リチャードの紅い石
「ちょっと待ってろ」
魔法使いは、荒々しく家に入って行く。
メレニアが大人しく待っていると、手に紅い石のペンダントを持って出てきた。透き通った明るい紅で、円環状の穴部分に革紐をくくりつけてある。
革紐からも、リチャードの魔力が感じられた。
「外すなよ」
手を突き出してくる。くれるらしい。
メレニアは、いそいそと受け取る。すぐに首から提げると、石の部分を改めて手にとって眺めた。石の中には濃い紫色をした魔法の炎が閉じ込められて、揺らめいている。
本当は、リチャードに掛けて欲しかった。頼める筈もないけれど。理由は、乙女心が9割だ。
だが、それだけではない。魔法の御守りは、作り手自ら身に付けさせてくれると効果が段違いなのだ。
「あの、父の御守りは、偶然切れてしまったんです」
無用心にはしていない、とアピールしておく。
「ミルレイク子爵の御守りが?」
リチャードの眉間に皺が寄る。厳つい顔が、益々怖くなる。
「はい、またご迷惑をお掛けしてしまって」
「思ったより厄介だな」
「すみません」
「まあ、仕方ねえ。とりあえず家に帰るまでは、それ掛けとけ」
「はい、ありがとうございます」
申し訳なく、ありがたく、メレニアはリチャードの首飾りを身に付けておく。
(お父様ご免なさい。不謹慎とは思うけど、嬉しい。御守りが切れたお陰で、リチャード様からペンダント頂いちゃったわ!)
「なんだ、にやにやして」
「あ、いえ。人間に戻れたのが嬉しくて」
メレニアは誤魔化す。まさか、好きな人にペンダントを頂いて嬉しいなんて、言えない。
だが、気の緩みを咎めるように、リチャードは厳しく言う。
「虹色野郎が捕まるまで、出歩くんじゃねえぞ」
「はい、気を付けます」
(まさかこんなにすぐに、また間違えられるとはおもわなかったんだもの)
浮わついた気持ちが、少し萎む。
「家の前までは送り届けてやっから」
昨日もフィラン邸の門前まで、瞬間移動させてくれた。門の中は、ミルレイク子爵家の秘術によって守られている。そのため、当主に許可された者以外、魔法的にも、物理的にも、入ることは敵わない。
「親父さんにも、御守りの紐が切れた状況は、詳しく伝えるんだぞ」
「え?」
「ミルレイク子爵の御守りが切れるなんざ、普通じゃねえ」
「そうなんですか?」
「そうだよ」
メレニアは、自分が置かれている状況に青ざめた。
家業のことを知っているとはいえ、メレニアは、父の実力をそこまでとは思っていなかった。エリート魔法使いが、厚い信頼を寄せる技術だとは。それが破られたとあっては、もっと厳重な警戒をしなければなるまい。
「あの、虹色の魔法使いは、どうして2度も間違えたのでしょう?これまで、こんなことはなかったのに」
「それもおかしいんだよな」
「はい」
「とにかく、解決するまで閉じ籠ってろ」
「そうですよね」
友達が少ないからといって、メレニアは引き籠りご令嬢ではない。外に出されない深窓のご令嬢でもない。普通に出歩く16歳の少女である。
貴族のご令嬢の教育は、住み込み家庭教師が担うので、勉強に支障はない。むしろよい機会だ、と時間を増やされそうだ。
「訪問者にも気を付けろよ」
「やっぱり」
「なるべく、誰とも会うな」
「そうします」
メレニアにだって、訪ねてくれる人も多少はいる。しかし、今の状況では、どんな罠があるか解らない。用心にこしたことはないだろう。
「恋人に会うなら、親父さんに、そいつの分も御守り作って貰え」
リチャードの見当外れな気遣いに、メレニアは間髪を入れずに叫ぶ。
「居ません!」
「なんだよ」
「あ、ご免なさい」
あまりにも早い反応に、灰色マントの魔法使いがたじろいだ。
次回、思いがけない招待状