我が家
家に帰り、リビングに入ると夕ご飯のとてもいい匂いがした。本日のメニューはカレーらしい。
楽しみだなぁ久しぶりのノエルの手料理。
というより、ノエルってカレー知ってたんだ。
いや、今はそんな事を思っている余裕なんかない。どうにかしてあの黄金カードと、先ほど買った婚約指輪を悟られないようにしなければ。
「あら、おかえりなせいませ。主人。もうご飯はできてますよ。いつご飯にしますか?」
ノエルがリビングに入ってきた。
「いつでもいいよ。そんな事より、もう明日の準備は終わった?」
そう、明日から学校なのだ。いや、本当は今日も学校なんだけどノエル達に会うために欠席している。
明日の学校に行きたくない。このまま週末まで休みたい。
俺がそんな事を思っていると、ノエルがそういえばといった感じで口を開いた。
「そういえば、本日はどこへ出かけてきたのですか?見た所、荷物を持ってはいませんし、くだらない物を買ってきたという事はなさそうですね。ただ、配送サービスとやらもあるらしいので、まだ、確実ではありませんが。」
ひっ。怖い。 背筋が凍るような視線に思わず、悲鳴をあげそうになった。
契約している主人をビビらせる精霊っていないよ⁉︎
「いや、何も買ってないよ。」
俺が何か高い物を買ったかもしれないともしかしたらもう気づいているかもしれない。
「まあいいでしょう。凪乃を起こして下さい。ご飯にしましょう。」
ノエルのその言葉に内心ホッとしながら、寝ている凪乃を起こし始める。
「凪乃ー起きてー、ご飯だよ。」
ウチの天使は床にキスしてますね。起きて?
何度かゆすりながら声をかけると目を覚ました。
「んー、パパおはよう。あ、お出かけから帰って来たんだ。お帰りなさい。」
おお、ちゃんとお帰りなさいを言ってくれてパパ嬉しい!
「よし、じゃあ凪乃、手を洗いにいくぞ。」
そして二人で手を洗った後、居間に戻ってくる。
テーブルにはノエルがもう配膳をしておいてくれた。
「三人揃いましたね。では、いただきましょうか。」
「はーい!」
ノエルが静かに微笑みながら言い、凪乃が元気に返事をする。
なんか、このやりとりがとても懐かしくて、とても嬉しく感じた。
二人は椅子に座り、
「早く食べようよ。」
「そうですよ。凪乃を待たせるなんて、ひどいですよ主人。早く座って下さい。あと、気持ち悪いです。」
二人のことを笑顔で見ていたら、そんな事を言われた。
おい、ノエルさんやい、最後の言葉はひどくないですか?イジメはいけません!
そんな事を思いながら椅子に座る。
「はいはい、座ったよ。お待たせしました。んじゃ、食べよっか。」
「では、いただきます。」
「「いただきます。」」
そして始まった久しぶりの家族三人揃った食卓はとてもいいもので。
「パパ、なんで泣いてるの?」
ん?泣いてる?
あ、俺泣いてるわ。
「いや、久しぶりの三人揃ったごはんだったから、嬉しくて。」
「そうなんだ。凪乃もとても嬉しい!」
おお、凪乃は嬉しい事を言ってくれる。それに比べてあの精霊様は・・・
「あれ、ママも泣いてる。なんで?」
え⁈嘘。泣いてるの?なんで?
「いえ、その、主人と同じ理由です。」
あっるぇぇ?
俺の見間違いかなぁ?
あのノエルさんが泣いてますよ。
レアだわ。
こんな機会滅多にないし、いつもの意趣返しとしてからかってやろう。
「あれ〜?ノエルさん、泣いてるの?おかしいなー。とても冷たくて、非人道的なお方が、そんな理由でお泣きになっていらっしゃるのですかぁ?」
「主人、少しあちらでOHANASHIをしましょうか。」
俺が余計な事を言った次の瞬間、ノエルが満面の笑みで言った。
ただ、目はとても冷たい。
「あ、すいませんでした。ホントごめんなさい。許して。」
「はぁ、仕方ありませんね。凪乃もいますし、早く食べましょう。」
よかった。助かった。
ホッとしながらカレーを食べる。
「なぁ、ノエルってカレー作れたっけ?」
ふと疑問に思った事を聞いてみた。
「あ、凪乃も聞きたい!ママ、この料理始めて食べた!」
「実は、スーパーに行く時に車の運転手の方に家庭でよく食べる料理を聞いて、スーパーで材料を買って作ってみました。もしかして、不味かったですか?」
ノエルがとても不安そうに聞いてくる。
「いや、メッチャ美味い。初めて作ったなんて思えないくらいに。」
「凪乃もとっても美味しかった!また作ってほしいな。」
あれ?凪乃がもう食べ終えてる。
速い!
「そうですか。良かったです。」
そんな事を話しながら、久しぶりの家族三人での食事の時を過ごした。
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「では、凪乃も寝ましたし、少しOHANASHIをしましょうか。主人?」
ノエルがとてもいい笑顔で言う。
「えっ!もう許してくれたんじゃないの⁈」
「いえ、あの時は凪乃もいましたので、教育上よくないと思ったので。」
ヤバイ。こうなったらもう逃げられない。
そしてこの後、椅子に座り笑顔で質問、説教をする精霊と、その前の床に正座し、冷や汗をダラダラ流している精霊の主人の構図が出来上がっていた。