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Reboot  作者: シクル
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第五話「Reboot」

 春彦が消滅した後、マクレガーは現状についてと早坂和葉についてをかいつまんで拓夫に説明する。拓夫は驚きながらもなんとか状況を飲み込んだ。

「……わかった。浸さん……だっけ? 助けるの、手伝うよ」

「え、でも……拓夫さんはもう……」

 十分戦った。出来れば戦って欲しくないというのが和葉の本音だ。それはマクレガーも同じだったが、拓夫だけが首を左右に振る。

「浸さんって人の身体を奪った奴に、俺心当たりがあるんだ。もしあっているなら、そいつを倒すのは俺の仕事だと思う。それに」

 そこで言葉を一度区切って、拓夫は真っ直ぐに和葉を見つめる。

「今俺がこうしていられるのは、君のおかげでもあるからさ……。何か、手伝わせてよ」

「拓夫さん……」

「お、俺……ただのオタクだったけどさ……今は結構、強いんだぜ」

「ああ、拓夫は私の知る中では最高の戦士だ。彼はきっと、君の助けになる」

 得意げにそう言って、マクレガーは拓夫の肩に手を乗せる。

「マック……。ごめん、俺……」

「謝ってくれるな相棒。君がああなったのは私の責任だ。むしろ謝るなら私の方だと思うがね」

 そんな二人のやり取りを見て、和葉は笑みをこぼす。

 だがそんな緩やかな時間は、すぐに壊されることになる。

「ここにいたか、超人」

 声の主は浸だ。青龍刀を構え、ゆったりとした動作で廃工場の中へと入ってくる。そして拓夫の姿を見ると、憎たらしそうに顔を歪めた。

「……クラック」

「クラック?」

 和葉が問い返すと、拓夫は小さく頷いて話し始める。

「あいつはかつて、俺達の世界をグリッチで埋め尽くそうとしたグリッチだ。あいつも……復元されていたんだ」

「勘違いするなよ超人。私は何もグリッチで埋め尽くしたくてそうしたわけじゃない。あのサーバーが限界を迎えていた以上、人間はグリッチとして新たな可能性を模索するしかなかった。私のようにね」

 このクラックと呼ばれるグリッチもまた、ヴィルスのように自我を残したままグリッチになった存在だったのだろう。サーバーが終わりを迎え、データが崩壊しつつある人類がグリッチへと変貌することを、クラックは”進化”と考えていた。

「……じゃあ、今は何だよ! 浸さんの身体で、何をしようって言うんだ!」

「ただ、私が生きる。この身体でな」

 それは純粋で、本能的な望みだ。サーバーの中でデータとして終わりを迎えたクラックが、人間の身体で現実を生きたいと望むのは当然のこととも言える。

「でも……だからって、人の身体と人生を奪うなんてダメです! 浸さんを、返してください!」

「そうはいかないな。私の正体を知る君と、超人とマクレガー、そしてもう一人の少女を殺し、私は私の新たな人生を生きるのだ」

「……だったら俺が、止めてやる」

 拓夫がそう言うと、拓夫の右腕にブルーレイドライブに似た装置が現れる。これがハックの変身装置、ハックドライバーである。

 拓夫は腰につけたホルダーからハックのディスクを取り出したが、そのディスクは酷く傷つき、欠けていた。

「拓夫! そんな状態のディスクでは!」

「……クソ! 何かないのか!」

 ホルダーの中を探しても、代わりになるものはない。ハックはバージョンアップディスクを持っているが、元となるハックのディスクがなければバージョンアップは行えない。

 拓夫とマクレガーが焦る中、和葉はあるものを見つけてすぐに駆け出した。

「か、和葉ちゃん!?」

「こ、これ! 使えませんか!?」

 和葉が拾い上げたのは、一枚の紫色のディスクだった。

「それは……!」

「このディスク……ヴィルスさんの……春彦さんの霊力が……!」

 一見するとただのディスクだが、和葉には理解出来る。これはヴィルスの、冬馬春彦の霊力が込められている。霊的な存在で、物質ではない。

「驚いたな! それはヴィルスのデータの残骸だ! まさかそんなものを残していたとは……!」

 それを聞いた途端、拓夫はすぐに和葉の元へ駆け寄り、そのディスクを受け取る。

「……させるか!」

 浸――――クラックはすぐに拓夫へと駆け出し、青龍刀で襲いかかる。拓夫はそれを回避し、すかさずクラックの腹部に肘打ちを食らわせて怯ませてから突き飛ばす。

「……力を貸してくれ! 春彦!」

 ヴィルスのディスク……Visionと書かれたディスクを、拓夫はハックドライバーに装填する。ディスクは入れた瞬間高速回転を始め、ハックドライバーからノイズ混じりに電子音声が流れ始めた。

『Now Loading……』

「……行くぞ!」

 掛け声と共に拓夫が上蓋を閉じると、ハックドライバーから光の壁が出現する。

『Reboot!』

 電子音声と共に光の壁は拓夫に迫り、包み込む。そして光の中から、新たな戦士が姿を表す。

『VersionX! Vision Hack!!』

 傷ついたハックの身体を、紫色の炎が包み込む。不完全ながらも装甲が修復され、割れたマスクには紫色のコードが巻き付いて補強される。肘や膝から紫色の炎が漏れており、どこか禍々しい姿にも見えたが、これは間違いなく超人ハックの新たな姿である。

 魔人ヴィルスの力を宿した新たなハック――――ヴィジョンハックが誕生した瞬間だった。

「私の設計にはない姿だ……!」

「春彦さんの霊力が……拓夫さんを助けたんです! あれは、二人の力ですよきっと!」

 はしゃぐ和葉と驚くマクレガーを背に、ハックは悠然と佇む。

「行くぞクラック。お前は、俺がデリートする!」

「やってみろ……超人!」

 忌々しげにハックを睨みつけ、クラックは青龍刀で斬りかかる。ハックはそれを右腕で容易く受け止め、弾く。

 クラックは何度も何度もハックを青龍刀で斬りつけたが、ダメージはほとんどない。ハックはただ立っているだけで、今のクラックを圧倒しているのだ。

「……他人の身体のままじゃ、俺は倒せない!」

「ふざけるな!」

 ハックの言っていることは、和葉にもわかる。それは単純に今のハックの強さだけを言っているわけではない。

 浸の身体を、クラックは完全には操れていないのだ。微かだが、和葉には感じ取れる。クラックの支配から逃れようともがく浸の霊魂の力が。

「浸さん! 浸さん、負けないで!」

 和葉の言葉に答えるかのように、クラックの動きは鈍くなっていく。

「もうよせ。勝ち目はない」

 青龍刀を右手で受け止め、ハックはクラックを睨みつける。

「ふ、ふふ……」

 だがクラックは、この状況下で笑ってみせた。

「だから……どうしたというのだ」

「何……?」

「私がこの身体から出ない限り、お前は私を攻撃出来ないのではないか?」

「……」

 クラックの言葉に、ハックは黙り込む。

 クラックが浸の身体を出ない限り、浸を救うことは出来ない。ハックも下手に攻撃することが出来ない。つまりクラックは、浸の身体を盾にしようというのだ。

「卑劣な奴め……!」

「そんな……!」

 クラックを睨みつけるマクレガーと、悲痛な声を上げる和葉。しかしハックは、そんなクラックを鼻で笑って見せた

「何がおかしい?」

「いや、ごめん。そんなに難しい話じゃないよなって」

「何を言っている? まさかお前、この女ごと攻撃するつもりか?」

「そんなこと、しないよ」

 そう言って、ハックは身構える。

「忘れたのか? 俺だって、幽霊なんだぜ」

「何……?」

「お前に入り込めて、俺に入り込めない道理はない!」

 そう叫ぶと、ハックはハックドライバーを操作した。

『Vision Break!』

「浸さんの身体をすり抜けて、お前を直接ぶっ飛ばしてやる!」

 電子音声と共に、ハックの右足に紫色のエネルギーが集中する。そしてハックは助走をつけて跳び上がり、クラック目掛けて渾身の飛び蹴りを放つ。

「その身体も、この世界も、俺やお前の居場所じゃない! 出ていけ!」

 ハックの身体は浸の身体をすり抜け、異物であるクラックの霊魂だけを蹴り飛ばす。

「浸さん!」

 クラックの支配を逃れ、浸の身体がその場に倒れる。和葉がすぐに駆け寄ると、浸はすぐに和葉に微笑みかけた。

「……ありがとう、ございます……。早坂和葉……あなたが、彼らを?」

 彼らとはハックとマクレガーのことだろう。和葉が泣きながら頷くと、浸はもう一度穏やかに微笑む。

「よく頑張ってくれました……。迷惑をかけて、すみません。朝宮露子は無事ですか?」

「はい、傷は浅かったので……」

 そんな会話をしていると、和葉は背後で悪意が膨れ上がるのを感じた。振り返ると、そこには形を成し始めたクラックの霊魂があった。それはハックや浸よりも一回り大きな人型になり、高速で変質を始める。

「これって……!」

 その姿は、ハックの姿に少し似ていた。しかし白いボディは黒ずんでおり、マスクも歪んでいる。不気味な黒い複眼がギョロリと動く様は、メカニカルなハックとは対照的で、生物的な印象を覚えた。

「……こいつは、クラックはあのサーバーの中で他のデータを食いながら強くなったグリッチなんだ。常に人の姿を真似ていたこいつに、もう本当の姿なんてない」

 ハックが態勢を整えながらそう言うと、クラックはギロリとハックを睨みつける。

「……これは……中々手強そうな悪霊ですね」

 浸はすぐに立ち上がり、ハックの横に並び立つ。

「ちょ、ちょっと浸さん!」

「あの、大丈夫なんですか!?」

 驚く和葉とハックに、浸は順番に微笑みかける。

「ええ。彼は悪霊ですからね。除霊するのは、ゴーストハンターの仕事です。早坂和葉! 雨霧を、あの刀をお願いします!」

「嫌です! そんな状態で戦うなんてダメです!」

「ふふ、そう言わず。でないと素手で突撃しますよ」

「……もう!」

 根負けした和葉は、すぐに背負っていた刀――霊刀雨霧を浸に渡す。

「ご、ゴーストハンターか~~~! かっこいいなぁ。ほんとにそういうのいるんだ!」

「超人だってかっこいいじゃないですか。では、行きますよ。超人ハックさん!」

「……ああ! 行こう、ゴーストハンター、雨宮浸さん!」

 雨宮浸と秋場拓夫。二人の戦士が並び立ち、壊人かいじんクラックへに立ちはだかった。


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