギアを回し、まだまだいけると錯覚させる。体や脳には申し訳ないが、まだまだ頑張ってもらわなければ。

「てか、逆に当たんな過ぎじゃないか?楓さん」

「だって投げるタイミングわかんないだもん」

「それは俺も同感。だってマシンだし」

 俺たち二人は揃って笑う。


 俺、神崎優は、私立道心学園高等部一年。特待生。クラスでは僭越ながら学級委員長の立場に立っている。

 うちは金銭的にそこまで余裕がないので、頑張って勉強して、学年トップに立っている。運動も大概頑張れば出来る。俺の周りの人は「才能がある」と言うが、実際は努力しているだけだ。

 

 そして俺と話している彼女は、笹木楓。同じく私立道心学園高等部一年。学級委員長。俗に言う、陽キャ。誰に対しても優しく話しかけ、遅れている人を見捨てず、手を差し伸べる。周りの人曰く、「慈愛神カエデ」。

 ちなみにうちの学校の学級委員長は男子と女子で学級委員長が一人ずつになっている。

 だから俺も学級委員長だし、楓さんも学級委員長。


「そういや、そろそろ文化祭か。出しもの決めないとな」

 俺の唐突な発言に、彼女は食いつく。

「カフェとか、お化け屋敷とかは、ありきたりだし、なんか斬新なのが欲しいわね」

 彼女が慕われる理由、それは、効率と楽しさを両立するから。

 簡単な例を挙げると、修学旅行で、生徒は舞い上がって、楽しむことだけを考えてしまう。

 そうすると何をしでかすか分からない。だから制限をかける。しかし生徒は納得しない。

 しかし彼女は、みんなが納得する理由を説明することで、全員の同意を得る。これが彼女の強みだ。

「あ、ゴメン。俺その頃やることあるわ」

「あ……ご家族の事だよね……?」

「……ああ」


 俺が今直面している問題。それは家族のことだ。

 姉が通り魔に刺され死亡、母は病気で死に、父は海外出張でまだ帰ってこれない。

 二人が死んだ日は同じ。しかも父は、もう少しで帰ってこれると言っていたのに、出張期間が延びたと言っていた。

 俺は明らかにおかしいと思い、調査をしている。俺の学校での強みは、生徒のお悩み相談をしていること。もともと人の相談を受けることが多く、的確なアドバイスをしてきた。

 その過程で探偵みたいなことをしていたので、調査はある程度出来るようになっていた。

 それに、犯人はある程度目星が付いている。 

「多分これは俺の問題だ。俺の行動が引き起こしたんだと思う。俺、結構恨み買われてたじゃん。ふざけ組に」

「うん……」

「だから、俺は、やり返そうと思うよ」

「え?」

「面白い本見つけたからね」

 俺はニヤリと笑ってみせた。

 そう。あの方法があれば、俺はやり返せる。

「ただの復讐だと思わない方がいいぜ。俺はやると決めたら、徹底的にやるからな」

「……怖くないの?」

「え?」

 楓さんが予想外の質問をしてきた。

「だって、やり返したら、またひどい目に遭うかもしれないし……」


「―――これだから  は  なんだよ。特に みたいな  は」


「え?なんて言ったの?」

「いや、何でもない。」

 俺は立ち上がると、覚悟を決めた。

「じゃ、俺は帰るわ。また明日」

 そう言い残し、俺は家へと走り始めた。

「じゃあね、優君。また明日」 

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