表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

2人の色

 伯爵邸のお茶会がお開きとなり、車寄せで迎えの馬車を待つ。リリーは今回仲良くなった他家の侍女から、有益な情報を得たらしい。


「虹色の光がお嬢様を襲ったあとで、逃げ去った男がいたらしいんです」

「リリー、危ないから探そうなんて思わないでね」


 メレニアは、釘を刺す。灰色マントの魔法使いリチャード・ストリングスによれば、虹色の魔法使いは凶悪な誘拐犯だ。どうせ人違いなのだし、そっとしておいたほうがよい。


「あの時見た人がいるなら、巡回騎士さんが捜査してるわよ」

「本当に捜査して下さってるんでしょうか」

「仕事ですもの。あとは、任せておきましょうよ」

「あのあと、子爵家には、事情を聞きにも来なかったんですよ」

「リリーがしっかり話してくれたからよ」

「そうでしょうか」


 リリーは、納得出来ず口をへの字に曲げて押し黙る。



「それより、リリー。帰りに手芸店に寄りたいんだけど」

「あら、珍しいですね」

「ちょっと刺繍してみたい気分なのよ」


 メレニアは、伯爵邸のバラ園で見た濃い紫色のバラを刺してみたくなったのだ。

 刺繍は得意ではないが、教養程度の腕前はある。自分で使う程度の出来映えなら、難なく仕上げられるだろう。


 路肩に馬車を停め、手芸店に入る。フィラン家は、商人を呼ぶ程ではない。気軽にあちこち出掛けている。メレニアの地味顔も手伝って、街をうろうろしても注目は浴びないし。


(まあ、ぴったりの色)


 メインの濃い紫色は、すぐに決まった。他には、紫のグラデーションと、陰影用に灰色。数ある灰色から、リチャードの髪の色を選ぶ。


(茎と葉、それと棘)


 メレニアの瞳に似た深緑をメインに、髪の色に近い栗色も手にする。


(やだ、寄り添うみたいね)


 店員さんに選んだ糸を出してもらうトレーを見て、気恥ずかしくなるメレニア。頬が微かに上気している。



 様子を伺っていたリリーが、ぎょっとしたようにトレーを見た。


「どうしたの?リリー?」

「あ、いえ。どなたかへの贈り物ですか?」

「私のよ?今日のお庭で、素敵なバラを見たものだから」

「そのような色合いがお好きでしたか?」


 リリーは、疑わしそうに聞いてくる。メレニアが好むバラは、つい先頃まで、紅茶色の小振りな花を咲かせるツルバラだった。


「やあね、特に意味なんかないわよ」


 メレニアは、耳まで赤い。


「お嬢様。逃げた男の髪は灰色、眼は濃い紫色だったそうですが?」

「ええっ?なにそれ?誤解よ、酷いわ!リチャード・ストリングス様は、命の恩人だわ」


 一息に言い切って、メレニアは、はっと口を押さえる。

 特に口止めはされていないが、あまり話題にしない方が良さそうだと思った。どこで誰が聞いているか解らない。


 王太子の婚約者を狙った犯人に、人違いの件が伝わってしまうかも。更に、虹色の魔法を解ける存在を知られるのも不味いのでは。そうメレニアは、考えたのだ。


「それと、これで、お願いします」


 そして、誤魔化すように灰色のハンカチを加えて、お会計を頼む。ハンカチの灰色は、魔法使いのマントの色だった。


 リリーが聞いた目撃証言では、逃げ去った男は、マントを着ていた。それも、この国で認可を受けた魔法使いに支給される、灰色のマントだと言う。


(あとで必ずお話を伺いますからね)


 リリーは、初恋に浮かれた主人を呆れたように眺めるのだった。

次回、翼あるもの


よろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ