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66話 王女開放戦 6

 首を断つための一撃。それは相手の魔法によって防がれた。

 背中に生える四本の腕。左右の肩甲骨より少し下、腰の少し上から生えた氷の腕から伸びる剣によって、完全に防がれる。

 虚を突いた一撃だ、確実に殺せた、その経験則がカインにはあった。しかし、防がれてしまう。

 

「自動防御、か」


「よく知っているじゃないか。俺がこうして隙を見せると殺しに来ると思っていたよ。今は特に時間が惜しいだろうからな」


 痛い所を突かれ、カインは内心舌打ちをする。

 現状、カインはフィラルシアが殺されるよりも先にやる必要があった。

 早く殺したいカイン、そして時間を稼げばいいレスト。

 必然的にレストが守りを固めるのは当たり前だ。

 氷の騎士によるリソースで魔法が使えない、そう思っていたが一部を消したらしい。

 そうすればその空きで魔法を使えるし、さらに言えばフィラルシアを追うのにそう多くを必要しないのだ。

 

「そうかい。なら、こちらも出し惜しみはなしだ」


 影魔法、隠密魔法全開。

 カインは気配を消す。それは隠密魔法によるものだ。

 さらにレストを中心に至る所に人の気配を生み出し、影魔法で相手の動きを一部封じる。

 

 もし破壊されても新しく生み出して嫌がらせをする、という事を何度も繰り返す。

 隙を見ては襲い掛かるが、それでも氷の腕による自動防御の壁は硬い。

 魔法による自動防御は、魔力を消費する代わりに買ってに防衛してくれるという利点があるのだが、欠点もある。

 自動防御では対応できないほどの速い攻撃、もしくは防ぎきれない力。そして手数。

 

 カインは拘束による手数で、なんとかカバーしていた。

 しかし、それも限界はある。手数でなんとかカバーしようと、四肢を拘束して氷の腕を拘束して、一撃一撃を確実に与えていく。

 

 足首の骨を折ったのも良い。お蔭で相手は十分に動くことが出来ず、防戦一方だ。

 何か一つ、少しでも変わればこの均衡した状況は崩れる。

 カインは今、それを待つという時間があまりない。故に自分から変化を起こす。

 

 カインが隙を狙い、後ろの腕一本と左腕を拘束した。拘束の力は弱く、振り解くのは容易だ。

 しかし、その振り解くという動作をするだけでそれは隙となる。

 振り解こうとしたレストに、フードで顔を隠したカインは正面から剣を持って飛び掛かった。

 

「もらったッ!!」


 残り三本の氷の腕がまだ自由だ。しかし、カインはそれすらも無視する。

 自分は死んでもいい。斬られても良い。次に繋げればそれで。

 カインはレストに向かって剣を振り下ろすが、それは触れることなく止まる。

 斬るよりも先に、三つの氷の腕がカインの腹を突き刺した。

 

「もらった? 馬鹿が、その程度防ぐことはできる。自分に過信したな」


 勝利の笑みをレストは浮かべるが、それはすぐに歪む。

 腹を突き刺さったカインが、剣をレストに突き刺したのだ。

 右肩に刺さり、顔は痛みで歪み唸り声を上げる。

 

「貴様ッ!」


「馬鹿め」


 それを最後の言葉として、カインはレストの氷の腕から伸びる剣で引き裂かれる。

 引き裂かれた身体からは臓物と血がシャワーのように降り注ぐ、そのはずだった。降り注いだものは何もなく、影のようにカインは霧散した。

 散ったのはカインが着ていた上半身の服とフード付きマントが散っただけだ。

 

「何が?」


「貰い!!」


 カインを引き裂いた直後、自動防御が反応するよりも先に闇の中から現れたカインが、氷の腕三本を魔法刃で両断する。

 斬り飛ばされた氷の腕は地面に落ちると、氷細工のように儚く散った。

 

「何故だ? 今さっき斬ったはずだ」

 

「あれか? 俺の影さ。誤魔化すために服を着せた」


 新しく現れたカインはインナーの上に鎖帷子、だけでインナーの上から着る物を着ていない。

 影魔法による影分身。便利ではあるが影であるため、黒いのだ。

 普通に顔を見たら黒いためバレるのだが、ここは地下で明かりは一つ。それも遠いため、気づくことは難しい。

 

「本命は潰せた。あとは再生する暇も与えずやるだけだ」


 カインの本命、それは自動防御する氷の腕だ。あれがある限り、カインはレストを殺すことができない。

 だから一芝居した。敢えて自分を殺すように見せかけて。

 おかげで自動防御の反応が遅れた。

 

 残った腕左下部の腕だけ。一本だけなら、まだ自動防御されてもなんとかなる。さらに、右肩にも剣を刺しているため、動かすだけで痛みが生じるはずだ。

 剣を抜く余裕をカインは与えない。

 

 レストとの間合いを詰めるカイン。しかし、レストは笑みを浮かべるほどの余裕があった。

 こちらにはまだ影魔法による拘束で、相手の動きを封じることができるというのに、レストの笑みが逆に不気味でしょうがない。

 

「負ける、か。それはお前のほうだ。影の王」


 その言葉を最後に、この部屋から明かりが消えた。

 レストには秘策があった。カインを倒すための秘策が。

 それはカインの魔法である影。それを封じる為のものだ。

 前回、戦った時月の光が運良く消えた。お蔭でレストはカインを倒すことができ、この事を踏まえて氷の騎士一体を明かりの近くに配置しておいた。

 

 あとはタイミング次第で明かりを消せば完璧だ。

 隠密魔法があっても、氷の腕による防衛が間に合う。

 さらにいえば、今カインは近づいて来ている。明かりを消してすぐ、移動してもそう遠くはいけない。

 遠くに移動する魔法を使っても、その間は大きな隙だ。

 

 もらった、とレストの直感はそう訴え、カインが先程いた場所に襲い掛かる。

 これで終わりだ!! 喋れば位置を晒すことになるためできず、内心雄たけびを上げるように吠えながら斬りかかり、何か床に石が落ちた音が響いたと理解した時には視界が白一色に染まった。

 

 黒い世界から白い世界に染まり、周りが全く何も見えない。

 それが異常なのは、レストは分かっていた。だが、何故そんな事が起きたのか全くもって分からなかった。

 

「俺が前回と同じミスを犯すと思うか?」


 白い世界からカインの声が聞こえた。

 カインも又、こうなることは読んでいた。地下で明かり一つ、まるでそうすることをすると事前に訴えているような。

 だから明かりを消された時、アンシュリーに準備してもらった魔石を地面に叩きつけた。

 

 強い衝撃に魔石は反応し、中にある魔力が発散してそれは明かりとなる。

 視界を覆い潰すほどの明かりは数秒続き、カインはやる前に目を閉じていた為被害はあまりなかった。

 だが、レストは目を開けていたため正面から浴びる事になる。

 

 眩い閃光は立ち眩みを起こすほどで、その隙をカインは見逃さなかった。

 

「これで、最後だッ!!」


 魔法刃による横薙ぎの一閃。それを氷の腕は防ごうとする。

 宿主は眩暈がしているが、自動防御の恩恵だ。ただ、それは既に分かっていた。

 影の拘束が氷の腕を掴もうとし、半ばで止まり霧散していく。

 

 魔力切れ!? こんな時に。

 隠密魔法と影魔法による同時使用、それが魔力の消費を大きくしていたようだ。

 予定なら影縛りで氷の腕を拘束して斬る、という予定だったが狂ってしまう。

 

 魔法刃と氷の腕から伸びる剣がぶつかり合う。

 右腕を強く押し込んでいるのだが進まず、びくともしない。

 早くしないと、姫様が。

 こうしている間にも、刻一刻とフィラルシアを狙う氷の騎士の魔の手が迫っているのだ。

 

 躊躇することはなかった。左手で右肘を掴み、両腕全力で振り抜く。

 

「おらぁぁぁぁぁぁぁああ!!」


 氷の剣は両断し、レストの胴体が二つに分かれた。

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