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Reboot  作者: シクル


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第一話「Revive」

あらすじの通りです。

時系列的にはゴーストハンター六話以降のどこか、ということになります。正史に含むかどうかを考えていないので、解釈はお任せします。

 それは、巨大なサーバーに見えた。

 考古学者、東善九郎ひがしぜんくろうを中心とした発掘チームは、遺跡から掘り出されたその巨大な物体に息を呑む。

「……東先生、これは……」

「……ああ、間違いない。これで私の研究が正しかったことを証明出来るハズだ」

 興奮気味にそう答え、善九郎は改めてその物体を眺める。これは自然に出来たものではなく、明らかな人工物だ。それも恐らく……現在の技術を遥かに越えた精密機械。しかし善九郎はこれをオーパーツとは思わない。善九郎の研究は、今の人類より前の人類が存在したことを証明するための研究だ。現在の人類をも凌ぐテクノロジーを持った旧人類が存在したとされる証拠は過去にいくつか発掘されていたが、ここまで決定的なものは初めてである。

「……歴史が変わるぞ」

 サーバーを見上げ、善九郎はニヤリと笑みを浮かべた。










 今日の早坂家の昼食は特大ハンバーグだ。

 ある日の休日、早坂和葉はやさかかずはは自宅に上司であり恩人でもある雨宮浸あまみやひたるを招き、家族と浸でちょっとした会食を行っていた。

「……これはまた……早坂和葉らしいというかなんというか……」

 早坂家の食卓に座り、和葉の前に置かれた特大ハンバーグを見て、浸は驚きを隠せない。和葉の母、明日子あすこはそんな浸を見て笑みをこぼす。

「雨宮先生は普通のサイズと和葉サイズどっちが良いですか?」

「そうですね……普通のサイズでお願いします」

「はぁい」

 明日子は穏やかにそう答え、台所からハンバーグを持ってくる。安堵する浸の隣では、嬉しそうに和葉がハンバーグを見つめていた。

「ごめんなさいねぇ。あの人、昨日急に出勤することになっちゃって……。本当は二人でお礼が言いたかったんですけど……」

「いえいえ、お気になさらず。早坂和葉には、私もいつも助けられてますから」

「そ、そんなことないです! いつも浸さんに助けてもらってるのは私の方で……! 今こうしてられるのも、浸さんのおかげですし……」

 慌てて横から訂正し、和葉は照れ臭そうにうつむく。

「……本当に、ありがとうございます。和葉がこんなに明るく誰かと話しているところなんて、昔は想像もしなかったくらいで……。この子、人と少し違うからって壁を作ってて……」

「や、やめてよお母さん、そんな前の話……。今は、大丈夫だよ」

 早坂和葉は霊能力者である。それもかなり才能のある霊能力者で、霊を見る霊視能力だけでなく、霊を感知し、理解する霊感応力に長けている極めて稀な霊能力者なのだ。

 そのせいで霊に付き纏われ、学生時代は気味悪がられていたせいで自身の能力に対して否定的になっていた和葉だったが、そんな彼女に手を差し伸べたのが雨宮浸だ。

「ふふふ……早坂和葉はもう立派なゴーストハンターですよ。明るくてかわいらしい、自慢の助手です」

 そう言って浸は満足げにうなずいて見せる。

 悪霊の除霊を生業とするゴーストハンターである雨宮浸は、早坂和葉と出会い、彼女を自身の助手にした。ゴーストハンターとして霊と向き合う仕事は和葉に適していたし、その経験が和葉を前に進ませてくれるかも知れないと判断したからだ。

 その結果、和葉は着実に成功体験を重ね、浸と共に過ごす内に本来の明るさを取り戻すに至ったのである。

「ありがとうございます、浸さん」

「いえいえ、こちらこそ」

 そんなやり取りをしてから、二人は微笑み合う。

「さあさあ、冷えない内に食べてしまいましょうか~」

 明日子にそう言われ、二人は手を合わせる。三人そろっていただきますの挨拶を終え、ゆっくりと食べ始める。

 ハンバーグとご飯の他にはサラダや味噌汁等、ある程度栄養バランスの考えられたメニューが並んでいる。特に浸が気に入ったのは味噌汁で、しっかりと出汁から取られた味噌汁は浸好みの風味だ。

「やはり昆布出汁は鉄板ですね。流石は早坂和葉の母親です」

「あらあら、ありがとうございますぅ」

「早坂和葉が食べることを好きでいられるのは、あなたの料理がおいしかったからでしょう」

「そこまで言われると流石に照れますねぇ……」

 浸にべた褒めされてしまい、明日子も流石に照れてしまって頬を染める。

 そんなやり取りを微笑ましく見つつ、和葉は手元のリモコンを操作してテレビの電源を入れる。

「こら和葉、お客さん来てるのよ」

「あ、ごめんなさい、ついいつもの感覚で……」

「いえいえ、構いませんよ。早坂和葉が食事中にテレビが見たいのでしたら、事務所にもテレビを置いた方が良いかも知れませんね」

 冗談交じりにそう言う浸だったが、明日子は少しわざとらしくムッとした表情を見せた。

「行儀が悪いので駄目です!」

「そんなぁ……」

 他愛のないやり取りが続き、食卓には笑顔が絶えない。

 談笑しつつテレビを見ていると、ふとこの町、院須磨いんすま町の名前が出てきて三人共がテレビに注目する。

『発掘された巨大サーバーは、調査によると人類の有史以前のものとされており……』

「すごい……古代のサーバーだってお母さん!」

 ニュースの内容は、院須磨町に住んでいる考古学者、東善九郎が古代のものと思われる巨大サーバーを発掘したというものだった。このサーバーは善九郎の研究室のある院須磨町に持ち込まれており、現在はデータの復元作業が行われているとのことだった。

「……さーばー……?」

 古代のサーバー、と聞いて驚く和葉と明日子をよそに、浸は全くピンとこないのか困惑した様子でテレビを見つめている。

「早坂和葉、今度さーばーについてじっくり聞かせてもらってもいいですか?」

「えっ? あ、はい……私のわかる範囲で良ければ任せてください!」

 自信満々に答える和葉だったが、和葉にわかる範囲は狭かった。





 場所は変わって院須磨町にある美須賀みすか大学研究室。浸と同じくゴーストハンターである朝宮露子あさみやつゆこは、東善九郎の依頼を受けてその場所に訪れていた。

「で、大学を亡霊がうろついてるって話ですけど、どのような亡霊なのかもう一度お伺いしても?」

 露子の問いに、善九郎は静かに頷いて話し始める。

「学生の話ですと、白い亡霊ですね。人間というよりは、ロボットのような姿だったと聞いております」

「……ロボット?」

 はぁ? とでも言いたそうに眉を歪める露子に、善九郎ははい、と短く答えた。

「私も耳を疑いました。ロボットの霊だなんて意味がわかりませんからね」

 白髪交じりの頭を悩ましげに抱え、善九郎はため息をつく。

 善九郎の目元には隈があり、表情もどことなく疲れている。服装もある程度整えられているがしわが目立ち、体臭はかなり香水で誤魔化されている。

(……こいつ絶対シャワー浴びてないわね……)

 そんなことを思いつつも、露子はなるべく顔には出さないようにする。

「……わかりました。調査しましょう」

 善九郎の身なりを露子が快く思っていない一方で、善九郎は善九郎で露子のことを疑っていた。

 善九郎は元々、露子ではなく知り合いのゴーストハンターに連絡したのだが、彼は既に引退してしまっていたのだ。そんな彼から実力者だからと紹介されたのが露子だったのだが、現れたのはゴスロリワンピースの女子中学生である。訝しんで当然だ。

「これ以上騒ぎになられると研究に支障が出ます。どうかなるべく早急に解決を……」

 善九郎にとって、今はサーバーの研究以外のことには興味がない。幽霊騒ぎに気を取られている場合ではないのだ。解決さえしてくれるなら、相手が女子中学生だろうがなんだろうが構わない。

「まずは本当に霊がいるかどうかの調査からですね。生徒のイタズラという線は?」

「ええ、勿論あり得ます。そちらについては我々の方で調査中ですので」

「……それにしてもロボットの霊、ねえ……なんかの見間違いじゃないかとは思うんですけど」

 既に悪霊化して変質していればそのような姿もあり得るが、それならとっくに犠牲者が出ているハズだ。だが聞いた話では目撃証言ばかりで、襲われたという話はない。

 露子にとってはわけのわからない事件だが、依頼された以上は調査するしかない。そう思って露子が早速調査を開始しようと立ち上がった時、研究室の外から悲鳴が上がる。

 露子が慌てて善九郎と共に飛び出すと、学生の一人が善九郎へと駆け寄ってくる。

「どうした!?」

「先生! ゆ、幽霊が!」

「なに……?」

 突拍子もないその言葉に顔をしかめる善九郎だったが、すぐにその顔は驚愕で歪められる。何故なら、その生徒が人知れず浮き上がり、吹っ飛んで壁に激突したからだ。

「こ、これは……!?」

 善九郎はわけがわからず困惑していたが、露子にはハッキリと見えていた。奇怪な姿の悪霊が、生徒を後ろから掴んで投げ飛ばす姿が。

「下がってなさい。悪霊よ」

「悪霊だと!?」

「除霊はアンタの依頼内容でしょうが!」

 もう取り繕うのをやめてしまった露子は善九郎を怒鳴りつけ、すかさず二丁の拳銃を取り出す。異様に長いマガジンの装填された特徴的な拳銃を両手に構え、露子は目の前の悪霊に対して身構えた。

(……何……こいつ……!)

 悪霊とは、霊化した霊魂が淀んで変質した存在だ。自我を失い、人を襲う怪物である。大抵の悪霊は悪霊化した時に姿を歪に変質させており、目の前の悪霊も例外ではない。しかし、露子はこの霊が通常の悪霊とは少し違う気がして訝しむ。

 真っ黒で毛むくじゃらの身体に二本の腕と六本の脚。頭部についた六つの目が、ジッとこちらを見ている。まるで蜘蛛男だ。これくらいの変化、悪霊としては普通なのだが、言いようのない違和感を、露子は拭えずにいた。

 その数瞬の戸惑いを、蜘蛛男は見逃さない。蜘蛛男は口から勢いよく、露子に向かって糸を吐き出した。咄嗟に回避する露子だったが、避けきれずに糸は露子の左手に絡みつく。

「このっ……!」

 即座に糸に引き寄せられた露子だったが、右手の拳銃のマガジンを蜘蛛男の顔面に叩きつける。うまく目にあたったのか、蜘蛛男がたたらを踏んだ隙に、露子は蜘蛛男に弾丸をぶち込んだ。

 数発ぶち込んで倒れた蜘蛛男を踏みつけ、更に数発弾丸をぶち込む。露子の霊力の通った弾丸が蜘蛛男の身体を貫き、強制的にその場で除霊した。

「ふぅ……」

 ひとまず蜘蛛男は除霊出来たが、聞いていた特徴と違う。何やら想定よりも厄介なことになりそうだと顔をしかめていると、今度は学校の外から甲高い悲鳴が上がった。

「……依頼料、上乗せしてもらって良いかしら?」

「……え? ああ……」

 善九郎が戸惑いながらも頷いたのを確認すると、露子はすぐに校舎の外へと飛び出した。

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