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73話 エピローグ

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 肉の化け物との戦いから終わって、一週間が過ぎた。

 紫紺の石、魔石を破壊した後に残った物は大きな肉の残骸であり、騎士や冒険者達が今も必死に除去作業に入っている。

 

 ただ、大きすぎるが故に作業はまだ続くだろう。

 魔法があるといっても、大きいというだけでそれなりの時間がかかる。

 だが、冒険者からすればある意味金の生る木だ。

 肉の化け物の残骸が貴族街にある、ということもあって早く撤去してほしい貴族が金を落とす。

 

 それに命の危険もない、という訳ではないが魔物と戦う時よりは少ないため低いランクの冒険者達も一生懸命働いている。

 その裏で二人の男が城の中で会っていた。

 

 

 

「それは、護衛を辞めるという事でいいのか?」


「はい。主を守れない俺は護衛できる資格はないです。それに、俺は冒険者の方が肌に合っている、それがよく分かりました」


 城のラディアント第一王子は執務として使っている部屋で、ラディアント第一王子とカインは向かい合っていた。

 机で両肘を立て手を組むラディアント第一王子の顔には疲労の色が見え、何度も徹夜しているように見える。

 

 カインは右腕が包帯に巻かれ、右肩から紐と布を使って吊るして固定されていた。

 それだけ先の戦闘が激しかった、という事だ。逆に言えば、それだけで済んだのは幸運と言える。

 

「そうか、それは本当に残念だ」


 カインが護衛を辞めると聞いて、ラディアント第一王子は考えていた事全てが白紙に戻った。

 前にフィラルシアが誘拐されて護衛が解雇された、それがカインを護衛にした理由だ。だからカインの辞める理由もなんらおかしくない。

 だが、ラディアント第一王子としては辞めさせるつもりはなく、今後も護衛として続けていて欲しいという気持ちがあった。


 だが、続けさせることを強制させるのはこれからの事を考えると不味い。カインと良い関係を築くには、引くしか手段が残されていない。

 

「私個人としては、まだ護衛を続けていて欲しいのだがな」

 

 紛れもない本心である。故に口にする必要がある。胸の奥底に留めておく、という愚策は犯さない。人間、言わなければ通じないものだ。

 

「それは、ありがとうございます」


 まさか王族からそんな言葉が紡がれるとは思わず、カインの顔は綻ぶ。だが、決めたことは揺るがない。

 

「ですが、俺の意思は変わりません。また何かあれば、お手伝いをしようと思います」


「そうか。なら右腕の事もあるから、当分は静養するといい」

 

 右腕の怪我がある以上、完治するまでカインを何かしらの仕事をさせるつもりは全くない。

 これで会話は終わりという空気が流れるが、カインにはまだ聞きたいことがあった。

 

「一つお聞きしたいんですが、フィラルシア様はご無事ですか?」


 カインはフィラルシアを救出して城に送り届けて以降、彼女とは全く会っていない。

 城には王族の謀反を考えている大臣もいる。城が安全、という訳ではないのだ。あの肉の化け物という異常事態が起きたからこそ、騒動の裏で動いてもおかしくはなかった。

 

「フィラルシアは無事だ。ただ、大臣が死んだ」


「は?」


 何故? という言葉が頭に浮かぶ。死ぬ理由が全く見えない。

 ラディアント第一王子が殺した、というのなら分かるがまず殺すだろうか? 捕まえるのなら別だが。

 

「騎士にやられていた。カインが肉の化け物を倒した後だ、騒ぎが起きて駆け付ければ複数の騎士が大臣を殺す場面に遭遇した」


「何故殺されたんです? 騎士の中に王族に忠誠を誓って暴走した人間がいるとか?」


「その逆だ。殺したのは大臣派の騎士だ」


 本当にもう、何が何だが分からなくなった。カインの足りない脳では、もうパンク寸前だ。

 何故大臣派の騎士が殺すのか、その理由が見当もつかない。

 

「理由は簡単、大臣が裏切ったから、という事らしい。何でも、カインを殺そうと暴走した騎士を、大臣が密かに殺そうとしたらしい。それを知った騎士達の犯行だ」

 

 ラディアント第一王子が喋る最中、カインの脳裏にはレストの面影が脳裏にチラつく。

 レストは憎んでいた。国を、そして父である大臣を。自分が外に出られない以上、何かしらの策は打つはずだ。

 自分が死ぬことも計算して、ここまで策を考えるのはそれほどの憎悪があったらしい。

 

 

 

 ラディアント第一王子の用事が終わり、カインはフィラルシアの所へ会いに行こうか迷っていた。

 そのまま会いに行けばいいのだが、護衛をこちらの都合で辞める手前会いに行くのが気まずい。

 

 どうしたものか、と悩んでいると正面からティシアが近づいてくる。

 彼女はカインが目の前にいる事に気づくと、顔を俯かせて少しばかり歩く速度が速くなった。

 

「久しぶり」


「心配したんだぞ。最後に会ったのは、一週間ぐらい前か」

 

 軽い挨拶をするように右手を小さく上げて挨拶をしたカインだったが、ティシアはカインの胸に身体を預けて両手をぽふっと優しく叩いた。

 声は涙声で、鼻をすする音も聞こえる。

 

 泣いている、と分かった時にカインはそれだけの事をさせてしまったと気づく。

 

「ごめん」


 両手をティシアの背中に回して抱きしめる。

 今のカインにはそんなことしかできなかった。それで彼女の悲しみが埋まるというのなら、カインはずっと優しく抱きしめ続けたであろう。

 

 キャー、と遠くから女性の甘い声が聞こえる。

 ティシアもその声に気づき、顔を上げて声のする方を見ると女性の使用人達が何やら盛り上がっている様だ。

 それが何なのか、二人はすぐに気づく。

 

「ちょっと、外の風を浴びようか」


「ええ、そうね」


 少し早口で二人は会話する。その顔が真っ赤で、身体も異様に熱かった。

 二人が訪れたのはバルコニーだ。外を一望できるそこは、本来なら煌びやかな貴族街がみえているはずだ。

 だが、今見えるのは肉の化け物の残骸が広がる貴族街の光景である。

 

「酷いもんだな」


「そうね、連絡を寄越さないあなたも酷い物だけど」


 カインは外を見える町についてコメントしたのだが、ティシアは違う。

 彼女はまだ、カインが連絡をしてこなかったことに怒っている。

 泣いている時は落ち込んでいて他の言葉が出なかったが、バルコニーまでの向かう道のりで心配する気持ちより怒りが上回ったのだ。

 

「それは仕方がないだろ。あの後、俺は五日ぐらい寝込んだんだから」


 カインは肉の化け物との戦いによる疲労、そして怪我で五日も寝続けた。

 そのため、戦いが終わってすぐ連絡ができなかったのだ。

 しかし、起きてすぐラディアント第一王子の使いが来たため事情は知っているはずである。

 

「それは知ってます」


 知ってて何で怒るの!? という心の声が漏れそうになるが、お口チャックして決して言わないようにする。

 言えば最後、めんどくさい事が起きるのは容易に想像できるからだ。

 

「ええ、分かってるんです。だけど、心配するじゃないですか。前も寝込んで、そして今回は五日。本当に死んじゃうんじゃないかって」


 ティシアは、カインを目の前にすると何故か感情のコントロールが出来なくなっていた。

 先程まで、怒る気持ちのほうが割合として大きかったが離していて心配する気持ちが上回り、また悲しみと安堵の感情がごちゃごちゃになって分からなくなり、涙が目から浮かぶ。

 

 そんな姿にカインは密かに慌てる。

 人を殺すスペシャリストであるカインだが、女性を宥める技能については持ち合わせていないのだ。

 どうしようどうしよう、と慌てるカインだが、懐に入れているとある物に気づく。

 

「これ」


 カインは折れた短剣を差し出した。

 

「それは……」


 ティシアはカインが手に持つそれに気づき、言葉が詰まった。

 渡したのはまだ使った事もない、新品のような短剣だ。だが、返って戻って来たのはボロボロでもう使えない短剣だ。

 

「うん、アンシュリーさんから渡された短剣、ティシアのだろう? 返すよ。これがなきゃ、俺は多分死んでいた。だから、言うよ。ありがとう、これのお蔭で今がある」


 肉の化け物は魔力や魔法に反応する。

 短剣以外の武器は魔力を使用するため、気づかれてしまう。この短剣のお蔭で、先制打を決めることが出来た。

 

「そう、良かった。本当に良かった」


 ティシアは涙を流す。

 彼女がこの短剣を渡したのは、一緒に戦えない自分の代わりに使って欲しい、使わなくても一緒に戦っているという気持ちで誤魔化すためだ。

 しかし、ボロボロになった姿を見て自分のした事が無駄ではないと悟る。

 

 カインに渡された短剣を、ティシアは両手でギュっと握った。

 彼の無事な姿、そして彼の声を聞いてティシアは理解する。

 

 ああ、好きになっていたんだな、と。

 

 

 

 冒険者に戻ったが、当分は怪我を治るまで待つ必要がある。

 それまで冒険はお預けだが、治るまで待ち続けるとしよう。

 まだ俺の冒険は終わっていない。

お話はまだ続きますが、一応これで完結ということにさせてもらいます。

理由は簡単で、別のお話を書きたくなりました。その別の作品に関しては既に投稿してますので、もし宜しければ読んでください。

今日に合計二話、明日からいつものように毎日投稿していこうと思います。


これで完結しましたが、皆さん。今まで読んでくれて本当にありがとうございました。

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