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71話 肉の化け物 4

 上半身だけ人型になった肉の塊だが、やる事は変わらない。

 空を飛ぶ騎士相手に迎撃する。ただし、触手はなくなり魔法に変わる。

 騎士相手に撃つ魔法の姿はまさに戦艦。肉の塊から放たれる魔法は爆発するように広範囲に広がり、ギリギリで避けようとする騎士の意表を突く。

 

 空から落とされる騎士達だが、黙って受け続ける訳じゃない。

 遠くから砲撃していた騎士達が支援に回り、障壁を展開して防いでいた。

 さっきまでならそれで終わりであったが、上半身人型になった肉の塊は違う行動を取る。

 

 魔法を使って、支援に回る騎士達に対して攻撃してきた。

 今までなら射程の外、という事で自由に動けた騎士達も攻撃に晒されれば防ぐか逃げるしかなく、十分に支援を回せなくなる。

 それは空を飛ぶ騎士達の墜落に繋がった。

 

 騎士達が各々で身を守ろうとしていて、それを塗りつぶすかのように防御を上回った一撃をお見舞いしてくる。

 それほどまで肉の塊の脅威は、さっきよりも跳ね上がっていた。

 幸い、魔法に反応して攻撃しているため、狙いは騎士達に繋がり町の方には被害が全くない、といっていもいい。

 

 その事に気づいたのは変化してすぐだ。魔法を使わなければ、狙われない。それは冒険者にとっては好機だ。

 魔法を使える冒険者はいるが、使えるのは少数。基本的に使える者は少なく、ほとんどが魔石による魔力タンクから道具を使って魔法を使っていた。

 

 その道具を使う事で魔法を再現しているのだが、肉の塊に使えば狙われてしまうため使うことが出来ない。

 しかし、そんなことで冒険者達は挫けない。彼らは今まで自分の身体を使って稼いできた。いつもと全くもって変わらないのだ。

 

 カインやライアンも同じだ。カインは魔法を使うが、魔法がなくなって戦える。ライアンも魔法の付与された鎧を身に着けているが、なくなったって戦える。

 二人は協力して戦っていた。

 

「ライアン!」


 先を走るライアンにカインは声を荒げる。

 槍で攻撃しようと考えていたライアンであったが、カインに呼ばれて振り向き、何をするか理解した。

 肉の塊に背を向け、腰を落とす。両手を組み、手の平で天に向ける。

 後ろを走っていたカインがライアンに近づくと、跳んだ。大きく弧を描くように飛ぶカインの着地の先にあるのは、ライアンの組んだ手の平があった。

 

 ライアンの両手に、カインの全体重が乗る。

 手の平だけで大人の体重を支える、というのは厳しく手が解けそうになるが、今まで傭兵として戦ってきたライアンはその程度の事で手を解いたりしない。

 

「ふんッ!」


 振り回すように、ライアンはカインを乗せた両手を大きく空高くに放り投げた。

 ライアンの膂力は凄まじく、予想よりも高く飛んでしまいカインは驚きを隠せない。

 予想を軽く超えるライアンと協力できることが、カインは頼もしかった。

 

 空高く飛んだカインは少しばかり攻撃方法を戸惑う。

 今手持ちの武器のほとんどが、魔石を使用する。それは肉の塊に狙われるという事であり、他にあるものといえばティシアから渡された短剣だけ。

 それをこんな所で使えばいいのか、と思うと逡巡していると真下から何かが飛来する。

 反射的に思わず掴むと、それは槍だ。真下を見ると、槍を投げたライアンがサムズアップしていた。

 

 使え、という事だ。そのライアンは槍がなくなった事で素手で肉の塊を殴っている。

 膂力が強い為か殴ると肉の塊の壁を貫通してし腕が埋まってしまい、中が気色の悪い感触にうわ、と声を上げた。

 槍を受け取ったカインだが、重い槍に上手く扱えないでいる。

 暗殺者であるカインはそこまで筋肉がなく、今まで使っていた武器も魔石が内蔵してある物のため、見た目以上に重い訳ではない。

 

 このままでは宝の持ち腐れだ。槍を渡してくれたライアンに申し訳ない。カインが取った行動は簡単だ。

 槍を突き刺した。それにカインはぶら下がる。

 切れ味が良いせいか、突き刺した槍はカインの体重も相まって真下に斬り裂きながら落ちていく。

 

 真下に降りた先には、殴り続けていたライアンがいる。

 

「ほい」


 使わなくなった槍をライアンに渡した時だ、強力な魔力に空気が揺れる。

 肉の塊ではない。

 騎士団長のフェルティオールと学院長のリーシア、二人による魔法だ。

 空気を震わせる魔法に肉の塊も脅威と認識し、空にいる騎士に迎撃した魔法を二人に集中させる。

 

 弾幕のように、一ヶ所に集中して砲撃する魔法に二人は為す術も崩れ落ちるだろう。

 空気を震わせるほどの魔力というのは、魔法に集中ことでありそれだけ強力な魔法だ。防御に割く余裕がない。

 それを分かって、支援に回っていた騎士達が障壁を展開した。

 

 騎士達が集まって展開する何重もの障壁の壁は分厚く、一撃では崩れない。しかし、一ヶ所に弾幕のように魔法を砲撃する肉の塊に少しずつ、少しずつ騎士達は崩れていく。

 それを黙っている見ている冒険者や騎士ではない。

 魔法を解禁し、至る所から肉の塊に向けて魔法が嵐のように吹き荒れる。

 

 しかし、それでも肉の塊は止まらない。

 このままいけば二人が倒れる未来が見えた時だ、それは屋根の上を走って肉の塊に近づいていた。

 

「なんか帰って来たらデカブツいるし、何あれ? 前に戦ったやつの進化系?」


 剣を片手に疾走するのはフォーリン。仲間であるリンジャオが城に行っている今、彼女はこちらを任された。

 指示したのは魔法使いのテリアスであり、内容は至極簡単。好きなように暴れなさい、という馬鹿なフォーリンでも分かるものだ。

 

 そのためフォーリンは人型目掛けて走っていた。

 近づくまで極力、魔法を発動させるのは控えている。理由は彼女からすれば、勘という一言で片づけるだろう。それほどまでに使ってはいけない、と嫌な予感がしていた。


 だが、近づいてしまえば変わる。

 フォーリンは魔法を解禁した。

 右手の剣に電撃が走る。青く迸る電撃は全てを焦がし、薙ぎ払う強力の一撃。

 それを一瞬で、且つ練り込んだ魔力を剣に乗せてフォーリンは跳んだ。

 

 目の前に迫る肉の塊、上半身人型にフォーリンは剣を振り下ろす。

 

「ビリビリのドッカンカーン!」


 天から降り注ぐ雷のように見えるフォーリンの一撃は、肉の塊を仰け反らせる。

 雷に表面を焼かれて黒く焦げ、中にも深刻なダメージを与えていた。

 仰け反った事で肉の塊は魔法を中断し、大きな隙を見せる。

 復帰してまた魔法を発動するが、その隙は二人に貴重な時間を与えてしまう。

 肉の塊が魔法を発動させるよりも先に、二人の魔法が発動した。

 

 フェルティオールが発動した魔法は、先程と全く同じ魔法だ。空から降る光の柱。しかし、前よりも範囲は小さくなり、触れた物全てを焼く。

 リーシアが発動して魔法は青い炎で、肉の塊をこんがりと焼いていく。時間が経っても消えない、永遠と炎に焼かれる感覚を味わう。

 

 光の柱は上半身人型の右肩を抉り、青い炎は肉の塊全て燃やす。

 もがき、苦しむ肉の塊だが全方位に魔法を放つ構えを取る。

 騎士、冒険者は身構えるがそれは杞憂に終わり、逆にそれの行動が理解できなかった。

 肉の塊の魔法は、自身に撃った。全方位から爆撃するように放たれる魔法が自分の肉体に降り注ぎ、肉の塊の肉片が魔法による爆発で飛んでいく。

 

 何度も続く魔法による爆発が終わった時には、青い炎は消えていた。

 リーシアの魔法を、自分の肉を吹き飛ばすことで無効化したのだ。

 

 それでも、肉の塊は止まらない。逆に、動き出してしまう。

 芋虫のような動きで、這いずるようにゆっくりとした動きだが巨体故に移動する距離は大きく、城に向かって近づいている。

 

「やばいな、これじゃあ止まらんぞ」


 二人の魔法でも止まらない肉の塊に、恐怖さえ感じる。

 死なないのではないか、と考えてしまうがいずれ止まるはずだ。そう思わなければ、明日へ進めない。

 あれだけ攻撃して、削って、それでも尚動く肉の塊に騎士や

 冒険者の中には諦める者もいた。


 もう無理だ、と諦める者もいたがカインは止まらない。

 城には短い期間だが一緒にいた知り合い達がいる。彼らを見殺しにするほど、カインはゴミ屑ではない。だが、一人で出来る事を限られている。


 そのためにも――。

 

「協力者がいる、でしょぉ?」


 振り向くと、そこには魔法使いがいる。

 未成熟な身体だがミステリアスな顔つき、というアンバランスな女性のテリアスだ。

 

「ああ、手伝ってほしい」


「いいわ。私一人でも、倒すことは無理だしぃ。それで、何をすればいいの?」


「俺が決める。だから、大きな一撃を」


「ふぅん、面白そう、ね」


 シリアスは艶やかに、仄かにほほ笑んだ。

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