第2話 祝福と力
第2話です。
10歳の誕生日、それは俺にとって運命の日である。
1週間しっかりこの世界を調べた。
前世のような結末を迎えない為にも情報を集めた。
この世界には大きく分けて6つの大陸があり9の国があること。
1番大きなルーディアス法国。
次いでラドセルフ魔法帝国、バルムンド国、ジルザーグ国、マシェルト国。
あとは人間以外の生物が住む国が4つあるらしい。
今使われている言葉はほとんどの国で通用する 法国語と呼ばれているらしい。
ちなみに俺はラドセルフ魔法帝国に属している。
またこの世界でも貴族階級があり、公爵、伯爵、子爵、男爵、騎士となる。
シュタイン家は伯爵にあたるそうだ。
また、メイドの中には獣人がいて話によると奴隷も存在していて主に親を無くした子供や珍しい獣人が攫われるらしい。どの世界でも悲しい現実だ。
また大陸内での戦争もしくは大陸間での戦争があること。
剣を使う事はあまりなく魔法こそが1番とされていること。
そしてその魔法以上の能力として祝福が与えられること。
最後が特に俺にとっては重要でどのような力を得る事が出来るのかそれが今日わかる。
「おはようございます。レイド様!お誕生日おめでとうございます。」そう言い頭を下げこちらに向かってくるのはこの1週間で仲良くなった獣人のメリッサだ。
この人はすごく元気で子供の俺もついていけないくらいだがとても優しい。きっと悪い人ではないのだと思う。
「お着替えを手伝いますね?」そう彼女は言いいつものように俺の服を脱がせていく。 とても恥ずかしい。前世では15だった俺には羞恥心があった。当然だ。そのくらいの歳ならばきっと誰もが異性を気にするだろう。そして俺も例外なく。
だが怪しまれないようにする為に俺はなすがまま。
しかしこんな日が続くのも耐え難いので
「祝福を受ければ俺だって1人前だ。着替えも1人でする。」そう言ってみると、メリッサは少し目を潤ませて
「レイド様…そうですよね。私のような獣人の手が体に触れるなんて嫌ですよね…」そう悲しく堪える。
俺は首を振り
「俺だって大人になるんだ。女性に色々見られるのは恥ずかしいんだよ」
彼女の顔は少し赤みを含めていた。
何かを察したかのように頷き頭を下げて部屋を出た。
その表情に気付く間もなくリーシャが来た。
「レイド、誕生日おめでとう。準備は出来たみたいね?あら寝癖がついているわ。」ぽんと俺の頭を撫でながら髪を直してくれている。
気恥ずかしい気持ちで俺はすみませんと頭を下げる。
「祝福を受けると言ってもまだ10歳ですもの。まだまだ子供よ?」少し自慢げにそして寂しげに俺に話すリーシャ。俺を心配してくれているのだろうと察した。きっとルシア母さんも生きていればこんな感じだったのだと想像するとなんだか悲しくなる。
「ほら行きますよ。」とリーシャが言う。
下に降り、食堂へと向かうといつもと変わらぬ光景だ。メイドと執事、今日は珍しくアレスがいる。そして兄弟が座っている。
開口一番、「誕生日おめでとう。とうとうこの日が来たな。なに、俺の子だ。きっと素晴らしい祝福を受けるさ。」とアレスが近づいてきて、俺の肩を叩く。
それに対し「ありがとうございます。シュタイン家に貢献できるよう頑張ります。」俺は答えた。
そしてアレスは感慨深そうに頷き自分の席に戻った。兄や弟からも祝福の言葉をもらう。
が姉のリリスは何も言わない。彼女は俺1つ上の姉で魔力がほとんどなかった。しかしそれ以上に俺には魔力がない事を知り、自分の経験からか優しくしてくれていたらしい。
転生する前の俺は自信が無くおどおどとしていて
それを見かねたリリスがいつも寄り添ってくれていたが転生し、性格まで変わった俺に対して不信感を抱いているようだ。
この1週間食事の時以外で会う事はなく避けられている事は容易に想像出来た。
「ほら、リリス。あなたもなにかいってあげなさい?」リーシャがそう言うとリリスは
仏頂面で「おめでと」そう言い食事も取らず部屋から出て行ってしまった。
周りは不穏な空気になるが、アレスからさあ食べて大神殿に向かおうかと一言。
各々食事を摂る。俺以外どこか緊張してるような雰囲気が見て取れる。父母はもちろんのこと、兄も俺の事を気遣ってくれてきたようだし、弟は普段とは違うこの雰囲気におどおどしている。
一通り食べ終わるとアレスから
「さぁ準備して行こうか」
そう言い彼はそわそわしながら部屋から出て自室へと向かう。
リーシャも用意に向かった。
俺も外出用の服に着替える為に部屋を出て階段を上がる。その際、兄と目が合い兄はニコッと微笑んだ。
自室に戻り着替えを済ませ玄関前にいる父と母の元へと向かった。
移動は馬車だった。執事の1人がつき馬を操っている。そういえば初めての外だ。転生した際に窓から見えた外の世界に足を踏み入れた。
10分程の移動だった。目の前に大きなお城の様な建物が見えた。
「レイド着いたよ。父さんと一緒に行こうか」
そう言って俺の手を取るアレスの顔はどこか硬っていた。
そうして神殿の中へと足を踏み入れた。
そこには貫禄すら伺える老人が立っていた。
「お疲れ様です。アレスです。それでは大神官様よろしくお願いします。」そう言って父は外へと出た。
「レイド・シュタインと申します。本日はよろしくお願いします。」礼儀正しい感じを出し頭を下げる。
「君がレイド君か。話は聞いている。思う所はあるだろうが頑張りたまえ。それでは始まる。目を閉じたまえ。」
そういうと老人は俺にはわからない言葉を口にし始めた。咄嗟に目を閉じるこういう時はどうすればいいのだろう。とりあえず強くなりたいと願っておこう。願わくば良い友人もそう願っている内に老人は語気を強める。最後に聞こえた「与えたまえ!」という一言で俺はまたあの空間に意識が移っていた。
「やあ、レイド君。」
ヴァルヴェルドだ。やはりこいつは神なのか。
「残念ながら僕は神ではない。だから僕からは祝福は与えられない。だが力を与える。せいぜいこの能力で壊れないでくれよ?」
「おい、まて。」その時には意識は神殿にあった。
目を開けると老人は驚いてこちらを見ている。
「君、大丈夫かい?」
俺は頷く。眼に若干の違和感があったが疲れているのだろうと1人で納得する。
老人は安心して
「ならば君の授かった祝福を見てみよう」
俺は再び頷くとまた老人は魔法のようなものを唱える。すると、老人の顔が曇りだす。
もしかするとあまり良くない祝福だったのだろうか。そう思い
「どのような祝福なのですか?」そう問うと
「き、君は何者なんだね?このような祝福、全大陸を見渡してもほとんどいないだろう」と強張った表情で話す
「勿体ぶらずに教えてください!」
俺がそういうと
「君が授かったのは精霊の祝福。火、水、風、土、光、闇。この6つの精霊が主にある。君はこれから精霊が見えるようになりそれらを使役することができる。だが、そのためには魔力が必要なのだ。だが君を以前見た時、魔力がなかった。」
ということは、そういうことなのだとすぐに理解した。
また、絶望する生活が始まるのか思うと自然と涙が溢れた。悔しい。悲しい。だが現実は残酷である。
泣き声を聞きアレスが来て、大神官から事情を説明されているようだった。
俺はフェルツのようにアレスも接してくれると考えていた。が、違った。
見覚えのある蔑んだ目、剣術学校で嫌というほど向けられた目がアレスから感じられた。
体から血の気が引いて行った。
終わった。アレスは何も言わず神殿を出た。
俺も黙ってその後を追い馬車へと乗り急いだ。
リーシャは察するように話しかけずただ俺の手を握っていた。
行きの10分とは考えられないほど帰りは長く感じた。家に着くとアレスは荒れた。アレスは帝国の騎士団の騎士団長。彼は才能に溢れていた。だから子供にもそう考えていただろう。しかし実際は違った。己への無力感、レイドに対してどう接する事が正解なのか頭がぐちゃぐちゃになった。そして、荒れ果てた。しばらくして自室に戻っていった。
俺はそんな姿見て自室に戻り1人ベッドへ潜り込み目を閉じ考える。また、前世と同じ結末を迎えるのだろうか。
そんな事を考えながらふと思う。
ヴァルヴェルドは力を与えると言っていた。
その力がなんなのかわからなかった。そもそもあんな変な奴の言う事を鵜呑みしていた俺が馬鹿だったと思う。
コンコン。 ドアを叩く音が聞こえた。リーシャかな?それともメリッサか?
「どうぞ。」
扉を開けてこちらを見るのはリリスだった。
悲しい目をしてこちらを見た瞬間ふと驚いた表情を見せて飛びついてきた。
「レイド!あんたどうしたのその眼は!?」
え?なんのことだかわからない。疲れて充血しているのだろうか?首を傾げる俺に
「あんた祝福があんまりだったからって眼をいじるなんて…」
何を言ってるのかわからなかった。
「リリス姉さん何を言っているの?」ぽかーんとした顔で聞く。
ムッとした表情で
「しらばっくれなくたっていいのよ。私の前ではレイドはレイドなんだから。」
「本当に何を言ってるの?俺は部屋についてすぐにベッドで寝ていただけだよ?」
そういうとリリスは不思議そうな顔をした。
なんなんだ。そう思い鏡を見ると左眼の色が変わっていた。というより黒いはずの眼球が白くなっていた。青翠色に眼に黒い眼球がトレンドマークのシュタイン家の眼ではなくなっていた。
驚く表情をする俺をみてリリスは悪戯でない事に気づく。
「その眼はなんなの。何かに使えるのかな?ちょっと力を入れてみなさい?」
そう言われて左眼に意識を集中すると意識が奪われた。
すると頭の中にレイドの過去の記憶となぞの白いボヤが入り込んできた。それが終わると未来が映し出される。
と同時に聞き覚えのある声が聞こえる
「気に入ってくれたかい?僕の力を。」
ヴァルヴェルドがいた。
「ヴァルヴェルドお前何をした」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて
「これが僕の能力さ。過去と未来。その眼に映した者の全てがわかる。だがそれはレイド君として接した時の場合だ。今はレイド君の体にブレイド君、君の魂が入っている。魂まではその眼は映し出せない。従って未来は大体の予想がわかる事になるだろう。」
と言うことはこの能力は魔力を必要としない純粋な俺の力となるのだろう。しかしこの能力があっても俺は祝福を使うことができないのだろうか。そう思い、ヴァルヴェルドに聞く
「お前も知ってると思うが俺は祝福を得た。この祝福を使うためには魔力が必要だ。しかしレイドは魔力を持っていないようだ。お前は世界を救えだかなんだか言っていたが、そんな事は魔力のない俺では到底無理だ。」
少し呆れた様にヴァルヴェルドは答える。
「レイド君、君は魔力がどこにあると思う?体?違う。頭?違う。そう魂さ。今の君はレイド君の身体であれ魂はブレイド君の魂。と言う事は?」
少しムカつく顔で聞いてくる奴の顔を見て全てを理解した。正直安心した。俺はこの世界ではなんとかやっていけるのではないか。蔑まれ虐められるような事はないのではないか。
安堵の表情を浮かべていると
「そろそろ時間だ。とりあえず君は魔法を極めないとね。そして少しでも魔力があるなら諦めるんじゃない。分かったね?」
そういうと奴の姿がまた消えていく。
俺の意識も消えていった。
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