69話 肉の化け物 2
肉の化け物が出て、真っ先に向かったのは野次馬ではなく騎士団の騎士達だ。
今日に大臣の家を家宅捜査する予定だったため、いつもより早く着ていた。それが幸いし、騎士団は肉の塊が出てきた時にいち早く到着することができた。
「これは、大物ですね」
「そうだな」
見上げる副団長に、騎士団長のフェルティオールは答える。
ここまで大きい魔物を騎士団でも戦った経験はなく、まして目の前に城がある。傷一つ、付けるわけにはいかない。
肉の塊は現れてから何故か動かず、触手がうにょうにょと揺らいでるだけだ。
このまま何も動かないなら、という希望的観測は存在しない。
倒すのが一番だ。だが、それ以上に騎士団はやるべきことがある。
「副団長は貴族街にいる人達を非難させろ」
「分かりました。どこに避難させますか?」
「城でいい。あそこが一番頑丈だ」
「いいんでしょうか? 勝手に決めてしまって」
「構わん。責任は私が取る」
そこまで言うフェルティオールに覚悟を感じた副団長は分かりました、と頷いた。
「少し貰っていきます」
「ああ。それと、一人だけ魔法学院の学院長のリーシア殿を連れて来てくれ」
騎士団長のフェルティオールでも、倒せるかどうか怪しい。
そのため、出来るだけ戦力が欲しかった。
騎士団の半数が東の辺境に遠征しているため、まず騎士団の数が少ないのもある。
その遠征には名のある冒険者もついて行っているため、この町にいる人間の中で戦える者は限りなく少なかった。
少しでも戦える者は使いたい。
副団長と騎士数人が離れていくのが見え、残った騎士は両手の指で足りるぐらいの数になってしまった。
「騎士団長、どうしますか?」
「この数では倒すことはまず不可能だ。時間稼ぎをするしかあるまい。もう少しすれば東の町に遠征してきた騎士達も帰ってくる。それまでの辛抱だ。だが、それまでただ待つというのは騎士の名折れだ。削るぞ」
「はい!」
騎士達は返事をすると、魔法を使って空飛ぶ馬や鳥に乗って飛び上がる。
空を飛ぶ者達は空から攻撃を加え、地上にいる騎士達は遠距離から魔法による砲撃を試みた。
空から、地上から炎や氷、水や風といった魔法で攻撃していくが肉の塊はビクともしない。
逆に、それが刺激となってか肉の塊は触手を伸ばして攻撃してくるものに反撃する。
鞭のようにしなる肉の触手が空を飛ぶ騎士に攻撃するが、空は自由自在に動いていとも簡単に避ける。
地上から遠距離砲撃に関してはそもそも距離が遠すぎるせいか射程の外らしく反撃してこない。
削る騎士団ではあったが、肉の塊はその見た目故に硬いのか削っているようには全く見えなかった。
本当に肉の塊を相手にしているようだ。
そのため、フェルティオールは魔力を練っていた。
右手に握った光の剣に魔力を集中し、仁王立ちしている。
フェルティオールが攻撃をしていないため無害と見られているのか、肉の塊は空を飛ぶ騎士に対してばかり反撃していた。
「収束せよ、光の渦」
集まった魔力を解き放つ時が来た。
光の剣は神々しく輝き、暗闇が晴れるほどの輝きをしている。
それを放てば、壁などまるでバターのように溶けてしまうだろう。
しかし、フェルティオールの魔法は一点に集中しただけ。
そのまま放っても範囲が小さすぎて大きい相手には被害が少ない。
そのためさらに一工夫を加える。
神々しく輝く剣を真上に突くように伸ばした。
「放て、閃光の一撃。シャインドロウ!」
光の剣から放たれた閃光は光の速さで空に飛び上がり、そして消える。
フェルティオールが先程まで握っていた光の剣も消え、無手になっていた。
不発、という言葉が過る僅かな時間、肉の塊の上から閃光が降って来る。それだけではない。
肉の塊と閃光の間に大きな円形の魔法陣があり、閃光が触れて通り過ぎた時に大きさが増幅し、魔法陣より少し小さい程度の大きさになった。
落ちる閃光の柱は肉の塊を飲み込み、跡形もなく焼くほどの高熱が生じる。
振り落ちた光の柱は十秒以上続き、消えた時には肉の塊の表面は黒く焦げていた。
触手は炭となってボロボロと崩れ落ちていき、効果が絶大なのは目に見えて分かる。
このまま倒れてくれ、誰もがそう願うがそれは叶わない。
強力な魔法を浴びた肉の塊は、表面に浮かぶ顔から怨嗟の声が漏れる。ただ、それは普通の恨み言ではなかった。
反響するかのように、山彦のように響く恨み言にフェルティオールは気づく。
「これはまさか、魔法?」
恨み言で発動する魔法など、聞いたことがない。
しかし、感じるほどの増幅されていく魔力。もしこれが王都の真ん中で発動すれば、ただでは済まない。半分が滅びるか、それとも全てを失うか。
「魔法を止めろッ!!」
恐怖が背筋を貫き、魔法を止めるためにフェルティオールは即席の魔法を行使する。
先程の魔法はチャージが必要だ。すぐに発動できるわけがない。
他の騎士達も攻撃するがビクともせず、恨み言はどんどん大きくなっていく。
さらに形も一部変わり、城に向かって肉の塊がもっこりと一部分大きくなり、表面の顔が密集している。
大きなる恨み言に、フェルティオールは防げないのか? と最悪の結末を考えてしまう。
それほどまでに肉の塊は頑丈で、もうすぐ魔法が発動しようとしていた。
もっこりと大きくなった部分の前面に、禍々しいドロドロとした紫色の球体が浮かんだ。
もし放たれれば、浴びた者は苦しみながら生きた屍になり、さらに肉の塊の魔法は爆発する。
一瞬にして死人の国へと早変わりするほどの魔法だ。
なんとか防ごうと騎士達が攻撃するが、如何せん数が足りない。
止めることはできなかった。
肉の塊は魔法を発動し、禍々しい球体は放たれる。
「障壁展開、正十二面体」
禍々しい球体を中に入れた状態で、半透明な壁が肉の塊を覆う。
騎士は中に入っておらず、禍々しい球体はそのまま半透明の壁にぶつかる。
障壁が大きく揺れ、低く小さい爆発音が長い間響くが衝撃は外に全く漏れなかった。
中は禍々しい球体が飛び散った液体で溢れており、それが一瞬で毒だと分かるほど禍々しい代物だ。
直接浴びた肉の塊だが、何かしらの異常を起こしているようには見えず、全く以て無傷である。
「危ない所でしたね」
後ろからそう言って近づくのは幼い顔つきだが大人びた雰囲気を持つ女性、魔法学院の学院長であるリーシアだ。
「助かりました。恩にきります」
「こういうのはお互いさまですからね。それで、あれは倒せそうですか?」
リーシアが指差す先にあるのは勿論肉の塊だ。
肉の塊が浴びた禍々しい液体蒸発したのか消え去り、リーシアが展開した障壁も消えている。
騎士達は再び肉の塊を削る作業に入っていた。
「難しいですね」
そう答えるフェルティオールの顔は、苦虫を噛み潰したよう顔をしていた。
「まず数が足りないです。それが一番だ」
「数、ですか。ならとっておきを持ってきましたよ」
「とっておき?」
誰だ? と疑問に感じた時、それはフェルティオールの横を通り過ぎて肉の塊に向かって疾走していく後ろ姿が見えた。
「あれは?」
「影の王、といえば分かりますか? 彼が丁度いたので助けてもらうことにしました。それと、遠征中の騎士団と冒険者も転移魔法で近くまで運んでいるので、もうすぐ到着すると思います」
思わぬ吉報に、フェルティオールの顔は綻ぶ。
「そうですか、それは良かった」
安堵の息を吐き、この先の戦いの終わりが見え始めていた。
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