翼あるもの
誤字報告ありがとうございます
姉のような侍女リリーは、犯罪者に絆されたかと思って心配なのだ。
リリーに不審な眼を向けられながら、メレニアはガラス戸を押して表へ出ようとした。
そこへちょうど、2人連れの娘さんが喋りながら入ってこようとした。慌てて立ち止まったメレニアだったが、2人は気づかずぶつかりかけた。
片方は、頭1つぶんメレニアよりも低い。派手な金髪を、赤い金属の簪で纏めていた。
「えっ?」
すれ違いざまに、メレニアの首もとにある御守りの鎖が、簪に引っ掛かる。気付いた時には、切れていた。
御守りを拾うのは、2人連れが完全に中に入ってからにした。手を踏まれても困るので。メレニア自身は一旦外に出る。
「お嬢様っ!」
通りに足を踏み出したメレニアを、再び虹色の光が襲う。今回も、リリーは跳ね飛ばされてしまった。しかし、通行人を2,3人巻き込んで倒れずにはすんだ。
「そんなあっ」
気を失わなかった代わりに、目の前で鳥の姿に変わるメレニアを目撃してしまった。栗色をした、雀ほどの小鳥である。
今回も、吹き飛ばされたリリーに注目が集まった。虹色の光は一瞬で、通行人は見ていなかった。
(逃げなきゃ)
メレニアは、公園でリチャードが取った行動を思い出す。リリーには悪いが、もたもたしていたら誘拐犯に捕まってしまう。
(申し訳ないけど、頼れるのはリチャード・ストリングス様だけだわ)
空から見る街は、少し様子が違った。けれども、遠くまで見晴らせるので、家を探すのには好都合だった。
メレニアは記憶を頼りに、昨日行った魔法使いの家を目指す。
緑の柵で囲まれた町外れの小さな家は、すぐに見付かった。メレニアが庭に降りようとすると、魔法の壁に阻まれた。
仕方がないので、止まれる枝を探す。灰色マントの魔法使いが、姿を現すのを待つのだ。
「ああ、やっぱり」
待つまでもなく、リチャードが姿を現した。今日も、怒った声を出す。家でくつろいでいたらしく、ラフな白シャツにベージュの綿パン、裸足に突っ掛けで庭に出てきた。
昨日も下ろしていた髪だが、今は櫛も入れずにボサッとしている。
(えっ、格好いい!かっちりしたエリート魔法使いスタイルも良いけど、ラフなの、凄い似合う)
メレニアが、目的をすっかり忘れて興奮していると、不機嫌そうな声が飛んでくる。
「降りてこい!壁は通れるようにしたから」
嬉々として舞い降りるメレニア鳥。
(あの肩、何て止まり心地が良さそうなの)
「肩はやめろ。魔法を解くとき困るだろうが」
確かにそうだ。人間になったとき、肩に立っている状態はシュールだ。それにメレニアは、か弱いご令嬢。バランスを保てるとは思われない。グラリと地面に落ちるだろう。
(残念だわ)
馬の時もそうだったのだが、変身中は、半分くらい動物の感覚に引き摺られてしまう。
リチャードのがっしりした肩や、安定感のある頭に止まりたい。もう少し、風に乗って上空も飛びたい。
「あんまり時間経つと、戻れなくなるぞ」
(何ですって)
「早く降りてこい」
メレニアは、ぞっとして庭に降り立つ。
リチャードは、屈んで眼を合わせてきた。昨日と同様、じっと瞳の奥を覗き込む。
(やっぱり、真っ直ぐで誠実な眼ね。心まで綺麗なことが伝わってくるわ)
どきどきしているうちに、メレニアは人間に戻った。
次回、リチャードの紅い石
よろしくお願い致します
※誤字報告ありがとうございます。
凄い は、科白なので修正しませんでした。※