70話 肉の化け物 3
昨日、投稿出来なかった分です。仕事が忙しく、投稿できずすみません。
カインがフィラルシアを城にまで送り届けた後、肉の塊に向かって走っていた。
騎士達が既に集まっていて、遠くからでも戦っているのが見える。
人を殺す事に関しては最強であるカインだが、化け物を相手にするのは少し苦手だ。
それでも、目の前の危機に対して無視することはできない。そんな時だ。視界の端に騎士に連れられて一人の女性が現れた。
「あなたは……」
「あら、お久しぶり」
魔法学院の学院長であるリーシアだ。
前回、誘拐されたフィラルシアを城に送り返すために協力してもらった事がある。
この場に来た、という事はあの肉の塊を倒すために来たというのはカインでもすぐに理解できた。
「あなたもあれを倒しに?」
「ええ。ただ、魔力がもうないので戦える自信はありませんけど」
レストの戦いで魔力を使い切った今、カインの戦闘の力は大きく激減した。
それだけ、魔力の有無の差は大きい。
「そう」
魔力がない、と聞いたリーシアは何やら思案顔をしてすぐに判断した。
「ねえ、背を向けて貰える?」
「背?」
「私の魔力の一部を渡すわ。これで戦えるようになるはず」
「それはなんというか……」
願ったり叶ったりの状況だ。
魔力がないカインからすると、否定する気持ちにはなれない。
素直にお礼を言ってカインはリーシアに背を向けると、その背中にリーシアは右手で触れた。
その右手からポカポカした温かい何かが、入ってくるのをカインは感じる。
「魔力の量、少ないわね。なら」
カインの悩みである魔力の量、それが少ない事を感じたリーシアは少しばかり工夫した。
ただ魔力を渡すのではなく、圧縮して濃密になった魔力をカインに渡す。
そうすることで渡す魔力の量は同じでも、実際に魔法を使うといつもより長く魔法が使えるようになるのだ。
その感覚がなんとなくだが、カインには分かった。
「前回助けてもらったお礼、普通はこういう事しないのよ」
お茶目に言うリーシアだが、まさにその通りなのだ。
魔力量が同じでも他の人よりも魔法の回数を増やす方法、それは圧縮であり秘密するべきほどの技術である。
それをカインに教える、というのはリーシアからすれば助けられた時のお礼がフィラルシアを城に送り届ける、という行為だけでは不十分と常日頃思っていからだ。
魔力を渡した時、カイン少ない魔力を知って魔力圧縮の秘密を教えた。魔力の少ない人間がもし魔力の圧縮を知らない場合、考える事は魔力の消費を抑える魔法を考える。
それも限界があり、カインはその限界の壁にぶつかっていた。
リーシアから魔力の圧縮を教えられた今、カインはさらに一つ階段を上る。
カインは肉の塊にまで接敵すると、跳んだ。
そのままだとぶつかってしまうが、壁を走って登るように駆け上がっていく。
しかし、それにも限界がある。
足場なければ厳しいが、肉の塊には足場になるような部分が全くといっていいほどない。
幸い、肉の塊は見た目からしてぶよぶよとゴムのような感触がしそうだがそんなことは一切なく、まるで石のように硬かった。
それほどまでに凝縮しているということだ。
足場のない肉の塊に、カインはただ落ちる未来しかなかった。だが、魔法がある。
影魔法を使って足場を作り、カインは駆け上がっていく。
この手法はよく使う手だ。どこかの建物に侵入する時など、壁に足場を作って上る。あとは足を固定してそのまま貼り付く、ということもできる。
そのため、カインにとってはこの程度、造作もなかった。
カインが上る時空や遠距離から騎士達が魔法で砲撃を行うが、上手く当たらないように調整してくれたため無事肉の塊の頂上にまで上り詰める。
「さて」
特に理由があって、カインは一番上にまで上った訳ではない。
ただ、やってみたかったのだ。リーシアから貰った魔力、そして圧縮された魔力でどこまでできるのかを。
今まで、カインは魔法を使う時は極力必要最低限しか使ってこなかった。
それで長期戦を乗り切って来たが、それでも限界があった。だが、今は違う。
増えた魔力がカインをなんでも出来る、という向上心の塊にさせた。
「派手に行ってみよう」
カインが使える武器は現状、魔法刃のあるブレスレットしかない。それも先の戦闘でかなり使用したため、魔石の魔力は心もとない。
影収納で収納している武器を使うという手もあるが、何が出てくるか分からないビックリ箱であるため、使うのは引けた。
残された選択肢は魔法しかない。
影魔法で右手の甲から鉤爪を伸ばす。
三本の鉤爪は天高く掲げる、肉の塊を斬り裂いた。
その一撃は深く、鉤爪は斬り裂いただけでもさらに影が射程を伸ばし、予想以上に斬り裂いている。
「やばいな、これは……」
少しばかり、魔力の消費を抑えただけでこれだ。予想以上の成果に、カインは魔法を行使することに興奮を抑えきれない。
さらに魔法を行使しようとすると、カインに影が刺す。
ここは一番高く、影が刺す事は雲以外にない。
振り向くと、そこにはカインに今でも襲い掛かろうしている肉の触手が三つほどあった。
気づいた時、それは肉の触手がカインに向かって飛び出す。
正面からの衝突は肉の塊の質量が繰り出されれば、骨が折れるのは容易だ。当たれば、ただでは済まない。
カインはギリギリ所をなんか器用に躱し、さらに肉の触手から出来た影を使って影縛りを使い、肉の触手同士で縛る。
右手を前に伸ばして握り潰すように閉じると、影縛りは拘束を強めて肉の触手を絞め殺す。
絞め殺して肉の塊の上に落ちる肉の触手であるが、拘束より下の肉の触手はまだ動いている。
痛みがないのか、先程までと同じ動きをしていた。
「これをどうやって倒す? 全て斬り落とす、とかだと手が負えん――あ……」
避けて動いた先、それは空の上であった。
カインは足を踏み外し、真っ逆さまに落ちる。影魔法を使えば無事なのだが、肉の塊はそう簡単に見逃さない。
「おいおい……」
迫る肉の触手にカインはゾッとする。
カインを狙う肉の触手は十を越えており、流石のカインでもどうしようもできる数ではない。
そんな時だ。遠距離からの支援が、肉の触手一つを破壊する。
騎士達による援護だ。
助かる、と心の中から感謝しながらカインは魔法で避けつつブレスレットの魔法刃を起動させて斬りかかる。
騎士達の援護があるおかげで首の皮一枚繋がっている状況だが、それも少しの事で変わってしまう。
何より、空から落下しているというこの最悪の状況を変えない限り好転しない。
肉の塊を上った時のように、影魔法で足場を作って降りることはできるが、その場合影に触れている物が地面と接している必要がある。
接していなければそのまま地に落ちるだけであり、そこら辺は他の魔法と比べて融通が利かない。
所詮、影。何か他の物がないと共存できないのだ。
肉の触手の影を使うこともできるが、高速で迫って来る肉の触手から影を伸ばせばそれに引っ張られてしまい、何が起きるか分からない。
極力、動かないものが好ましい。そうすれば影も動かない為、操作がしやすいという利点がある。
襲って来る肉の触手の群れをなんとか潜り抜け続け、地面がもう少しという所まで迫って来ていた。
このままいけば頭から地面に落下し、赤い花が地面に咲いてしまう。
着地の為にカインは影魔法の発動に僅かに意識を向けていると、その隙を突いて肉の触手が迫る。
しまっ――。
僅かな一瞬の隙を突いて迫る肉の触手に、カインは反応が遅れてしまい、避けようとするが肉の触手に捉えられてしまう。
来るであろう痛みの覚悟を決めた時、
「せーの!!」
どこからともなく飛んできた男の一閃が走る。
カインに触れる直前に肉の触手は両断され、地面に落ちていくのが見えた。
その落ちる肉の触手よりも、カインは助けてくれた命の恩人に目が離せない。
来てくれた事への感謝。そして、助けてくれた相棒が目の前にいる事の嬉しさ、そし心強さ。それがカインに力をくれる。
「助かった、ライアン」
「いいってことよ。それよりも、珍しく困ってるな」
「化け物退治は俺の専門外だからな。元傭兵の強さを期待してるぞ?」
「俺も人専門なんだがな」
僅かな会話、それだけでカインはいつもの調子を取り戻す。
ライアンが来てくれた事でカインの周りにいた肉の触手はほぼほぼ一掃し、無事に着地する事ができた。
影の柔らかいマットのように二人の落下した衝撃を殺し、お蔭で足腰を傷めずにすむ。
ライアンに遅れて、冒険者や多くの騎士達がゾロゾロと集まって来る。
彼らは東の町の遠征に行っていた者達であり、王都から離れていたため戦いに参加するのが遅れた。しかし、戦いに参加したことでこの戦いは負けない戦いになる、はずだった。
幾たびの魔法を受け、肉の塊は成長を見せる。
魔法を脅威と感じた肉の塊が取った行動、それは自分も同じように魔法を発動させること。
しかし、それは障壁の展開で失敗に終わる。
その上で肉の塊は変化した。
もっこりと一部分だけ膨らんでいた所がさらに大きく、横長になり、姿形が縦型だった塔から横の四足歩行のように変わる。
それはさらに足場となる建物が被害になる、ということであり巻き込まれそうになる騎士や冒険者が逃げるが巨体故に範囲は大きく、逃げ遅れて踏みつぶされてしまう者もいた。
横に大きくなった肉の塊はさらなる変化を見せ、膨らみが花のように咲いたと思うと中から上半身裸の人が生まれる。
大きさにして三階建ての家と同じくらいであり、もし拳を振り下ろせばそれだけで災害になるほど。
肌は肉の塊と同じように人の顔が無数にあり、肉の塊から生まれた人型の顔はのっぺりとしている。ただ、どこかレストの面影があるように見えた。
魔法への脅威を感じた肉の塊は、もっとも脅威となる魔法を扱える姿に変化した。
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